Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

食料自給率と農民①

2009-01-05 20:15:08 | 農村環境
 『日本の民俗 2山と川』(2008/12吉川弘文館)へ執筆された方から年賀状をいただいた。そこに「食料自給率を上げるというけれど、いったいどうすりゃいいんでしょうね」という言葉が書き添えられていた。この国で最も根源的な課題となるのは食料を供給している者、いわゆる農業従事者がいかに供給しえるかということにつながるのだろう。よく言われる40%という食料自給率はカロリーベースである。これは国民1人1日当たり国産熱量を国民1人1日当たり供給熱量で割ったものであくまでもカロリー値の数値であって、実際の食料、たとえば重さとか栄養といった視点ではない。もちろんカロリーの低いものをいくら自給率を上げたとしても、カロリーベースの自給率は上がらないということになる。野菜や果樹については同じ重量でもカロリーが低いことから自給率に影響しにくい。ようはカロリーが高いものをいかに自給することによりその数値が上がるかということになる。したがって40%だからといって国内生産物の自給率が単純に低いとは言えない。これは日本人の食料環境とも関係するだろう。かつてのようにカロリーの低いものばかり食していた日本人であれば、もう少し食料自給率は高かったのかもしれない。ところが欧米化した食事情にもよるだろうが、メタボ化している日本人は1日あたりのカロリー供給量が多くなったともいえるだろう。加えて穀物類の生産量低下がそれを助長した。米はともかくとしてそれ以外の穀物類の自給率はきわめて低い。だからだろう穀物の主要品目に対しての補助が現在は手厚い。転作を推し進めることにより、野菜や果樹といった高付加価値なものへと生産量は転移していった。それはカロリーベースの食料自給率を下げることにもなるわけで、国の補助制度は生産調整以降、自ずと食料自給率を下げる方向だったといえるだろう。さらにいけなかったのは畜産物の問題である。カロリーベースで計算する際に、飼料自給率が輸入量で減じられる。これが大きなマイナス要因となる。今や飼料のほとんどを国外に依存している。100%国内産の肉で供給したところで、このマイナス要因が大きく食料自給率を下げることになる。ただでさえそういう計算がされるのに国外からたんぱく質を輸入しているのだからそのカロリーベース自給率がびっくりするほど低くなることは言うまでもない。平成15年データでは牛肉10%、豚肉5%、鶏肉7%、鶏卵9%という低さである。日本人が明日からいきなり1年間これらの肉を食べなければかなり食料自給率は上がることになるだろう。もっといえば国民みんなが貧乏になれば、自給率は上がる可能性が高いといえる。そしてもちろんのことであるが、食料を捨てていれば、それだけで自給率を下げる結果を招くことも言うまでもない。

 とはいえ、今の農業環境を見る限り国はこれらカロリーベースの自給率に着目して対策を講じているが、そうした部分を意識しすぎているうちに、カロリーベースで低い生産者がどんどんこの世界から減少していくことにもなる。ようは生産額ベースの食料自給率は70%と言われているが、そちらが下がっていくということにもなりかねない。最近地産地消ということをよく聞く。国の食育政策の重点的な視点なのだろうが、国産農産物を自給したところで、飼料をこれほど輸入に頼っている状態ではそれほど目に見えた向上は期待できないのだろう。そのうちに国はカロリーベースよりも生産額ベースの自給率を表面に上げてくるかもしれない。いずれにしても蛋白源である畜産をどうするか、そして食品産業の考え方を改める必要があるだろう。もちろんそこには国民の食生活事情の転換も必要だろう。

 続く
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