Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

不思議な1日

2006-11-14 08:10:30 | つぶやき
 昨日は、いつもとは違う1日だった。自宅から直接現場に向かう。中央高速道路に入ると、異様にペースの速い車が後ろからやってくる。ふだんはそれほど簡単に抜かれないのに、あっという間に接近して抜いてゆく。外車だったから県外車かと思うと「松本」ナンバーである。1台ならさほど珍しいことではないが、次から次へとそんな車がやってくる。みな「松本」ナンバーである。この時間帯にこんなに早く走る車は、そうは見ない。そんな珍しい現象が、稀ではなく続く。わたしも少し後ろを付いてゆくが、ちょっと早い。この日、そんなにスピードを出すつもりもなかたから、すぐについてゆくことは辞めた。

 自分のせいではないものの、出はじめからいつもと違う風を受けると、1日ちょっとちぐはぐであったりする。豊科インターで降りると、国道19号を北進する。雲ひとつない空間に、白くなった山々が目立つ。これほど山々が美しい日は、それほどない。相変わらず国道19号は工事のための片側交互通行が多い。いつもなら信州新町から長野市大安寺経由で中条村へ入るのだが、この日は信州新町と中条村を結ぶ県道に入ってみた。初めての道でもそれほど迷わないわたしだが、珍しく道に迷う。現場についても、重大な事件があったわけでもないのに、いまひとつ仕事への集中力が欠ける。

 そこまではどうということではなかった。
 昼休み、しあわせの鐘公園で昼食をとる。15分間隔でなるしあわせの鐘を二度聞いた。毎回同じ曲かと思っていたら、違うようで、県歌「信濃の国」も流れる。ちょっと一休みでも・・・と思っていたら、年のころ70歳ほどのおじさんがやってきて車の窓を叩く。「ロープはないか」という。いくらなんでもロープは持っていない。話によると、その先の道端で財布と家の鍵を入れたバッグを、落としてしまったという。ロープがなぜ必要かというと、どうもロープがないと降りて行けないほどの場所だと言っている。「100メートルくらいあるといいんだが・・・」と言うが、そんな長いロープは、御柱の時の引き綱を作るときくらいしか今まで見たことがない。すぐそこだというので行ってみた。尾根の頂に道だけが通っている崖地である。右も左も崖である。落としたという場所に身を乗り出してのぞいて見ると、確かに谷が深い。そして、モルタル吹き付けがされていて、その勾配はとても下りられるものではない。おじさんは買い物に中条村の中心へ行く途中だったようだが、「もうあきらめた」というようなことを言う。そうはいっても落とした場所がわかっているのなら、今拾ってあげたい、そう思った。脇の山を降りていけばなんとかたどり着けるのではないだろうか、そんなことを思って試みた。なんとか下に下りることはできたが、そこからまたモルタル吹き付けされた崖を登らなくてはならない。つかまるものが極度に少ないうえに、吹き付けされた上にたまった土で、足が滑る。こんな場所を登った経験はない。それでもそうした土の堆積から生えた木々があって、なんとかつかまって登ってゆく。おじさんが遥か上方で場所を示してくれる。やっとのことでそれらしき場所にたどり着く。

 バッグの色を聞くと「空色」だという。必死になっていたものの、「いいねー、空色かー」などと思わず顔をほころばしていた。懐かしい響きだった「空色」という響きが。土色の中にあればすぐに見つかるが、さすがに険しい万里の長城のような場所だけに、上を通る車がゴミを放るようで、ゴミがたくさん落ちている。そんな風景も久しぶりだった。予想通りの場所にあったバッグを見つけると、ホッとしたものだ。だが、これからだ。この険しい崖を、また登らなければならない。高さにして30メートルくらい、いやもっとあるのだろうか。なんとか登ったが、登りきったときには「ゼー、ゼー」、この日の朝、氷点下になったほどだが、汗たらたらである。もちろん、「お礼を・・・」と言うが、「また落とさないでくださいよね」と丁重に断った。ショルダーバッグを持っていて、その中に入れていたのだろうに、なぜこんな場所でそこから出したんだろう、そんなことを思った。

 何度も通っている場所だったが、改めてそこから虫倉山の方を望んだら、役場など中条村の中心がよく見える。こんなに眺めのよいところとは、まったく知らなかった。
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