映画、ハッピーフライトを観た。既に 2 回。
ウォーターボーイズやスウィングガールズでお馴染みの矢口史靖監督作品。
一言で言って、これは良い。
航空機運航の日常をかなり “素直” に再現したストーリー。
もちろん矢口監督独特のテイストが付け加えられて楽しい作品となっているのだが、ベースとなっているのはあくまでも航空業界で日常的に展開されているフツーの出来事である。
そう聞くと 「ハァ?つまんなそう」 と思う人が多いはずだが、そんな事はない。
矢口監督自身、実は当初 “航空パニック映画” を撮るつもりで取材を開始したそうである。
航空パニック映画とは、あのエアポート・シリーズに代表されるアレである。
ジャンボ機が飛行中、突然全てのパイロットが死んだり重傷を負って操縦出来る人間がいなくなるも、最終的にはキャビン・アテンダントが無線で指示を仰ぎながら無事着陸させる、という話から始まって、最近ではネタも尽きたのか機内にモンスターが登場!みたいなものもあるらしいという破天荒なもの。
矢口監督はそうした航空パニックものが好きなのだそうだ。
ところが取材を進めるうちに、実際の運航の現場で起きている日常的な出来事をそのまま描く方がよっぽど面白い事に気付いたのだという。
それで完成されたのがこの映画である。
高度な技術の塊である航空機は、運航にも高度な技術が要求される。
そんなところから、航空機の運航に携わる人々というものが一般人の知り得ぬ高い雲の上の存在なのではないかと思われがちであるが、実はフツーに血の通った人々の日々の努力で支えられているという事実が、この映画では鮮明に描かれている。
パイロットやキャビン・アテンダントなどの乗務員はもちろん、カウンター業務を担うグランド・ホステス、飛行経路の天候情報を逐一航空機に伝達して飛行支援を行うディスパッチャー、そして滑走路周辺に飛来する野鳥を追い払う通称 “バードさん” などのグランド・スタッフ達、さらには担当空域を飛行する全ての航空機に常に目を光らせている管制官に至るまで、様々な人々が登場する。
ストーリーが進むにつれて、異なるセクションにいるそれらたくさんの人々が、互いにぶつかり合いながらも、実は皆同じたった一つの目標に向かって走っている事に気付く。
それは、「安全で快適な空の旅を提供する」 という事。
航空機の運航という、外部からは一見クールに見える職場でも、実際はこうした熱い “闘い” があって皆が利用者に最善を尽くそうと努力していたのだという事実。
矢口監督はそこに面白さを見出したのだそうだ。
--
さて、この作品では航空機の運航の日常をありのまま描いているが、技術的にもきちんとリアリティを追求している。
キャプテン、コ・パイロット、ディスパッチャー、管制官など、それぞれの会話の内容はまさに現場で交わされるそれである。
内容的にも矛盾は見当たらない。さすがに全日空と国土交通省が全面協力しただけの事はある。
その中でも僕が一番感心したのは、この映画の “主役”、ボーイング 747-400 を強い横風の中着陸させる際のキャプテンの一言、「クラブ取ったまま着けます」 というくだり。
“クラブ” とは "crab" 、つまりカニである。
通常、航空機が横風の中を飛行すると、垂直尾翼の作用で自然に機首が風上側に振られる。それでも進行方向は変わらないので、機は斜め前を向いた状態で、大袈裟に言えば “横を向いて” 飛ぶ事になる。そして、その状態で着陸する事を横歩きのカニに例えて “クラブ着陸” などと呼ぶ。
映画でも、風上の方に若干機首を振った状態で降下して行き、接地直前にラダー・ペダルを踏み込んで機首を滑走路方位に合わせて接地させるという、何とも細かい所まで再現されていて嬉しくなってしまった。
ここまで正確に再現されている映画やドラマは過去に無い。
聞けば、コックピットのシーンの撮影中は常に全日空の現役パイロットが傍にいて、内容に矛盾が無いよう監修していたという。
この点、マニアが観ても安心して楽しめる作品となっている。
ただ一点、明らかな間違いを発見してしまった。
旋回中にカップに入っている水の水面が傾いているシーンがあるのだが、これは誤りである。
機体が単純に傾いているだけならそれでも間違いではないだろうが、そうしたマニューバーを旅客機で行う事は無い。
そのシーンは旋回中である事が判っているので、遠心力も働いているはずだ。つまり重力は遠心力と合成されて外側を向いたベクトルになる。
航空機が旋回する場合、機体を行きたい方に傾ける訳だが、重力と遠心力を合成した力の向きは常に機体の真下方向になる。つまり乗客にしてみれば、窓の外を見ない限り機体が傾いている事には気付かない。当然、カップの水が傾く事も無いのである。
このシーンの矛盾には誰も気付かなかったのだろうか?
気になるところではあるが、まぁそれでもこの映画の良さが損なわれるようなものではないので、よしとしよう。
ウォーターボーイズやスウィングガールズでお馴染みの矢口史靖監督作品。
一言で言って、これは良い。
航空機運航の日常をかなり “素直” に再現したストーリー。
もちろん矢口監督独特のテイストが付け加えられて楽しい作品となっているのだが、ベースとなっているのはあくまでも航空業界で日常的に展開されているフツーの出来事である。
そう聞くと 「ハァ?つまんなそう」 と思う人が多いはずだが、そんな事はない。
矢口監督自身、実は当初 “航空パニック映画” を撮るつもりで取材を開始したそうである。
航空パニック映画とは、あのエアポート・シリーズに代表されるアレである。
ジャンボ機が飛行中、突然全てのパイロットが死んだり重傷を負って操縦出来る人間がいなくなるも、最終的にはキャビン・アテンダントが無線で指示を仰ぎながら無事着陸させる、という話から始まって、最近ではネタも尽きたのか機内にモンスターが登場!みたいなものもあるらしいという破天荒なもの。
矢口監督はそうした航空パニックものが好きなのだそうだ。
ところが取材を進めるうちに、実際の運航の現場で起きている日常的な出来事をそのまま描く方がよっぽど面白い事に気付いたのだという。
それで完成されたのがこの映画である。
高度な技術の塊である航空機は、運航にも高度な技術が要求される。
そんなところから、航空機の運航に携わる人々というものが一般人の知り得ぬ高い雲の上の存在なのではないかと思われがちであるが、実はフツーに血の通った人々の日々の努力で支えられているという事実が、この映画では鮮明に描かれている。
パイロットやキャビン・アテンダントなどの乗務員はもちろん、カウンター業務を担うグランド・ホステス、飛行経路の天候情報を逐一航空機に伝達して飛行支援を行うディスパッチャー、そして滑走路周辺に飛来する野鳥を追い払う通称 “バードさん” などのグランド・スタッフ達、さらには担当空域を飛行する全ての航空機に常に目を光らせている管制官に至るまで、様々な人々が登場する。
ストーリーが進むにつれて、異なるセクションにいるそれらたくさんの人々が、互いにぶつかり合いながらも、実は皆同じたった一つの目標に向かって走っている事に気付く。
それは、「安全で快適な空の旅を提供する」 という事。
航空機の運航という、外部からは一見クールに見える職場でも、実際はこうした熱い “闘い” があって皆が利用者に最善を尽くそうと努力していたのだという事実。
矢口監督はそこに面白さを見出したのだそうだ。
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さて、この作品では航空機の運航の日常をありのまま描いているが、技術的にもきちんとリアリティを追求している。
キャプテン、コ・パイロット、ディスパッチャー、管制官など、それぞれの会話の内容はまさに現場で交わされるそれである。
内容的にも矛盾は見当たらない。さすがに全日空と国土交通省が全面協力しただけの事はある。
その中でも僕が一番感心したのは、この映画の “主役”、ボーイング 747-400 を強い横風の中着陸させる際のキャプテンの一言、「クラブ取ったまま着けます」 というくだり。
“クラブ” とは "crab" 、つまりカニである。
通常、航空機が横風の中を飛行すると、垂直尾翼の作用で自然に機首が風上側に振られる。それでも進行方向は変わらないので、機は斜め前を向いた状態で、大袈裟に言えば “横を向いて” 飛ぶ事になる。そして、その状態で着陸する事を横歩きのカニに例えて “クラブ着陸” などと呼ぶ。
映画でも、風上の方に若干機首を振った状態で降下して行き、接地直前にラダー・ペダルを踏み込んで機首を滑走路方位に合わせて接地させるという、何とも細かい所まで再現されていて嬉しくなってしまった。
ここまで正確に再現されている映画やドラマは過去に無い。
聞けば、コックピットのシーンの撮影中は常に全日空の現役パイロットが傍にいて、内容に矛盾が無いよう監修していたという。
この点、マニアが観ても安心して楽しめる作品となっている。
ただ一点、明らかな間違いを発見してしまった。
旋回中にカップに入っている水の水面が傾いているシーンがあるのだが、これは誤りである。
機体が単純に傾いているだけならそれでも間違いではないだろうが、そうしたマニューバーを旅客機で行う事は無い。
そのシーンは旋回中である事が判っているので、遠心力も働いているはずだ。つまり重力は遠心力と合成されて外側を向いたベクトルになる。
航空機が旋回する場合、機体を行きたい方に傾ける訳だが、重力と遠心力を合成した力の向きは常に機体の真下方向になる。つまり乗客にしてみれば、窓の外を見ない限り機体が傾いている事には気付かない。当然、カップの水が傾く事も無いのである。
このシーンの矛盾には誰も気付かなかったのだろうか?
気になるところではあるが、まぁそれでもこの映画の良さが損なわれるようなものではないので、よしとしよう。