| ラスト・コンサート 1988 モーツァルト & ブラームスベルリン・フィルハーモニー管弦楽団ヘルベルト・フォン・カラヤンUNIVERSAL CLASSICS(P)(M)このアイテムの詳細を見る |
20 年前の今日、ヘルベルト・フォン・カラヤンにとって最後の日本公演となった演奏会がサントリーホールであった。
曲目はモーツァルトの交響曲第三十九番と、ブラームスの交響曲第一番。
その演奏会は当時 NHK FM で生中継されたのだが、その際にパラで録音されていた素材が今回初めて CD 化された。それがこの 『
ラスト・コンサート 1988 モーツァルト & ブラームス』。
個人的にカラヤンは、演奏はもちろんライフスタイルを含めて最も軽蔑すべき指揮者の一人だと思っているが、彼のブラームスの交響曲第一番には別の印象を持っている。
1988 年のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との
デジタル録音は、いつもの彼の “美麗さだけを追求する” ような演奏 (だからライヴ盤の発売を頑なに拒んだと言われる) とは趣が異なり、全身全霊を込めて音楽に身を投じているような熱さが感じられる名演で、留学中にこれを聴いて何度も励まされた思い出がある。
さて、今回発売されたライヴ盤だが、前述の通りカラヤンが指揮したライヴの模様が CD 化されるのは稀で、そうした意味でもなかなか珍しい。
演奏は、流麗というより慎重な曲運びという感じだ。そのせいか、モーツァルトはいささか重くてあまり楽しめなかった。まぁこちらは端から期待していなかったのだが…。
しかし、ブラームスではそれが独特の緊張感を誘い、特に第一楽章では独特の重みを演出して良い方向に働いているように感じられる。やはりカラヤンとこの曲は相性が良いようだ。
フィナーレも重さが感じられるものの、苦悩を跳ね返す強靱さは健在で、これにはベルリンフィル特有の重厚さと抜群の瞬発力も寄与している。それを引き出したカラヤン、そしてそれに呼応したベルリンフィル。共にさすがと言うしか無い。
僕にとっては “反面教師” という印象が強いカラヤンだが、この演奏だけ取ってみても、彼の存在意義は十分あったと認めざるを得ない。そう再認識させられた一枚となった。
残念な点があるとすれば録音の品質か。残響成分が多めに収音されているようで弦は少しこもったような音になっている。詳細は分からないが、ホール所定の位置に天吊されたマイクのみでのワンポイントステレオ収録か?
ライヴではマイク配置に大幅な制約が伴うためこれは致し方ないだろう。逆に、これが却ってライヴのリアリティーを増す要素になっているようにも感じた。
総合的に見て良い作品だと思う。
今秋、僕が最も好きな現役の指揮者の一人、サイモン・ラトルがベルリンフィルを率いて来日する。そしてプログラムにも大好きなこのブラームスの交響曲第一番がきっちり入っている。
カラヤンとは当然異なる表現になるだろうし、同じ表現など期待もしていない。ただ、是非ともみんなに元気を与えてくれるような演奏を望みたい。ラトルならその期待も必然的に高まるというもの。
今から楽しみで仕方ない。