嶽南亭主人 ディベート心得帳

ディベートとブラスバンドを双璧に、とにかく道楽のことばっかり・・・

【解釈に係る雑感1-7】 質問3と4の検討:否定側へのコメント

2009-06-18 04:17:17 | ディベート
それでは、否定側の議論を検証しながら、主人の感想を申し述べたい。

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【否定側の主張】

資料の文意改変問題に関連する、否定側の発言は以下の通り。

<否定側質疑>

●(5)重要性二点目の資料の[中略]部分には、「「小さな政府」実現を目指した*行政改革*をはじめとする…[強調は私がつけました]」という記述がありますが、ここを飛ばした意図は何ですか?

<否定側立論>

●最後に肯定側資料の歪曲について。

肯定側立論重要性二枚目の資料では、中略部分で「行政改革をはじめとする…」という文言があります。これを意図的に飛ばすことは、著者の意図を歪曲しています。肯定側は「中略しても意味が変わらない」などと言っていますが、この中略は、行政改革なしに、あたかも立法の改革だけで、理想的な政府ができると見せかけ、否定側の反論機会を奪う、極めて悪質な歪曲であり、甲子園ルール細則C-1-6に基づき肯定側を敗戦とすべきです。

<否定側第一反駁>

●重要性に対して

(略)

6 立論でも述べた通り、この資料は歪曲されていて、資料としての価値がありません。

<否定側第二反駁>

この試合には少なくとも三つの独立した、否定側への投票理由があります。

(略)

3 肯定側に資料の歪曲という重大なルール違反がある。

資料歪曲の議論

肯定側資料の中略は、行政に関する話を隠蔽し「行政改革無しには事態が改善しない」という反論の機会を奪う意図があったと取られても仕方のない省略です。

口頭のディベートなら反論が出来ず、この重要性が残る可能性が高いです。その点非常に悪質な中略であり、甲子園ルールを根拠とした、否定側への投票理由となります。最低でも、資料の無効化は避けがたいです。


【参考資料: 問題となった証拠資料の再掲】

1)グローバリゼーションが拡大・深化するなかで、人口減少や急速な少子・高齢化社会を迎える日本は、健全な経済社会を構築し、次世代に引き継ぐことが不可避の課題となっている。

2)したがって、「小さな政府」実現をめざした行政改革をはじめとする財政・税制、社会保障、教育などの構造改革への手綱を緩めてはならない。

3)特に、グローバリゼーションがもたらす多様かつ複雑な国内外の課題に対して、的確かつ迅速な対応を可能とする政府の改革に早急に取り組むべきである。

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【感想とコメント】

<中略部分の提示>

○すでに1-4にて述べたが、質疑~立論の段階において、中略箇所(=上記の再掲2)の文)を「行政改革をはじめとする・・・」とのみ言及して主張を展開しておられるところ、ここは試合中の議論として、省略に係る部分をすべて提示した上で、主張を展開した方が、審判・観客にフレンドリーな議論が展開できたであろうと強く思う。文字数制限がきついのはよく理解するが、それにも関わらず提出する価値があると思われたならば、中途半端な説明に終わらせて欲しくない。

○今回の中略部分の提示において、行政改革という語句に注目を集めたいとの意図からであろうが、そこだけに言及するのは、中略の不適切さの非をならそうという時に、「あなたこそ、『行政改革をはじめとする・・・・』と、・・・以下を省略しておられますが、その意図は何ですか」と逆に聞かれてしまいそうだ。特に今回、2)の文が細部までチェックされ、「行政改革」ではなく「行政改革を含む構造改革」の話だということが明らかになったとき、審判・観客の心証は、決してよろしくなかろう。

<解釈上の根拠の提示>

○否定側の主張における要石は、2)の文の中略がなかった場合の3)の文章における「政府の改革」は、「行政府の改革」と理解すべきである=狭義の解釈をとるべきである、というものである。

○今回の否定側の主張をあらためて眺めると、やはり少々説明不足のように思われる。

 ・・・中略部分で「行政改革をはじめとする…」という文言があります。これを意図的に飛ばすことは、著者の意図を歪曲しています。この中略は、行政改革なしに、あたかも立法の改革だけで、理想的な政府ができると見せかけ、否定側の反論機会を奪う、極めて悪質な歪曲であり

 という今回の説明では、(意図的な)中略の有無によって、どの語句の意味が、どのように変化したのか、だから歪曲だと判断できるのかが、いまひとつ判然としない。審判・聞き手が、否定側と同様に感じていたならば(今回のケースは、そうであったのだろうと思う)、これでOKかもしれないが、それは結果的な僥倖だったというべきではなかろうか。せめて、そこで前回(1-6)において例示した程度、すなわちイ)ーロ)ーハ)の形で再構成した程度には、説明しておいて欲しかったところである。

○また、問題だと感ずるのは、前述の要石たる「中略なしのときには、『政府』の改革は『行政府』の改革と解釈するのが妥当である」という部分の根拠が明確化されていない点である。「中略された2)の文において『行政改革』という語句があるから」というのは、説明としてもそれほど強力だとは思われない。例えば、

 ア)2)の文の主張するところは、否定側の言うような単なる「行政改革」ではない。資料をよく読めば、行政改革を含む「構造改革」であることは、明々白々である。

 イ)ここでの「構造改革」を行政府のみのマターだと解釈すべき理由はどこにもない。

 ウ)現に小泉元首相は、構造改革として、首相公選を訴えたではないか。首相公選は、議院内閣制をやめるという意味で、行政府の改革というよりも、統治機構としての政府の改革というのが相応しい

 エ)したがって、3)の文の「政府の改革」は、「行政府」の改革ではなく、「政治・行政・司法を含む統治機構」の改革として解釈するのが妥当である。

 オ)よって、中略があっても文意の変動は生じておらず、歪曲にはあたらない。

・・・というような反論をもしも受けたら、倒れてしまう程度の強度であるように思われる。

○さらに、「行政改革」という語句が見えるからといって、3)の文の「政府」の改革を「行政府」の改革だと解釈しようとするのは、早計だと考えられる理由がある、と、これまで1-5でも述べてきたところである。

<代替的アイデア>

○では、どのような説明が代替的に可能であったのか。・・・・考えてみたが、これはなかなかに難しい。

○主人が考え付いたのは、以下のような説明である。

A 2)の文における構造改革の課題―行政改革をはじめ、税制・財政、社会保障、教育―は、いずれも政策決定のアウトカムの話である。

B であれば、「特に」ではじまる3)の文章における「政府の改革」も、政策アウトカムの一環であると解釈するのが妥当である。ここには、政策決定の「プロセス」の要素=立法の要素は含意されない。

C よって、「政府の改革」の意味において、行政府vs統治機構という2つの解釈が想定されるとしても、前述の文脈上、ここは「行政府の改革」と解釈すべきである。

・・・いかがであろうか。

○そう自分で述べておいて、これを言い出すのは何なのだが、主人が考えたこの説明に対しても、上記の「首相公選」を例にとった反論が成立しうる。なので、この説明がベストだとは思われない。興味ある方は、より説得力のある説明をご研究いただきたい。そこでのポイントは、「構造改革」の意味・定義になることを申し添えておく。

【小括】

○今回の一件で、強く感じ、また皆さんに申し上げたかったことは、以下のようにまとめることができる。すなわち:

「ある一つの解釈に対して、別の論理による整合的な解釈が成立することも往々にしてある。その際、自らが適切と考える解釈の妥当性を第三者に説得的に伝達するのは、実は相当に骨の折れる仕事である。」

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次回は、肯定側の見地から、検討、コメントしてみることにしよう。

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