嶽南亭主人 ディベート心得帳

ディベートとブラスバンドを双璧に、とにかく道楽のことばっかり・・・

アメリカの有権者教育レポート

2006-06-29 01:54:43 | ディベート
久しぶりに、東洋大学非常勤講師の横江公美氏とじっくりお話をする機会を得た。

その折、彼女から「判断力はどうすれば身につくのか」(PHP新書)と題されたご近著を頂いた。

題名からして、凡百のビジネススキル本かと思ったが、アメリカ政治のフィールドワークをご専門とする彼女がそんな本を書くとは思われない。副題をよく見ると「アメリカの有権者教育レポート」とある通り、この本は「民主主義教育の実態を丹念に描き出す、有権者のための参考書」であった。

新書らしく、平易で読みやすい。それでいて、アメリカの草の根レベルで「有権者教育」が、どのような形で具体的に実践されているかを、事例ベースでじっくりと紹介してくれている。

まえがきに、ちょっと面白いエピソードが紹介されている。やや長くなるが、引用させていただこう。

「学校の授業では、小学校低学年から内容を知らないで投票することの怖さを学ばせる。
 たとえば、「アイスクリーム」「宿題」などと書かれた紙に何の情報もないまま、イエス、ノーのどちらかを選ばせる。普通は「アイスクリーム、イエス」「宿題、ノー」となるが、その選択の結果、

 『にんにく味のアイスクリームだけが給食のおやつに出ます』
 『週末の宿題はなくなります』

ということを知らせると、生徒たちからいっせいに驚きと失望のブーイングが起こる。アイスクリームとあればイエスだが、にんにく味となればノー。宿題はノーだが、週末の宿題廃止であれば、イエスだ。生徒たちはこうした授業を通じて、投票のための意思決定をおこなうには詳しい情報を集める必要性があることを実感し、実際の政治の投票では候補者と政策の両方を徹底的なリサーチに基づいて判断すること、比較すること、議論することが必要だと知り、そのコツを体得する」

まさに、ここにこそ、ディベート甲子園、より正しくは全国教室ディベート連盟の活動にコミットしていきたいと、私が考える理由がある。

「未来を決める訓練」(トーマス・ジェファーソン米国第三代大統領)

至言である。

【今日のBGM】 J.コリリアーノ「クラリネット協奏曲」 第三楽章 アンティフォナル・トッカータ

2006-06-28 03:08:34 | ブラスバンド
演奏は、Z.メータ指揮のニューヨークフィル。

あれは、1991年のことだったと思う。

わが郷土の姉妹都市に、カリフォルニア州のオーシャンサイド市というのがあって、市からの使節団の下交渉に、市役所から「行ってくれ」との依頼を受け、サンディエゴから、のたりのたりと高速道路を運転し(私、運転はめちゃ下手ですから)、一仕事を果たして、あらかじめ予約していたロサンゼルス郊外のホテル(ホリディ・インです)にチェックインした後、リトル・トーキョーに飯を食いに行こうと、フリーウェイに乗り込んだ直後のことだった。

ご存知の方もおられよう。アメリカには、24時間クラシック音楽ばかり流す放送局というのがあって、ダイヤルをあわせたところでこいつが流れてた。

現代曲、かつ、クラリネットの超絶技巧曲

というより他ない曲だった。

こいつは、ものすごい。第1楽章(の途中)から、思わず聞き入ってしまった。そうして第3楽章。華やかなティンパニ(しかも掛け合い!!!)が響く頃には、すっかりとりこになっていた。楽章の最後を飾る主題が金管のトュッティによって鳴り渡り、ティンパニに追い立てられるようにして、曲が終わった。

さて、曲名は何か?作曲したのは誰か?

ここを聞き逃したら、今生のお別れ。手がかりなくしては、CDが探せなくなる。この一瞬のために、わざと遠回りをして、運転が楽なフリーウェイから降りずにいたのだ。車のアクセルを踏みながら、アナウンスに耳をそばだてた。作曲者は、

「ジョン・コリリアーノ」というイタリア系っぽい名前のアメリカ人だった。

爾来、彼の作品を好んで聞くようになった。交響曲第1番(なぜかN響アワーで取り上げられたこともあったりする)も、ピアノ協奏曲も名曲だと思うのだが、クラ吹きの限界に挑戦するかのような「超絶技巧」は、何度聞いても新鮮だ。マイベスト・オブ・コリリアーノは、あいかわらずこの曲の頭上にある。

これで、ようやく「IS+旦那さんのためのMD」に一曲が加わった。

だいぶMDの余白が消えてきた。あと1曲ぐらいいけそうだ。

DB甲子園関東甲信越大会を振り返って(その2)

2006-06-25 00:09:00 | ディベート
関東甲信越大会で印象に残った試合のもう一つは、

(2) 決勝 肯定側・早大学院 vs 否定側・駿台甲府である。

この試合、講評でとりあえず「苦言」という形で、一層の努力を期待しつつエールを贈らせてもらったつもりである。ここで重ねて申し上げるとすれば・・・

人を呪わば穴二つとは、よく言われるが、

「その二つ目の穴には、自分のみならず【自分の仲間】も落ちるかもしれない」

ということが、まず一つある。

相手の知らなさそうな論点を出して、相手に一言もいわせまいという、邪な気持ちが出てくるのはわかる。しかし、自分の「仲間」がその論点を理解し、論点を展開できるほどまでに、理解を共有することができなければ、

自分の仲間を落とすための落とし穴を自ら掘っている

という喜劇が生じる。

●「国の負債は、その国の民間部門の資産になるのだから、国の負債それ自体は、マクロ的に見れば問題はない」

という有名な議論、「お金が右のポケットから左のポケットに移るだけ」論が、この試合でも出た。かつ、試合においてかなり有力な反論として機能しうる文脈で登場してきた。

もちろん、この議論への反論も、当然ある。端的に言えば、この議論が成立するのは、国債が「その国の」民間部門の資産になる場合、すなわち内国債の場合である。これが、もし、国債保有者が海外の経済主体となった場合、稼ぎが国外に持っていかれるので、その分の経済収縮は起き得る、と経済学の教科書にはちゃんと書いてある。乞うご研究。

さて、今回、この議論、証拠資料付きで強力なアタックとして提出された。案の定、相手側は、ポイントをはずし、まったくと言っていいほど実質的な反論ができなかった。

ところが後のスピーカーが、この議論を有効活用しない。おそらくは、「活用できなかった」のであろう。

相手が反論できてないことを確認した上で、いかのこの議論が試合上で決定打になりうるかを、あらためて説明できていれば、この試合の勝敗が逆にもになりえていただろうに。それほどのインパクトをもつ議論だったが、フロー上でも宙に浮いたまま、試合は終わってしまった。

いっしょうけんめいリサーチするのはよろしい。難解な内容にチャレンジすることも良しとしよう。

しかし、

ディベートの試合は、あなた一人でやっている訳ではない。自分だけ理解しているのでは、結果はついてこない。

せっかく、ここまで苦楽を共にしてきたのだ。試合のなかでも、そういった仲間の力を信じ、自分ひとりではなく、お互いの力を高めあった上で、チームとして試合に臨んで頂きたい。

この試合を見ながら、切にそう願った。

DB甲子園関東甲信越大会を振り返って(その1)

2006-06-22 23:52:35 | ディベート
先のディベート甲子園、関東甲信越大会。

ジャッジをしていて印象に残った試合は2つ。

一つめは、準々決勝、肯定側・女子聖学院高校 vs 否定側・東海大浦安高校。

女子聖の良かったところは、

「権限を地方に渡すことによって実現されるメリット」

について、これ以上望めないくらいに具体的かつ印象的な事例によって論証してくれたこと。

地方「分権」こそが、道州制をめぐる議論の中核である。その議論をこういう形で示されると、

正眼の構えから、相手にスコーンと面を一本とられた

というような心もちがする。いっしょにジャッジをしていた方も、

「この証拠資料には、しびれた・・・」

とのご感想。御意である。

その事例が何かはここでは述べないこととするが、論題発表直後からこの事例は私の念頭にあって、論題発表記念チャットでも言うのを我慢していた論点でもあったので、この議論が女子聖の皆さんによって晴れ舞台に送り出されてきたことが、とてもうれしい。

もちろん、立論の完成度には、まだまだ注文をつけたいところが残っていて、特に「名が体を表していない」ところは大いに気になる。また、地区予選で議論をお披露目してしまった以上、当然、今後はそれ用の対策が相手に用意されてくることもまちがいない。

そこはこれからの検討の中で修正・対応されていくことだろう。全国大会までにこの立論が、どのような発展、成長を見せるか、とても楽しみである。

一方、東海大浦安の良かったところは、

「スピーチ」

である。

どのスピーチをとっても、総じてクリアなスピーチであり、耳に快かった。

特筆すべきは否定側立論。私を含め、

ジャッジ3人とも満点の5点をつけた。

これに匹敵するスピーチがあるとすれば、本郷中か滝中ぐらいのものではなかろうか。

一般に立論は、ともすると内容を詰め込みがちになり、結果、早読みへと陥っていく。そうならぬように、必要にして十分な情報量を見極めて立論を構成してくれた点、労を多としたい。

また、音声も、アーティキュレーション、抑揚、音量、いずれをとっても申し分なし。まさにスピーチの「お手本」であったように思う。

もう一試合は、高校の部の決勝戦である。これについての論評は、次回にゆずる。

銅メダル@ESUJ

2006-06-21 02:18:59 | ディベート
ESUJの社会人パーラの大会に、「NO DEBATE, NO LIFE」チームのかたわれとして出場してきた。パートナーは、タイテックの大会と同じ、Kじさん。そのタイテックの幕切れが、私としても思い残すところが多すぎたので、そのリベンジにということで。

結果は、またしても準決勝敗退。どうしてもこの大会、ここで負けるのがクセになっているかのようだ。

とはいえ、近年、ここまで各試合を楽しめたのは珍しく、ほんとにうれしい。

パートナーであるKじさんには、あらためて感謝したい。圧巻は「歌舞伎に女優を」論題のPMのサマリー。彼のスピーチで・・・

「伝統が、男女共同参画の障害になるなら、そんなもん、いらない」

という、力強くも見事な試合のまとめを聞いたとき、この大会、彼と出場できたことを、思わず天に感謝せずにはいられなかった。どちらかというとPMの役割を取ることが多い私としても、本当に参考になった。

ああ、許されるものならば、決勝の「次の五輪、東京開催に反対する」モーションをやりたかった。Gov、Opp、それぞれで、それなりの議論を展開できる自信があったのに・・・

て訳で、英語パーラも、しばらくやめられそうにない。


【今日のBGM】 D.ショスタコービッチ「ジャズ組曲第2番 Ⅵ.第2のワルツ」

2006-06-02 02:48:55 | ブラスバンド
演奏は、R.シャイーのロイヤル・コンセルトヘボウ。

いま聞いているのは、もちろんオケ版。これが、ブラスで聞けると思うと、ちょっと、心が沸き立っている。

過日、例のISさんからお土産を頂いた。去る5月23日、シエナ・ウィンド・オーケストラの第21回定期演奏会(指揮は金聖響)のパンフ。ISさんはご夫婦でこの演奏会においでになったそうで、さらにラッパ吹きのお連れ合いは、シエナ恒例の観客参加演奏で舞台に上られたそうな。

プログラムは、オール・J.ウィリアムズ。

こら、すごいわ、と思いながら、下の方に目を移すと・・・

第22回定期演奏会のご案内
曲目:「ショスタコービッチ生誕100年」
祝典序曲、ジャズ組曲、エルザの大聖堂への入場、他

な、な、ジャズ組曲????

これを行かずしてどうする、と思った。

***

だいたい私は、

「短調、3拍子、下降する旋律」

がそろうと、スイッチが入ってしまう。この第2のワルツがその代表格(双璧のもう一方は、保科洋「吹奏楽のためのカプリス」の中間部。これ、吹きながら泣いてましたからね、私)。

日時は、12月22日(金)19時開演。う~ん、開演時刻に間に合うかなぁ。会場が、こんどは東京芸術劇場じゃなくて、横浜みなとみらいホールだからなぁ・・・