嶽南亭主人 ディベート心得帳

ディベートとブラスバンドを双璧に、とにかく道楽のことばっかり・・・

ノオト: 「わかる=理解する」の三段階をテストするための事例の開発

2012-06-20 12:53:56 | ディベート
第1レベルの「わかる」=言語レベル

第2レベルの「わかる」=対象世界の認識レベル

第3レベルの「わかる」=知識・経験との論理的整合/納得性のレベル


【事例】 原子力編

●第1レベルのテスト

「かくしゅてんかん」を漢字で書けますか?

●第2レベルのテスト

「かくしゅてんかん」の定義を述べてください。

●第3レベルのテスト

「放射性セシウムが、田んぼの微生物によって無害なバリウムに変化した」とする調査結果の真偽について、あなたの意見を根拠を含めて述べてください。

【事例】 遺伝子組み換え食品編

●第1レベルのテスト

「デキストリン」とは、何でしょうか?

●第2レベルのテスト

「閉鎖系温室」がどのようなものか、説明してください。

●第3レベルのテスト

「遺伝子組み換え食品の安全性は確認されている」という言明について、その根拠を推察できますか?

***

去る6月17日、京都文教大学での日本コミュニケーション学会の公開シンポジウムに際して、考えてみた事例。あと何例か、開発してみたい。




DB甲子園2012中学論題(4) いわゆる「還付」問題についてのまとめ

2012-06-13 20:19:38 | ディベート
いわゆる「還付」問題について、長々と論じてきました。ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

ものすごくシンプルに言います。

要は、論題・付帯文における「有料化」と「そうでないもの=無料」に関し、【何が、どう違うのか】を、他人に説明できるくらいまで理解しておられますか?

・・・ってことなのです。

具体的に、以下の2点について、仲間のみんなと議論して、あらかじめしっかり整理しておくのが良いでしょう。

「有料化」が、付帯文にあるように「定額の支払い」を意味するとしたとき:

1) 特定の人が、実質的に負担しないで済むようになる(=負担ゼロで救急車が利用できる)プランは、論題内でしょうか? = 「支払い」の定義がポイントです

2) 特定の人が、他の多くの人とは異なる金額を負担する(=要は「割引」ですね)プランは、論題内でしょうか? = 「定額」の定義がポイントです。

そろそろ、地方予選の声を聞き始めます。中学生ディベーターのみなさん、がんばってください。

DB甲子園2012中学論題(3) 負担軽減策を追加プランとして検討したいならば

2012-06-12 17:42:13 | ディベート
前回、前々回にわたって、今年のディベート甲子園中学論題に取り組む、特に肯定側ご担当のディベーターのみなさんに問いかけを行って参ったが、主人の意図は、お分かりであろう。

つまりはこういうことである。

イ)負担軽減策を追加プランでお考えになろうが、なるまいが、それは諸君の自由である。

ロ)しかし、どのようなプランを設定するか(例えば、前述の(1)から(8)のような方策が考えられる)によっては、その追加プランが「論題内」あるいは「論壇外」として、受け取られる可能性がある、ということである。

ハ)もし(1)から(8)のような方策が、自ら「無料だ」と思えるようなら、そのような追加プランは出さない、あるいは「有料」だと思わせるような説明を試合上の議論として展開する必要があるであろう。

二)逆に、そのような方策が、自分では「有料だ」と思っていても、相手はそう思ってくれないかもしれないということを想定して、念のため、反論を予め準備しておくに越したことはないであろう。

・・・前々回の論考で、主人が「リスク・マネジメント」と呼んだのは、直接には、上記のハ)とニ)を指すのである。

よろしいかな?

DB甲子園2012中学論題(2)負担軽減策に係る問題について

2012-06-11 19:09:13 | ディベート
中学生ディベーターの諸君

本稿は、前回の補足である。ぜひ、前回の投稿を合わせてお読みになられたい。

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当たり前のことだが、救急車の利用が有料化されるとは、何がしかの形で利用者から料金が徴収されるということである。

その際の「金銭授受(あるいは払い戻し)」の方法は、具体的にはどのようになるのか。面白そうなので、以下、納付と負担軽減策とにわけて、具体的な方法を考えてみることにした。

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納付の方法としては、以下の方法があるだろう。

●現金納付  ・・・ もっとも一般的な方法である。救急車の場合、バスやタクシーの場合と同様に、運転手さんに支払うことになるんだろうか。

⇒もし、その場で払えないということであれば、乗車を拒否するんでしょうかね、きっと。

●クレジットカード ・・・ 最近では「病院でもVISAがつかえます」ということらしい。

⇒支払能力は、センターにでも問い合わせればわかるとして、そこまでするんでしょうねぇ、きっと。

●後日の請求書による納付 ・・・ 通常の商取引でも、一般的な方法である。

⇒なかなか支払ってくれない場合、税金の滞納の回収と同じで、訪問+差し押さえにいくんでしょうねぇ、きっと。

●保険会社による代行払い ・・・ このケースは、海外旅行者保険の場合と似ている。すなわち、請求書が本人ではなく保険会社に送付される、あるいは、本人が一時的に立替ておいて、後日、その分を保険会社に申請して、それを取り返すというもの。

⇒保険商品が購入できない=保険料が払えないのならば、そもそも保険でカバーされませんから、この場合は、おそらく支払能力の問題は生じないのでしょう、きっと。

さて、このように利用料納付にはに様々な方法がありうるなか、次が本当の問題になる。

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利用者の負担軽減策として、一般的には以下のような方法が考えられるのだが、皆さんにお考え頂きたいのは、どれが付帯文にいう「有料化」あるいは「定額の支払い」に該当するのだろうか、という点である。

くどいようだが、現状は救急車の利用は「無料」であるとの前提でお考え頂きたい(←ホントは、税金で運営されているので、納税者全体で使用料を負担しているのだ、という認識はもっておいて欲しいのだが)。

(1)「無料パスの交付」による不払い 

千代田区のこども医療費の無料化制度や、東京都の高齢者向けの交通機関の無料利用では、この方法が採用されている。すなわち「乗車」の際に、このパスを見せれば、無料でサービスが受けられる。

(2)「一定額の割引」による部分的納付

鉄道の「こども料金」や映画館の各種割引だと思えばよい。もちろん割引対象者であることを識別するために、身分証の提示を求めたり、あらかじめ対象者にクーポンを配布するなどの仕組みが必要になるだろう。

(3)「全額割引」による不払い

上記の応用・拡大版である。

(4) 全額納付の後の「一定額の還付」

利用者が、何らかの形で立替払いした後、手続きによって、利用者の金融機関の口座に、使用料の一部が返却されてくるというもの。

(5)全額納付の後の「全額の還付」

利用者が、何らかの形で立替払いした後、手続きによって、利用者の金融機関の口座に、使用料が<全額>返却されてくるというもの。

(6)請求書交付時の「使用料納付の一部免除」

利用者は、金銭等を納付することなく救急車を利用した後に、事後的に送付される請求書では、代金の一部のみが請求されるというもの。

(7)請求書の不交付による「使用料納付の全額免除」

利用者は、金銭等を納付することなく救急車を利用した後、事後的に請求書が送付されない(その代わりに、利用料納付は免除します、といったような書類が送られてくるのでしょう、きっと)というもの。

(8)「使用料の税額控除」による、使用料の一部もしくは全部の実質的な還付

使用料が発生した場合、後日、地方税から使用料分の金額を控除するというもの(←これがよくわからない人は、先生に聞いてみてください!)。この方法だと、納税していない人に恩恵を及ぼすことができない(←強いて払い戻せば、それは「還付」ということになり、上記4や5と同じことになる)のがネックになるが、論理的にはありうる方法である。

・・・さてここで、肯定側の皆さんにお尋ねしたい。

【問題】

上記の(1)~(8)のような追加プランがそれぞれ設定された場合、その恩恵にあずかる人にとって、付帯文にいう「定額の支払い」があてはまるのでしょうか。
→換言すれば、その人にとっては、救急車利用は「有料」でしょうか?それとも 「無料」でしょうか?


さあ、中学ディベーターの諸君。特に肯定側ご担当の方々。

ぜひ仲間の皆さんと、プラン検討に先立って、議論なさるがよい。


DB甲子園中学論題2012:救急車利用料の還付プランに関して留意して頂きたいこと

2012-06-08 21:58:11 | ディベート
ディベート甲子園シーズンになり、今年も何がしか論じてみんとてするなり。

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中学論題で、付帯文に関連し、特定の人への「還付」が許容されるか否かが話題になったと耳にした。

実際、「世帯収入が年間235万円以下の世帯に属するものが救急車を利用した場合、当該年収を確認した後、徴収した料金X万円を返還する」といったようなプランをもって、立論を提出する肯定側がおられるのだそうだ。

かくして、主人、こう考えた。


●千代田区では、こどもの医療費が「無料」だ。

主人が居を構えるところの千代田区では、現在、15歳までのこども、及び高校生相当の年齢のこどもの医療費が「無料」という制度が実施されている(硬いコトバで申さば、「医療費助成制度」である。当該制度には、細かい規定はあるが、話の大筋には影響を与えないので、この際、その説明は省く)。

具体的には、対象となるこどもが病院に行って治療を受けた場合、15歳までのこどもの場合、区が発行する医療証を提示すれば、本人負担額分の医療費は医療機関に支払わなくても良い(区が、代わりに支払ってくれる)。

それに加えて、こどもはどこで病気やケガをするかわからんので、区外等の未契約医療機関を受診した場合のことも考えて、制度が設計されている。すなわち、領収証、口座番号等、必要な書類を区に申請する手続きをとると、「後日口座振込で【還付】致します」(千代田区HPより)。

また、高校生相当のこどもの医療費は、受診の日から3か月以内に、医療機関に支払ったお金の領収証等、必要書類を区に申請すれば、「内容等を審査のうえ、申請からおおむね2ヶ月以内に保護者の口座へ振り込みます。」(同HP)。

以上、ここでは、こども医療費助成制度および高校生等医療費助成制度において、「納付したお金を【還付】する」という制度が現に行われているということを確認して頂ければよろしい。

●さて、次が重要なところなのだが、この制度は「高校生までの子どもの医療費を【無料化】する制度」として、一般には認識されている。あるいは、実際にそのように呼称されている。

主人もそのように認識しておるし、ご近所の皆さんに聞いてみても、同様に、「千代田区は、こどもの医療費が無料だよ」と仰るであろう。ほかにも、例えば、共産党さんは、次のように自画自賛しておられる。

「千代田区は25日、現在、就学前まで対称にしている子どもの医療費無料化を、10月から中学生まで拡大する方針を明らかにしました。2007年度予算案に盛り込みました。(中略)。日本共産党千代田区議団は、06年第一回定例議会で、子どもの医療費無料化を中学3年生まで拡充する条例案を提案。また、毎議会の質問で子育て世代の切実な声を紹介し、中学3年生までの医療費無料化を求めてきました。」(2007年1月26日(金)「しんぶん赤旗」)

この制度が、共産党さんのおかげで実現したのかどうかは、全くの別問題であるので、それはさておくが、医療証の交付及び、一次的な立替払いに対する「還付」を通じて、こどもの医療サービスが「無料化」されるという言葉づかいが、実際に、かつ普通に行われているということなのだ。

よろしいか。この点、付帯文1の解釈におおきく関わってくる。

●付帯文の一つ目は、かく言う。「有料化とは一回の利用につき定額の支払いを義務づけることとする」。

ここで、追加プランによって「還付で費用がまるまる戻ってくる人」が生ずる場合、その人の救急車の利用は、果たして「有料化されたと呼んで良いのか、どうか」、と言う問題が、直ちに生ずる。

焦点は、付帯文のなかの「支払い」という語句の解釈である。

つまり、「支払い」という語句を、

A:「一方から他方への金銭の移動」として解釈できるならば、<全額>還付プランは論題内となるかもしれない(だって、還付対象者も、とりあえずお金は一時的に納付してるもんね、とか言いながら)。

それに対して、

B:「出し手に経済的負担の生ずる金銭の納付」として解釈できるならば、<全額>還付プランは論題外となるかもしれない(だって、還付で<全額>お金がもどってくるから、経済的負担は発生しない。負担のないものが「有料」のはずがない!、とか言いながら)。

●AとB、どちらの解釈が妥当か、あるいは試合において相応しい定義・解釈なのかは、基本的には当事者による試合上の議論に委ねるべきであろう。しかし、主人のデフォールトの解釈は、Bの方だ。さきに事例で述べたとおり、「有料と無料の差異は、納付者に生ずる経済的負担の有無で決まる」という理解に基づく語句の用例が、現にあるからである。

●もしBの解釈が成立した場合、試合において、特定の人向けの<全額>還付プランを出した肯定側は、ちょっと苦労することになるであろう。付帯分2「有料化の対象はすべての利用者とする」が合わせて効いてくるので、「肯定側プランは、一部の利用者が【無料】のままになるので、すべての利用者を有料化の対象とするという付帯文に抵触する」と否定側に指摘されて、良くて追加プランの効力喪失、最悪、プラン全体として論題を充当しなくなるとみなされて敗戦というリスクにさらされることになるからである。老婆心ながら、追加プランを出すならば、そのリスクマネジメントもちゃんとやっておいて欲しい

●もののついでにもう一点。低所得者層への政策的配慮は良いとして、もし現状での救急車の不適切利用が低所得者層において集中的に発生しているという分析が提出されたなら、金銭的負担が救急車利用の抑制インセンティブである以上、還付プランは、みずからのメリットの問題解決性を相当に傷つけるということを、肯定側は認識しておくべきであろう。

●最後に、これは発展的課題になるが、「定額の支払い」が意味するところは何か、あるいは妥当な解釈は何か、お考えになってみるのもよかろう。さすれば、その解釈の埒内において、論題充当性を欠くことのない追加プランが検討できるようになるであろう。

***

以上、ちょっと長文になってしまって恐縮なので、以下、まとめとして。

1.論題及び付帯文において、「徴収した料金を返却する」、すなわち「還付」することが許容されるかどうかは、当事者の議論にお任せしたい。

2.しかし、還付によって、金銭負担が全く生じない救急車利用者が一人でも生ずるようなプランであるならば、付帯文2との合わせ技で、それは甚だしく論題外の疑いが濃くなる。この点、「支払い」という語句をどう解釈するかがカギになる。

3.「後に返金されることが保証されている際の一時的な使用料の納付」を「無料」と称している制度の事例が容易に見つけれるなか、肯定側として「後に返金されることが保証されている際の一時的な使用料の納付」を「有料」と呼んで良いと考えるならば、そのような根拠を用意しておくべきである。

4.より一般的に、還付プランに限らず、追加プランを検討したいのなら、論題解釈=論題充当性のチェック、および想定される否定側からのチャレンジをどのようにかわすかという検討を、あわせて行って欲しい。

5.なお、上記の議論は、政策・制度設計上の望ましさという視点からの議論ではない。消費税だって、低所得者対策として、軽減税率だの、一時金の支給だの、そういった措置を制度導入・改編時に検討するのは、あったり前の話である。これはあくまで、論題解釈上の問題として論じているのだという点、誤解なきようにお願いしたい。

***

今年は、いろいろと用が立て込み、地方大会ではお目にかかれぬかもしれないが、中学生ディベーターのご健闘を祈る。