漆原将司は、何処に居ても心を閉ざしていた。
大学時代から、いわる「群れる」ことを嫌ってきたので、常に単独行動であった。
証券会社に就職しても、同僚との付き合いを殆ど避けてきた。
三鷹の住人となり、居酒屋で独り酒を飲む彼も自分流を貫き、出会った誰とも言葉を交わすことがなかった。
特に彼の上目遣いの視線が、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出していたのだ。
だが、ある日、スナック「リボン」のカウンター席に座る彼に、横に座る若い女性が話かけてきたのだ。
「先日、越後屋(居酒屋)であなたのこと見かけたの。この店にも来ているのね」ほほ笑む女は、「何者なのか」将司戸惑うとともに、警戒する。
視線を相手の腰の辺りに向けれる豊であり、しかもミニスカート姿だった。
「水商売の女だな」沈黙する彼は相手を蔑む。
「あなたは日本酒以外に、ウイスキーも飲むのね」その女性は将司のグラスに視線を向けながらワイングラスを口に運んだ。
「どこからから来たのですか?」将司は聞いてみた。
「武蔵境に住んでいるの。あなたは?」
「三鷹の地元」
「そうなの。若く見えるけど、学生ではないわね」
「はい、会社員です」
「そうなの。三鷹の生まれなの」
「いいえ、千葉県の我孫子です」
「そう、我孫子なのね」相手は何故か微笑むのだ。
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