ネオニコチノイド系農薬問題とは?

2019年12月19日 10時47分01秒 | 社会・文化・政治・経済

一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト

~情報・資料集~

生態系への影響

ネオニコチノイド系の農薬は、昆虫に特に選択的な神経毒性を持つとともに、水に溶けて地下水や周辺の植物に取り込まれ、長い間分解されないという残留性も持ち合わせています。

こうしたネオニコチノイド系農薬の特性から、周囲の生態系への影響は1) 高濃度の農薬に短時間さらされる、2) 低濃度でも長期間持続的にさらされる、という2つのパターンから考えていく必要があります。

特に後者においては近年研究データが報告され始め、生態系全体への新たな懸念を指摘する声が相次いでいます。

「安全」とされていたネオニコチノイド系の農薬は生態系にどんな影響を及ぼすのかを見ていきましょう。

曝露経路 

まずネオニコチノイド系農薬に一番影響を受けやすい昆虫を中心に、どこでこの農薬と接触するのかを見てみます。

農地や樹木に主に使われているネオニコチノイドですが、浸透性と残留性という2つの特性から、農薬に直接および間接的に接触する可能性が考えられます  

一番直接的な接触の例をあげると、農薬を散布しているときや、種子処理された種子を植えるとき粉塵となったものに直接接触するケースです。

また、こうして農作物に使用されたネオニコチノイド系農薬が根から作物に取り込まれ、樹液や蜜、花粉にまで行きわたり、これを摂食した昆虫もまた農薬に曝露されます。

さらに、農地で使用された農薬が用水路や地下水を経由して周辺の水系に入り込み、これらの水中に生息する生物や、水を飲む生物も農薬に曝露されてしまいます。

ハチの場合、餌として巣に持ち帰る農薬に汚染された蜜、花粉、水分などから、次に間接的ながら幼虫にも農薬の影響が広がります。

食べ物ばかりか、巣をつくる材料として使われる蜜蝋や木の葉などに農薬が入り込み、巣のなかですごしているだけで知らず知らずのうちにネオニコチノイド系の農薬に曝されることも考えられます。

実際に農薬に直接触れる以外にも、多様な曝露経路があることがネオニコチノイド系農薬の特徴の一つで、また水溶性・浸透性により、農薬が実際に使用された地域から水を介してかなり遠くまで汚染が広まるおそれがあります。

ネオニコチノイド系農薬の影響 –急性・慢性-

では、ネオニコチノイド系の農薬に接触すると、どんな影響が出るのでしょうか? ここでは一番研究の進んでいるハチを例に見ていきます。

まず、農薬に接触した回数と濃度によって、その後の影響に大きな違いが出てきます。たとえば、農薬を散布しているときに近くを飛び回り、濃度の高い農薬に一度接触するのと、低濃度の農薬が含まれる用水路の水を飲むのとでは、影響の度合いが違います。

前者のように、高濃度の農薬に接触すると、たとえそれが一度きりだったとしても死んでしまうことは珍しくありません(急性致死)。(本来、殺虫剤として使用される農薬という意味では当然かもしれません。)

では、死に至るほどではない濃度の農薬に接触した場合、どんな影響を受けるのでしょうか。ハチを使った研究で多く報告されているのが、巣に帰れなくなる障害が表れるということです。

もともと巣から離れた場所へ花粉や蜜などの餌を集めに行くハチには優れた方向感覚が備わっているのですが、農薬により帰巣本能や方向感覚が狂ってしまうとされています。

巣に戻れないハチの多くは死んでしまうことが多く、それが巣で餌を待っている幼虫や他のハチたちの健康にも影響を及ぼします。

餌が減るだけではなく、巣の中のメンテナンスを担当するハチたちが餌集めに行かなくてはならず、外を飛び回ることで農薬への暴露を繰り返しているうちに、巣の状態が徐々に悪化し、巣全体の崩壊に至ることも少なくありません。

では、無事巣に戻ったハチが持ち帰る農薬混じりの蜜や水を摂取した幼虫や成虫はどうでしょうか。いくつかの報告によると、免疫力の低下を招くことが考えられ、感染症に非常にかかりやすくなってしまいます。

実際、ハチの大量死にはこうした感染症が大きく関わっていると考えられますが、基本的に農薬で免疫系が弱り、感染症に対する抵抗が低下することが大きな原因のひとつだとする報告も出ています。

このように、ネオニコチノイド系農薬のもたらす影響はいくつもの局面または状況にまたがり、それらが合わさることによって、世界中で報告されるハチの大量死につながっているのではないかと考えられます  
 

ハチの大量死は農業に大きく影響する

世界各地のハチの大量死が大きなニュースになっている主な理由は、花粉媒介者であるハチが農業にとても重要な役割を果たしているからです。ハチはリンゴをはじめとする果物や野菜など、100種類もの農作物の花粉を媒介し、ハチがいなくなると全世界で20兆円以上の損害が出ると予想されています。

農作物を害虫から守るはずの殺虫剤が、農業に不可欠な益虫も殺してしまうことにより、農作物に被害を与える可能性があるのです  

耐性を持つ害虫による農業被害

ネオニコチノイドを継続的に大量使用することで、耐性を持つ害虫が出現し始めているとの報告もあります。ライフサイクルの比較的短い害虫は、それだけ突然変異を起こす個体の発生頻度も高まるため、短期間のうちに農薬に耐性を持つものが現れてしまいます  

東南アジアでは、稲作における害虫の代表であるウンカにネオニコチノイド耐性を持つものが報告されています。

北米でも、コロラドハムシがチアメトキサムに26倍、イミダクロプリドに100倍の耐性を持ち、こうした耐性はネオニコチノイドが導入された3年後にはすでに報告されるなど、農薬への耐性がいかに短い期間で出現するかを物語っています 

また耐性を持つ害虫は、農薬が使われた農地に競争相手や捕食者が少なくなるため大発生し、収穫に大きな被害をもたらすことがあるので、注意しなくてはなりません。
 

ハチだけじゃない? 水に住む生物にも迫るリスク

ネオニコチノイドによって影響を受けるのは、ハチや農地に生息する昆虫ばかりではありません。農地で使われたネオニコチノイド系農薬が水に溶け、水を介して周辺の用水路や河川、そして地下水に流出し、そこに生息する生物に影響を及ぼしているという報告も出ています。

オランダの研究チームによる報告では、地表水中のイミダクロプリド(ネオニコチノイド系農薬)濃度が高いほど、そこに生息する大型無脊椎動物の個体数は少なくなるといいます。

また、地表水は管理区ごとに環境を守るるための水質基準が設けられているものの、オランダ国内の水系調査ポイントの45%、特にビニールハウスや農地周辺でイミダクロプリド濃度の基準値を超えているうえ、農薬成分が極めて低濃度でしか検出されない水中でも長期的な観測で大型無脊椎動物の数に影響が見みられました。

食物連鎖の基盤を支える生物の減少は、それらを捕食する魚や鳥など下流の生物にも大きく影響する可能性が考えられ、水系の生態系全体が崩れていくことも懸念されます  
 


鳥類への影響

ネオニコチノイド系農薬に汚染された昆虫や果実、穀物などを摂食する可能性のある鳥類への影響も徐々に調査され始めています。

特に欧米で主流となっている、高濃度のネオニコチノイド系農薬でコーティングされた種子は、植え付け直後に種子を食べる鳥にとって非常に危険で、鳴鳥など数種類の鳥は一粒から数粒食べるだけで死に至るほど高い毒性を持っています 

またウズラで行われた研究では、すぐに死に至らずともネオニコチノイド系農薬のクロチアニジンによって生殖機能に異常が表れ、生物種の長期的な生存に対する悪影響が懸念されるとの報告もあります 
 


哺乳類への影響

ヒトへの影響の懸念から、ラットをはじめ哺乳類を使ったネオニコチノイド系農薬の影響に関する研究が進められています。

これまでの研究から、ネオニコチノイドの毒性は昆虫に選択的であるとされてはいるものの、一定濃度以上の農薬を投与されると哺乳類でも死に至ることが確認されています  

また、食物に残留している農薬を摂取すると免疫機能が低下するという報告もあり、実際ラットを用いた実験では、アセタミプリドを経口投与された個体で白血球数が減少するなど、免疫系への影響が観察されています 

生殖機能においては、ネオニコチノイド系農薬はラットの精子形成および受精とその後の発達に影響が見られるとの報告  があり、タバコに含まれるニコチンと同じく胎児や新生児の脳内神経細胞に作用し、ニコチンと同じように、幼児の精神や身体の発達に影響を及ぼすことが懸念されています 

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