創作 福子の愛と別離 17 )

2024年08月03日 06時32分57秒 | 創作欄

晃は、大学時代の親友の深井啓太が日本日本橋本町の薬業専門誌の編集部に勤務していたので、深井を誘ってゆかりの母親の千幸が経営する神田駅西口に近いビル地下1階のバー「野バラ」へ行ってみた。

驚くことに、17歳のゆかりがママとともにカウンター内にいたのである。

「先生、やはりママに会いに来てくれたのね。嬉しい」満面笑みのゆかりは化粧をして大人びて見えた。
「いらっしゃい。先生のことは、娘から聞いておりました」ゆかりのママは短髪で髪を緑色に染めていた。
そして、長身のゆかりとは違い小柄で小太りであった。
母親は美術大学を出て油絵を描き、時には銀座で個展の開いていたことはゆかりから聞いていた。
実は美人ホステスの美里が、後に深井啓太と交際するとは、晃は思いもよらなかったのだ。
晃はバー「野バラ」に2度行ったが、啓太は毎日のように店に通い詰めていたのである。
その年の6月19日の「桜桃忌」は日曜日であった。
ゆかりに誘われても、休みの日でなければ晃は「桜桃忌」には行かれないはずであったのだ。
それが、皮肉な結果ともなるだから、人生は先行き分からないものだ。

晃は「桜桃忌」に福子を誘って行ったのである。

晃は、たとえゆかりが生徒として自身の好意を寄せることがったとしても、あくまで教師の立場を堅持する心づもりであった。

ゆかりは、先に一人で墓地に来ていた。

多くの太宰ファンで賑わっていた「桜桃忌」に、「凄い熱気なのね」福子を目を見張っていた。

晃の脇に立つ福子の存在に、ゆかりは気付き目を大きく見開きその顔が激しく怒りを帯びる。

そして、ゆかりは「先生の裏切りね」と甲高く声を張り上げるのだ。

福子は唖然として、相手を見詰める。

 

 

 

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