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最期の情景

2013年08月28日 18時20分27秒 | ティモコなエッセイ



ご近所の家のワン太くんは、おとなしい犬だった。
ウチのイヌ子がうるさすぎるので、ちょっぴり羨ましく思っていた。
ワン太くんの飼い主のおじさんは、ワン太くんを散歩させる時、いつもウチの庭の横を通って自宅に帰る。
私が草取りなんかで庭に出ていると、お天気とか、簡単な挨拶を、一言二言交わす間柄。その間中、イヌ子はワン太くんに吠えまくり、ワン太くんはじっと座って、イヌ子をただ見ている。
ある時、おじさんがイヌ子をしみじみと見て、「元気でいいね」と言った。
やばい。やはり吠えすぎか。優等生のワン太くんを育てた飼い主。甘やかし過ぎだと思っただろうか…。
「すみません。うるさくして…。こら、イヌ子!」
私は慌ててイヌ子を叱るマネをした。
おじさんは「いやいや」と、首を振った。

「ワン太くんはおとなしいですよね。いいなぁ」

それは私にとっては他愛のない言葉だった。怒られる前に褒め殺しだっ!という打算もあった。
本心でもあった。
散歩中はいつもダッシュで先に行こうと引っ張りまくるイヌ子に慣れていた私は、おじさんの横をおとなしくゆっくり歩いているワン太くんが、従順そうで羨ましかったから。
ところがおじさんは、寂しそうな顔をして、その場にお座りしているワン太くんを見、相変わらず吠えまくっているイヌ子を見、ふっと、目を細めた。
「ワン太にも、こんな元気な頃、あったけど。もうね、トシなんですよ。あと何回一緒に散歩できるかなぁ…」
おじさんはぺこりと頭を下げて、自宅の方へ歩いて行った。ゆっくりゆっくり歩く、ワン太くんに合わせて。

今年になって、しばらくおじさんとワン太くんを見ていないことに気がついた。
あの日の寂しそうな顔と、優しい目をしたワン太くんを思い出して、もしかしたら…という思いはあった。

夏の初めのある夜、ダオが突然「アイスクリームが食いたい!」と言い出して、たまには息子と二人、夜中の散歩もいっか~なんて、二人で近所のコンビニまで歩いて買いに行った。
その道中におじさんの家があるので、ワン太くんはまだ元気でいるだろうか…と、何気に庭を覗いてみた。
私の足が止まった。
ダオの足も止まった。
真夜中近かったと思う。
真っ暗な庭の隅のガレージに煌々と明かりがついていて、シャッターが上まで開いていたので、中がよく見えてしまったのだけど…。
おじさんが、ガレージの床で力なく横たわっているワン太くんの頭を静かに撫でていた。
その横で、おばさんが椅子に座って、その様子を静かに見守っていた。
遅寝遅起きのウチと違って、老夫婦、二人。よく朝早くから散歩してるのを見かけていたので、いつもならもうとっくに休んでいる時間ではないだろうか…。

コンビニでアイスを買って、二人で食べながら帰った。
おじさんちのガレージは、もう暗くなっていた。

お盆が過ぎ、いつの間にか蝉の鳴き声が虫の声に変わっていた。
雨も降って涼しくなったので、久しぶりに庭の草取りをした。
まだ地面が濡れていたので、イヌ子は外に出さなかった。
一人裏庭でボウボウになった草と戦っていると、
「こんにちは」
と声がした。
ワン太くんのおばさんだった。
しばらく季節の話なんかして…おばさんから、ワン太くんが死んでしまったことを聞かされた。
「…そうですか」
とだけ、答えた。
おじさんは大丈夫だろうか、とか、気になったし、お悔やみの言葉も、励ましの言葉も、頭にあったけど…。
「イヌ子ちゃんは家?」
おばさんは庭をちらりと見て言った。
「はい」
「大事にしてあげてね」
「はい」
おばさんはにっこりとして、頷くように頭を下げた。

おばさんと別れて、草取りも一段落したので家の中に入った。
イヌ子が走ってきて、短いしっぽをブンブン振って、真っ黒な目で私を見上げた。
私はしゃがんで、イヌ子の頭を撫ぜた。
温かで、切ないようなぬくもりが、小さな頭から伝わってきた。







動物は…いえ、人間も、命は儚いものですね。
だからこそ、この大切な一日一日を、後悔しないように生きなきゃいけませんね。
とか思いつつ、後悔ばかりしている、今回ちょっと真面目なティモコでした。
読んでくれてありがとう!
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14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (redbird315)
2013-08-28 19:27:43
切ないですね。
命あるものには必ず終わりが来る事が分かっていても。
おじいさんの言葉だと、ワン太君は高齢だったのかな。
たとえ高齢であったとしても、一緒に暮らした家族ならば
いつまでいつまでも傍に居て欲しいと思うのは自然な事ですよね。
ワン太君。
今頃は虹の橋で思う存分掛け回っていますよ!

ワン太君のご冥福をお祈りします。
返信する
こんばんは (obasan_desuyo)
2013-08-28 20:09:28
今日は、しんみりですね。。。
うちも15、6年前までイヌ子がいました。
16年間、犬にしたら長寿だったと思いますが
一緒に生活した年月が長いほど
別れも辛くて 死んでから2年くらい
犬小屋見て涙 他所の犬を見て涙と
イヌ子との思い出が多すぎて辛かった。
子供と一緒ですからね、
何故先に逝くの?って
後に残られても心配で困るけどね(笑)

ワン太君が天国で幸せに暮らせますように
イヌ子ちゃんも元気で長生きしてよね^^
返信する
幸せな一生 (ねこのおくさん)
2013-08-29 02:12:33
きっとワン太くんは幸せだったにちがいない!
喋れたら絶対感謝の言葉を述べてると思います!

こんな時は、
無理にお悔やみの言葉をかけなくとも、
心は伝わってるような気がします。
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おはよう (ようこ)
2013-08-29 09:31:16
ワン太くんは、高齢になっても大事にされて幸せだったでしょう。いいご夫婦の所で暮らしていたんですね。
ワン太くんのご冥福をお祈りいたします。
返信する
Unknown (ましろ)
2013-08-29 10:50:56

 ティモコさん!
せ、切なすぎるティモコさんの文章にウルウルです。 
 私も子どもの頃、犬を飼っていたので重なりました。
私が学校(高校生の時)から帰って着た時には、亡くなっていて、でもまだ温かかったのを今でも覚えてます。
本当、あの時は辛くて悲しくて「もうペットは飼えない」と
思いましたが・・・数年経てば楽しかった思い出しか蘇らず、今は犬か猫を飼いたいんですが住宅事情で
飼えません・・・。
 イヌ子とネコ子を抱っこしたいっっ

ワン太君も優しそうな老夫婦の元で幸せだったことでしょう!!きっとお子さんの様に可愛がられてたんだろうなぁ~。
「いつでも会える」 by 菊田まりこ の絵本、ご存知でしょうか? 犬のお話です!お薦めですよ
返信する
Unknown (dekochin)
2013-08-29 16:42:10
読みながらジワ~っと目頭が熱くなりました。
いつかそう言う日が来るのは分かっているけれど...
ペットとのお別れはとても辛いし哀しいけれど
忘れられない思い出が刻まれますね。
元気なイヌ子ちゃん、毎日ブンブン尻尾振ってね
我が家のMooもバウワウ、力の限り吠えますから!
ワン太くん、天国で安らかに...
返信する
Unknown (あざみ)
2013-08-29 20:13:17
愛犬を見送ると 切ないですね

でも ワンたくん 幸せだった気がするから
良かったね・・・です

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redbird315さんへ♪ (ティモコ)
2013-08-31 18:45:43
高齢だったようです。
長く一緒にいればいるほど、寂しいよね。
家族と同じだもんね。
切ないね。
今日、夕方、おじさんと会ったよ!
元気そうだった。
「まだまだ暑いね~」って苦笑してました。
なんか、安心しました。
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obaさまへ♪ (ティモコ)
2013-08-31 19:08:41
しんみりしちゃいました。
でもどうしても書きたくなって。
“イヌ子”がいたんですか?(笑)
16年間…長いですね。
さぞ、辛かったでしょうね。
楽しい思い出は多ければ多いほど辛いものです。
何も思い出がなければ辛くもならないけど。
一緒に過ごした時間は…いつか宝物になるよね。
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ねこのおくさんへ♪ (ティモコ)
2013-08-31 19:13:52
私もそう思います。
ものすごく幸せなワンちゃんだったと。
そういうふうに言いたかったんだけど、
顔見たら、上手く言葉にできなかった…。
伝わってるといいな。
ねこのおくさん、
コメント、ありがとう!
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