埼玉県川越市、所沢市など県内の6自治体で、すでに国や多くの自治体で廃止している公務員の有給の休憩「休息時間」を今も実施していることが、県市町村課などへの取材で分かった。総務省によると、休息時間を残している自治体は全国に19あり、そのうち約3分の1が県内に集中している状態だ。休息時間を残しているところでは、開庁時間が他自治体より短くなっているところもあり、識者からは「市民サービス低下につながるなら廃止すべき」との指摘もある。(田中祥子)
人事院によると、「休息時間」は、労働基準法で義務づけられる無給の「休憩時間」とは異なり、勤務時間に算入される有給の休憩。昭和24年から導入され、勤務4時間につき15分が認められていた。ところが、民間企業には普及していない制度であることから、平成18年に規則を改正して国家公務員の休息時間を廃止。現在では、24時間態勢での勤務が求められる税関職員や刑務官などの一部を除き、休息時間は設けられていないという。
国家公務員の休息時間廃止を受け、総務省でも各地方自治体に対し、基本的に廃止するよう求める通知を出した。ところが、総務省の23年4月の調査で、休息時間が廃止されていない自治体が19あることが判明。さらに、埼玉県市町村課の調べによると、県内では川越市▽所沢市▽狭山市▽越谷市▽入間市▽坂戸市-の6市で、現在も1日15~30分間の休息時間を廃止していないことが分かった。
一般にはわかりにくい休息時間だが、存続させていることによるデメリットもある。例えば、川越市役所では、職員は昼に45分の休憩時間とは別に、15分の休息時間を取っている。休息時間は勤務時間に算入されるため、職員の勤務時間は午前8時半から午後5時となる。このため、休息時間がなく昼の休憩時間が1時間のさいたま市など他の自治体より開庁時間が15分短いという事態が生じている。一部の市民から「なぜ川越市の職員だけ勤務時間が短いのか」と疑問の声が上がっているのもこのためだ。
休息時間を残している6自治体は、いずれも「廃止に向けて検討中」としているが、職員組合からの反発などを受け、詳しい廃止時期にめどが立っていない自治体もある。越谷市では、「窓口業務や市立病院などの一部の部署では、法定の休憩時間すらまともに取れていないという意見もある。職員組合からは、まずはそこをただすべきとの指摘もある」という。
また、坂戸市では廃止に向けて職員組合や労働組合と協議を進めているというが、「平成18年度に職員給与を引き下げた経緯もあり、さらに休息時間を廃止して勤務時間が長くなれば、反発は必至」と説明する。
こうした自治体の動きに対して、総務省の担当者は「今後、埼玉県を通じて各自治体に廃止を検討するよう求めていきたい」と強調する。一方で、「なぜ埼玉県内でこんなにも休息時間を残している自治体が集中しているのか分からない」と首をかしげている。現に、近隣の千葉、神奈川両県では、県を含む全自治体で休息時間をすでに廃止しているからだ。
これについて、「近くの自治体の動きを見過ぎてしまった部分がある」(所沢市)との意見もあるが、詳しい理由は不明のままだ。
新潟大学法学部の田村秀教授(地方自治論)は、「休息時間を残していることで、開庁時間が短いなど市民サービスの低下につながる恐れがあるなら、廃止が望ましいだろう。市民は公務員の動きをよく見ている。世の中の流れを踏まえ、柔軟に対応していくべきではないか」と指摘している。