みちのくの放浪子

九州人の東北紀行

薄暑とナイチンゲール

2018年05月12日 | 俳句日記


すっかり夏の空となった。
汗ばむ陽気である。
今時のこういう暑さを季語では「薄暑」
という。

ヨーロッパでは、朝夕の森の中で夏鳥の
ナイチンゲールが鳴いているだろう。
和名を「小夜啼鳥」サヨナキ鳥と言う。
美声なので詩歌や小説にも登場する。


この鳥のことを書こうと思ったのではな
く、つかみにふと湧いただけである。

フローレンス・ナイチンゲール。


今日はこの方の生誕日、「国際看護師の日」である。
世界中の看護師は、この方の誓詞を唱和
して看護学校を卒業して職に就く。

その事がどんなに偉大なことか…、ある
意味、医者にとっての「ヒポクラテスの
誓い」以上に尊いことに思える。
医者は「知見と技」だが、ナースは人道
への献身と人の「心」に生涯を捧げる。

私は何故か若い頃から、一歩間違えば死
に至る病を色々経験させられて来た。
そのたびに、長期の入院・療養を余儀な
くされた。

その都度患者として看護師さんにお世話
になったが、この方達はほとんど菩薩様
であると感じて来た。
職業を超えた職業、いわば神の使徒だ。

考えてみるがいい。
勤める場所は、日常の空間では無い。
異常な状態にある人間と目に見えない菌
が蔓延する閉ざされた空間に身を晒す。

鉄血が辺りを占める戦場は、更に過酷な
空間である。
この方は、そこから現世の務めを起こし
、終生、看護の制度設計に尽くされた。

クリミア戦争に従軍して、


「白衣の天使」と慕われ、或いは、
「ランプの貴婦人」と称賛された。


英國に戻ってからは、数々の看護に関す
る提言を統計学に基づいて表し、看護学
を体系付け、幾つもの学校を作った。
看護師の世界を地球上に出現させた。

「天使とは、美しい花を撒き散らす者で
はなく苦悩する者の為に戦う者である」
「個人の犠牲なき献身こそ真の奉仕」
この方が遺された名言である。

理知と使命感が溢れる言葉だ。
38歳で心臓病を病まれてからは、現場を
離れ、50年間を自室で過ごされた。
73歳まで、それまでに得た知見を書き続
け、90歳で天寿を全うされた。



晩年のお写真には、大業を成し遂げられ
た禅定の境地と気品が漂う。
もはや聖人のお姿である。
お陰で、私も今まで生かされて来た。

〈生かされて 先人慕う 薄暑かな〉放浪子
季語・薄暑(初夏)

5月12日〔土〕晴れ
三十年戦争のウエストファリア条約。
ナポレオン戦争のウイーン条約。
クリミア戦争のパリ条約。
どの条約も、次の戦争の火種を残した。
パリ条約の不始末が第一次大戦の引き金
となり、今日まで対立の原因となった。

第一次大戦が第二次の引き金になった事
は皆知っていることだ。
先日書いたように第二次大戦の残り火は
各地に残っている。

そんな第一次大戦の四年前、聖人が相次
いでみまかられた。
アンリ・デュナンとナイチンゲールだ。
お二人とも名家に生まれながら、使命に
生きられた。
Noblesse oblige(ノブレツソ・オブリー
ジュ)「高貴なるが故の義務」に生涯を
捧げられたのである。
かつての日本人にはそれがあった。