“年頃の娘が三人いる家というのは、にぎやかだ。よく食べ、よく喋り、よく笑う。父親の居場所はなかなかない。
食堂で笑っている声が聞こえると、仲間に入りたいけれどタイミングがつかめない。食堂へ行き「お茶をくれ」と言う。今まで笑っていた娘三人と妻はじろりと父を見て「部屋まで持って行ってあげるわ」と言う。お茶を運ぱれたら、またひとりぼっちになる。
「ここで飲んでいくよ」と言うと、どっと笑われる。実は「お父さん、きっとこのあたりでお茶を飲みに来るわよ」と話していたところだった。父の心理はとっくに読まれていたのだ。かくして一家は「お菓子とお茶と笑声」と「お父さん」が交ざって、めでたしめでたしとなるのである。”(2月19日付け中日新聞)
「300文字小説」から愛知県半田市の主婦・対比地さんの作品です。女系家族の父親の悲哀である。わが家は娘2人であるが、3人となると女性の威力また倍増であろう。昔は家長制で父親の権威絶対であったろうが、それがなくなったら全く逆転である。サラリーマンなど外で働く父親が多くなり、家庭は主婦任せになった事も一因であろう。
家族といえども、女性多数の中に男性が入るのは難しかろう。ボクがどうだったか、今となってはよく思い出せないが、娘が嫁ぐまではそんなに悲哀を感じた覚えはない。妻が気づかってくれたのであろう。しかし今は、娘家族が来るとボクは悲哀を感じている。ボクが入り込む話題が少ないのである。そして父親ほったらかしで話が弾んでいる。この虚しさと言ったら、言い様がない。今はそんな場も控えたいくらいだ。
この作品のお父さんは良い方だろう。自分で入る機会を作る意欲がある。しかし、入った後、会話に入っていけるだろうか。ぼくには不安に思える。