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雑感録

これもビートルズだ! その13『ABBEY ROAD』

 
ABBEY ROAD(1969年)

制作順ではビートルズの実質的ラストアルバム。
ビートルズはルーフトップと翌日のスタジオライヴの後しばしの休暇をとり、『I Want You』までレコーディングしてから、そこまで主にエンジニアとして関わってきたグリン・ジョンズに“アルバム『GET BACK』”のマスター制作を丸投げする。
この間、ジョージは一人で『Old Brown Shoe』『Something』『All Thing Must Pass』のデモテープを作っている。
その後シングル用に『The Ballad of John and Yoko』『Old Brown Shoe』をレコーディングし、『Let It Be』『You Know My Name』にオーバーダブを加えたりしながら『Oh! Darling』『Octopus's Garden』『Something』『You Never Give Me Your Money』のレコーディングを進めている。

ポールがマーティン先生に「もう1枚作りたい」とプロデュースを依頼したのは、それから1カ月の休暇をとった後だった。
休暇の直前にジョンズの『GET BACK』マスターは一旦完成している。
思うに、これを聴いたポールは、『GET BACK』が失敗に終わったこと、そして自分がグループのイニシアチブを取ることの限界を思い知ったんではないだろうか。
さらには、『You Never Give Me Your Money』を進めるあたりで、かの有名なHuge Medley構想を思いついた。
そしてポールは決意する。
ビートルズの名誉挽回、最後に集大成ともいえる大作を作ろうと。
(最後といっても解散まではこの時点では考えてなかったかもしれないが、今後はみんなソロに比重を移すだろうとは思っていたはずだ。)
それには、特にHuge medleyを実現するには、マーティン先生は欠かせない。
自分のアイデアであるHuge medleyをやる代わりに、他はあんまりあれこれ指図しないようにしようとも考えていたと思う。
かくしてABBEY ROADプロジェクトは動き出した。
ジョージとリンゴはどこまで最後を意識していたか不明だが、ジョンはもはやいつでもビートルズを辞めてOKの体勢に入っている。
中山康樹先生曰く、『SGT. PEPPERS ~』で架空のバンドに扮したように、『ABBEY ROAD』ではビートルズが在りし日のビートルズに扮した。
まさに中山康樹に5000点、倍率ドン!の世界である。

実際、みんな頑張った。
ジョージなんか、ここに来て名曲を2つも出したと評判だが、何よりこのアルバムで際立っているのはジョージのギターだと思う。
さりげなく、それでいてツボをしっかり押さえ、曲の印象を決定づける、歌バンドとして最高のギターをプレイしている。
リンゴも素晴らしい。
曲を書いたというのはご愛嬌だが、ジョージ同様、さりげなく、それでいてツボをしっかり押さえ、曲の印象を決定づける、歌バンドとして最高のドラムをプレイしていると思う。
ジョンはちょっと冷めてる感じだが、交通事故の後で、スタジオにベッドを入れてヨーコを寝かせるなんてとんでもないことをしてくれた。
とにかく、本当にこれでビートルズはすべてを吐き出した。
現在の音律、楽器編成でやれるポピュラー音楽のすべてをやり尽くした。
これ以上何をやれというのか。
実際、解散後の各メンバーのソロも、他のすべてのミュージシャンも、ビートルズが築いたポピュラーミュージックの土台の上で、小手先を変えてやってるだけに過ぎない。
やはりビートルズは『ABBEY ROAD』をもって、終わるべくして終わったのである。

ジャケットには『RUBBER SOUL』以降タイトルだけでグループ名は入ってなかったが、このアルバムではついにタイトルすら入らなかった。
また、初めてステレオ盤のみの発売。
イギリスのオーディオ状況もようやく革新したらしい。

なお、シングルとしてはアルバムの頭から2曲、『Come Together』『Something』がアルバム発売後に両A面でシングルカットされている。

01 Come Together
チャック・ベリーの曲のパクリだと言われ、かなりの譲歩的和解をした曲。なにせパクられた方の原曲を知らないので何とも言えないのだが、「ロックンロールに別の名を与えるなら“チャック・ベリー”やろ」とまで言って敬愛してるジョンが、しゃあしゃあとそんなことするかいな? 他のメンバー、特にポールは気づいて忠告までしたというが、あんまり出しゃばらないようにしようと決めていたポールは、敢えて強くは言わなかったのかも。そのせいかあらぬか、ポールのハモリがなぜか遠慮がちに聴こえるし、逆にベースは懸命に曲の印象を変えようとしてるかのようでもある。

02 Something
言うまでもないジョージの名曲。フランク・シナトラやマイケル・ジャクソンをはじめ、多くの人がレノン-マッカートニー作品だと思っていたということからもその偉大さが分かる(マイケルにいたってはジョージ本人に向かって「え? あなたが書いたんですか? レノン=マッカートニーだと思っていた」と言ったらしい)。ギターも「実はクラプトンではないのか」という噂が絶えなかったとか。リンゴのドラムもさることながら、ポールが独特のベースにコーラスと、弟思いのお兄ちゃんぶりを発揮している。オーケストラは、マーティン先生のスコアをジョージ自身が指揮しているそうな。

03 Maxwell's Silver Hammer
ポールのサスペンス・コメディ? ポールが演奏するシンセサイザーの元祖・ムーグはジョージが購入、EMIスタジオに移設したものなんだそう。

04 Oh! Darlig!
ポールの十八番、聴かせる絶唱型ロック。ポールの声がかすれてしまってジョンが助け舟を出すバージョンや、ジョンがヨーコの離婚成立を喜んで替え歌を歌うものなど、楽しいアウトテイクも多数ある。ポールのボーカルとは対照的に静かに美しく流れるコーラスも秀逸。これぞビートルズ! しかし、歴史を知ってるせいか、この頃のポールの曲は、やたらジョンに向けられてるような気がしてなりません。

05 Octopus's Garden
リンゴの自作曲だが、映画『LET IT BE』でも見られるように、ジョージがかなり手伝った模様。ジョージはギターでも大活躍。ところで間奏の人の声のような、震えながら右に行ったり左に行ったりするアーという音、なんだろうと思っていたら、ポールとジョージの高音コーラスを機械的にいじったものらしい。

06 I Want You (She's So Heavy)
まるでメタボな女に捧げるデブ専の歌のよう。「she's so おもーい」「おもーい」「おも~おいっ」という悲鳴とも歓声ともつかぬコーラスが素晴らしい。珍しくギターがほとんどボーカルにユニゾンしている。エンディングではジョンとジョージがギターを何度も重ねたそうで、ポールのベースも動き回り、砂嵐のようなノイズサウンドも渦巻いて、突然曲が終わる。レコードではここでA面が終わるので、聞き手は突然の虚無的な静寂に放り出されてしまう。

07 Here Comes the Sun
放り出されたかのような虚無感のあと、気を取り直してレコードを裏返すと、ジョージが優しく癒してくれる。ギター弾きなら誰でもカポをつけてトライした経験のある曲。ここまで陽気なジョージも珍しい。中間部の手拍子もチャレンジした経験がおありだと思うが、転拍子が絡むので、これが意外と難しい。ジョージのムーグも活躍。ここでもベース、コーラスとポール兄ちゃんの貢献度大。だが、なぜかボーカルは右に寄せちゃっている。
それにしてもね、ようやくジョンやポールと肩を並べられるところまで成長したジョージ、まさかこのアルバムでビートルズがなくなるとは思ってなかっただろうな。

08 Because
久しぶりのビートルズのコーラスワーク(3人が3回重ねたらしい)。曲はヨーコがベートーベンの『月光』を弾いてるときに、楽譜を逆さまにしたとかコードを逆に弾いたとか、よくわからないけどそんなことが言われている。
ジョン「その曲、逆さまに弾いてみて」
ヨーコ「ン~ャジャジャジャジ」
ジョン「それ、『月光』じゃなくて『運命』ジャ~ン」
ヨーコ「オー、ノー!」

09 You Never Give Me Your Money
メドレーのオープニングは、1曲で3曲分のミニメドレーのような構成。パートによって声質を使い分けるポールのボーカル、恐るべし。ピアノとギターの絡みも素晴らしい。おまけにポールのボーカルがあっちに行ったりこっちに行ったり(エンディングでは楽器の位置も入れ替わってるではないか)。ベースのオクターブも乱れ打ち。とにかくカッコよすぎて文句のつけようがない。賞賛するのさえおこがましい。

10 Sun King
『Because』に続いてコーラス曲。レコーディングは11と続けて行なわれており、11ではポールのベースにかなりファズがかかっているが、この曲から既に少しかけていると思う。タイトルは当初『Here Comes the Sun King』(歌詞そのまま)だったとか。
ジョン「タイトルが似ていて紛らわしいな」
ジョージ「ジョンのを『サン・キング』にしたら?」
ジョン「お前のが『サン』でいいだろ」
ジョージ「げろげろ」
さすがにジョンもそれじゃあんまりだと思って妥協したのである。

11 Mean Mr. Mustard
この曲では兄のMr. Mustard、12では妹のPolythene Pamが主人公。ジョンがメドレー用に提供したというよりは、この曲も12もイーシャ・デモだったかGET BACKセッションだったかで披露済みだったので、ポールの構想には始めから組み込まれていたのかもしれない。

12 Polythene Pam
のっけからのギターアタックがカッコいいが、もとの通り『Her Majesty』が入っていたらここまでのインパクトはなかったかも。この曲と13も連続してレコーディングされている。後にジョンはこのメドレーに否定的な発言をしているが、次のポールの曲に入る前に「外を見ろ!(気をつけろ?)」と叫んだりして、ちゃんとお膳立てしてやってるではないか。ドコドコドコドコのリンゴのドラムも面白い。

13 She Came in through the Bathroom Window
ジョージのきらびやかなギターが冒頭のイメージにぴったり。ポールのベースも動きまくっている。これにてメドレー第一部終了。

14 Golden Slumbers
メドレー第2部はポールの曲のみによる構成。1曲目はポールの迫力満点のバラードで、古い子守唄にポールが勝手にメロディをつけたもの。リマスターで最初の「ワンスデアワザウエイ」のなんと生々しく美しく響くことよ。この語りかけるような歌い方から一転して「グォオオールデーン、スラアーンバ」と熱唱されては、寝た子も起きてしまうと言うものだけど、とにかく素晴らしい。

15 Carry That Weight
メンバー全員の大合唱で、徳川家康のありがたい言葉を唱える。大合唱とくればで、やっぱりリンゴが張り切っている。メドレー1曲目のリプライズを入れて、より交響曲的な仕上がりにするあたり、やっぱポールは天才だ。

16 The End
メドレーの最後を飾る曲で、リンゴの最初で最後のドラムソロ(もちろんドラムはステレオ)に、ポール、ジョージ、ジョンのギターソロバトル。コーラスに妙に高い声が入っているのに気づいたが、誰だ? まあ、それはともかく、タイトルはメドレーの終わりだったのか、アルバムの終わりだったのか、ビートルズの終わりだったのか(当初、仮題として『ending』と名付けられていたので、意味合いとしては最初のメドレーの終わりだろう)。とにかくビートルズはこれで終わりを告げたのである。

17 Her Majesty
ご存知の通り、メドレーの11と12の間に置かれていた曲。頭の“ジャーン”は、11の最後、「ダリオ~マ~ン」ダララダリラ“ジャーン”の“ジャーン”、最後の“テントー”は13のイントロに続く“テントー”シャーン、シャーン、シャーンの“テントー”である。ポールの弾き語りで他のメンバーは参加してないし、明らかに流れを切っているし、メドレーからはずしたのは正解。セカンド・エンジニアのジョン・カーランダーと天の思し召しによって、『The End』終了20秒後にさらっと流れることになった

つづく
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