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ビジネスにも料理にも役立つ“ネタ”が満載!社労士・診断士のコンサルタント立石智工による経営&料理ヒント集

企業防衛:経営者はどこまで守られるべきか?

2005-11-02 | マネジメント
各種報道によると、経済産業省の研究会「企業価値研究会」がこれまでに行ってきた「公正な敵対的買収防衛策のあり方」についての検討結果が明らかになったようです。

【参考記事】
黄金株、上場企業に容認を 経産省の研究会が論点案(共同通信)
敵対的買収に拒否権 「黄金株 上場企業にも」(共読売新聞)

記事の範囲内の情報ですが、今回の検討では条件付ながらも「複数議決権株式等の企業買収の拒否権を持つ株式を上場企業が発行することを容認する」という、今までから考えると大変ドラスティックな提言がまとめられたようです。

ここでふと疑問に感じるのが、このような株式の発行が「過剰防衛=経営者の地位安定のための防衛」にならないかということです。

ここ最近の企業防衛にまつわる話題を見ていると、「経営の安定(≒経営者の地位の安定)がなければ、持続的な成長は果たせない」という論調が目につきます。しかし、私はこのことを過剰に捉えすぎてしまった場合、「株主にとっての利益」がなおざりにされる危険性があるのではないかと感じています。

確かに、「お家騒動」が起るような企業ではマズイのでしょうが、かといって、経営陣が好き勝手に放漫経営を行ってしまってもこれまた出資する株主にとっては問題です。従って、経営者の地位は「適度に安定(=多くの株主にとって合理的と感じられる経営をしていれば、むやみに地位を脅かされない)」と、「適度な緊張感(=多くの株主にとって合理的でない感じられる経営をしてしまえば、その地位は失われる)」を保つという非常に微妙な”さじかげん”が必要なのだと感じます。

そうすると、今回の報道のような「複数議決権株式等の発行」を行うことによって「現経営者にとって友好的な株主」のみが経営者への口出しを行えるようになるとすれば、一部の株主の利益のみを代表するような経営が通ってしまうのではないかという懸念が生まれます。もちろん、この点は十分な検討が行われているのだろうと思いますし、現に発動条件として「〈1〉効力を短期間に限定する〈2〉取締役会決議で無効にできる条項を設ける〈3〉株主総会で廃止決議が行われれば無効にできる条項を設ける」などの案が提示されていますので、心配しすぎなのかもしれませんが、どこか納得の行かないところを感じてしまいます。

原則論に立ち戻れば、株式を上場した以上、経営者や他の株主は、誰がその企業の株主になっても文句はいえないわけです。したがって、経営者は「株主から選ばれて委任を受けている存在」であることを認識し、たとえ誰が株主になろうとも、「株主の期待に応える=会社の価値(利益)を高める」ことに力を注ぎつづけることで、自らの地位を確保してかなければならないのだと感じます。。

そもそも、「株主の期待(≒利益最大化)」に応えられるうちは、株主としても過度に経営者としての地位不安定にすることは「合理的な行動」とはいえないわけです。そう考えれば、なによりも「きちんとした経営を行い、成果(利益)を獲得していき、株主の期待に応える」ことが、最大の防衛策なのかもしれません。

なお、種類株式の活用を含めた「多様なガバナンスの可能性」に関する話題が、いつも愛読させていただいてるisologueの磯崎先生のブログにて展開されています。ぜひ、この件についても磯崎先生の見解もお聞かせいただきたいと(この場で勝手に)表明させていただきます。

経済産業省の「企業価値研究会」がまとめた提言は8日に正式公表されるとのことです。提言内容に注目したいと思います。

リスク管理:「フェールセーフ」の視点

2005-11-02 | マネジメント
昨日のエントリDakiny様からコメントをいただきました。


ダムの放流のプログラムを作っていた人が言った。

100万回に1回のミスがあっても人が死ぬ。
だから100万回に1回のミスがあってもいけない。

まさに金言です。

ただ、それでも「完全にミスをなくす」ことは不可能です。なぜなら、人は「今の現状から将来起こりえること」をすることは残念ながらできないからです。(これが出来たら「予知」になってしまいますよね。)

だからこそ、「予期しないミスは起こるかもしれない」という発想で、フェールセーフシステムやフォールトトレランスを「全体の仕組みとして組み込んでいく」ことが大切なのだと感じます。ダムの制御システムもそうですが、いわゆる「インフラ」として機能するシステムなら、なおさらです。(ほとんどのシステムは「インフラ」なのかもしれませんが・・・)

報道ベースでの情報しかわかりませんが、今回の障害~トラブルの復旧に手間取った原因は「ハードは多重化されていたが、ソフトウェアは同一だった」ことなのでしょう。「日本経済のインフラ」として高度の可用性(安定して稼動しつづける能力)が求められる東証のシステムに、ソフトウェア面の「冗長性」が組み込まれていなかったのが、非常に残念でなりません。

ただ、私としては、ここで「実際に開発に取り組んだ人の意識の問題」に帰結させたくはありません。なぜなら、このような大規模システムの開発の場合にはたとえ個人の能力が高くても「集団思考のワナ」に巻き込まれる可能性もあるからです。(ちなみに「集団思考のワナ」については、PRESIDENT 20005.11.14号に詳しく紹介されています。)

繰り返しになりますが、重大なインフラを支えるシステムであればあるほど、「100万回に1回の障害」も許されません。しかし、残念ながら「絶対にミスをさせない」ように人をコントロールすることはできません。だからこそ、この「100万回に1回の障害」を起こさないために、「人はミスを起こしてしまう」という前提にたって、「仕組み・仕掛けとして、可能な限りミスが大きな障害に繋がらないように、(開発プロジェクトを含めて)マネジメントしていく」ことが必要になるのだと、私は考えます。

リスク管理:“東証システム障害”と重複上場

2005-11-02 | 経営実務
東京証券取引所で、システムダウンによる取引全面停止という大変なトラブルが起こってしまいました。どうやらシステム増強時の設定(プログラム?)ミスが原因ではないかと言われていますが、まだ真の原因は調査中のようです。

最近、このての「システム移行に伴う障害」が多発している感がありますが、このような記事を見るにつけ個人的には「なぜ、レガシーシステム(旧システム)をバックアップとして使える体制にしておかなかったのか?」ということに疑問を感じてしまいます。その点、先日の気象庁のトラブルは、2時間という時間はかかったものの、障害復旧が迅速に進んだ点では評価できるものだと感じました。

さて、私は今回のトラブルを「上場している企業」サイドからみてみたいと思います。上場している企業にとっては、このような「市場での株式売買が出来ない!」となると、その影響がどのような形で株価形成に影響するのか全く分かりません。今回の場合は「再開後、株価が概ね高くなった」という結果になりましたが、これも「Uncontrolable」な要因であったことは間違いないわけです。安定した経営を目指すのであれば、このような事態は望ましくないといえましょう。

逆にいえば、上場企業は必要に応じて「証券取引所のインフラ機能」が停止することも見越したリスク対策を講じておくことも必要になることが、今回浮かび上がってきました。実際、大証や名証へ重複上場している一部の上場企業の株式については、重複先の市場での取引が行われています。(おかげで、大証はかなりのシステム負荷がかかったようですが・・・・)

これまで、上場維持コスト負担等の家根合から、重複上場を廃止する上場企業が多く見まれました。しかし、今回のような「不測の事態」が起こってしまうと、単一市場で上場している企業の株式は取引できなくなってしまうのです。そうすると、投資家にとってみれば、若干とはいえ「安心して取引できる状況」が減ってしまうことになり、「投資先の選定」にあたって一瞬のためらいが起こる可能性もあります。

「市場インフラ機能の停止」はもちろん本来あってはならないことなのですが、全ての事態に備えて完全な体制を築くことはできません。そうすると、上場企業側自身が出来る範囲で、「リスク対策」を備えることも必要な面があります。その意味において「重複上場」は、取引インフラに冗長性を持たせることができ、今回のような「インフラ停止」という非常事態への対策となります。こう考えると、「重複上場」にも「IS(Investor Satisfaction:投資家満足)」を高めることに繋がるいくばくかの価値があるのではないかと、私は考えます。(もちろん、最後は「リスク」と「コスト」のバランスで決定されることではあります。)

ただ、この「冗長性」は国内の証券取引所が同一システムで動いていると意味がなくなってしまいます。現に、今回の障害では、同一システムを使っていた札幌・福岡の証券取引所も止まってしまいましたので、今後の「証券取引所機能の担保」という面で検討の余地があると感じます。