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ビジネスにも料理にも役立つ“ネタ”が満載!社労士・診断士のコンサルタント立石智工による経営&料理ヒント集

リスク管理:責任の所在はどこに?

2005-11-21 | マネジメント
マンション・ホテル等の耐震データ偽造問題が大変大きな問題となっています。一級建築士がウソの構造計算書を作成し、これに基づいてビルが建設されてしまったが故に、結果として「大変弱い構造の建物」が建築され、現に利用されている状態に陥ってしまったということです。

さて、この問題ではもちろん「ウソの構造計算書を作成した一級建築士」が最も責任が重いのは間違いありませんが、「リスク管理」という面から少し視点を変えて責任の所在について考えていきたいと思います。

(1)「お客様」から見た責任の所在は?


今回の場合、問題とされている建物は、マンション(賃貸・分譲)とホテルに利用されているようです。このうち、マンションとして利用されている建物について、「お客様=購入者 or 賃貸入居者」から責任の所在を考えてみたいと思います。

まず分譲マンションの場合、マンション購入者は、施主であるデベロッパーから一定の専有区分を購入することとなります。つまり、購入者は「施主から問題のない建物を受け取る権利」を得るために、「施主に対価を支払う義務」を追うことになります。このとき、購入者からみれば、どの建設会社を使おうが、どこの建築事務所が設計しようが関係ありません。あくまでも、「施主から問題のない建物を受け取る」ことになりますので、もし、引渡物件に瑕疵があるとすれば、購入者に対しては施主がその責任を負うことになります。

同様に、賃貸マンションの場合においても、入居者は貸し手である大家から「問題のない建物を賃貸借する」ことになりますので、建物の瑕疵については大家が責任を負わなければならない問題となります。なお、賃貸物件で大家とデベロッパーが異なる場合には、上記の分譲と同じように「デベロッパーが購入者である大家に対して責任を負う」ことになります。

いずれにせよ、お客様からすれば、あくまでも「契約の相手方(デベロッパーや大家)」が「問題のない建物を引き渡さなかった」ということになります。つまり、お客様に対して直接責任を負わなければならないのは、「デベロッパーや大家」ということになります。

(ちなみに、マンション販売や賃貸には仲介業者が介在することも多々ありますが、今回のケースでは、仲介業者が告知義務違反等を犯していない限りは、仲介業者の責任が問われることはないと思われます。これは、あくまでも仲介業者は売買・賃貸契約の「仲介」をしているのみであり、売買・賃貸契約の主体となならないからです。)

(2)デベロッパーからみた責任の所在は?


さて、こうなると、デベロッパーとしては「うちは信頼して任せていたんだから、設計事務所がわるいんだ!だから、設計事務所に言ってくれ!」と言いたいところでしょう。ここで確認しなければならないのは、「設計事務所」と「デベロッパー」、さらには「建設業者」との関係です。

報道を見る限りでは、今回のケースでは「デベロッパー=設計事務所」という契約関係にて設計業務が行われているようです。従って、設計事務所は「デベロッパーの委託先」となります。

もう一度、お客様視点で考えて見ましょう。お客様からみればデベロッパーがどの委託先を使うのかは預かり知らないことですので、問題があったとしても「こんな委託先として選定したのが悪い!」ということになります。すなわち、この段階でデベロッパーは「この設計事務所を委託先として選定した」という判断に対して、責任を取る必要があります。

一方、委託先である設計事務所がが問題のある業務を行っていたわけですから、この設計事務所は当然このデベロッパーに対して責任を負わなければなりません。しかし、ここで問題になるのが「契約上のリスク分担」です。例えば、「業務が終了し、納品検収が終了した時点で、委託先は瑕疵に対する責任を負わない」等と契約されていたとすれば、これは「既に終わっていること」として責任追及ができなくなってしまう恐れがあるのです。(ただ、もちろん今回の場合は明らかに「故意」ですので、この条項が当てはまるかどうかは微妙です。)今回のケースでは契約内容が明らかにされていないので、どこまでどのような形で「リスク分担」がされているのかは分かりませんが、いずれにせよ、「話がこじれる」要素は含んでいるかもしれません。

なお、今回のケースを複雑にしているのが、デベロッパー側が「建設会社から設計事務所の紹介(指定?)を受けた」と主張している点です。これが単なる「紹介」でありデベロッパー自らの判断で設計会社選んでいるのであれば、建設会社に責任を負わせるのは難しいでしょう(道義的責任はあるかもしれませんが・・・)。しかし、実質的な「指定」となると、これはデベロッパー側からは「建設業者を指定した建設業者」に対して責任を求めたくなります。しかし、これを追及するためにはこの「指定」が「契約条件の一部」として認められるレベルに達していなければならず、かつこのような場合における「リスク分担」も絡んでくることになるため、相当の困難が予想されます。

本件に限らず、たとえ委託先が問題を起こしたとしても、「お客様に対する直接の責任」は自ら(今回のケースではデベロッパー)にあることを忘れてはなりません。だからこそ、ISO9001やISMS,プライバシーマークなどでは「リスク管理」の一環として「委託先管理」を行うよう求めているのです。

ここまで見てきたように、たとえ業務を別の会社に委託したとしても、お客様に対して直接の責任を負うのは委託元である当社になります。委託先を選ぶ際には「信頼して委託できるかどうか」を自らの基準で判断すること、そしてその上で「当社と委託先の間におけるリスク分担を予め明確にすること」が必要となるのです。

民間検査機関及び国の責任については、又明日のエントリーにて見ていきたいと思います。