西條奈加著
「曲亭の家」
曲亭の家の曲亭とは
滝沢馬琴のこと
ペンネームが曲亭馬琴
あの「南総里見八犬伝」の作者
1814年に刊行開始
28年かけて、全98巻、106冊の大作
この里見八犬伝は角川映画で
薬師丸ひろ子さんと真田広之さんが演じていたのを見た記憶があります
NHKの人形劇でもやっていましたね~
この「曲亭の家」は西條奈加さんが「心淋川」で直木賞受賞後の第一作目の本
馬琴が主人公ではなく、嫁、路から見た馬琴と路の生き様が描かれています
冒頭はこんな不穏な入りから
どうしてこんな家に、嫁いでしまったのだろうー。
お路は深く、後悔していた。そして今日、遂にその気持ちが爆発した。
「お舅さま、お姑さま、旦那さま、短い間でしたがお世話になりました。
私、実家に帰らせていただきます」
周りから稀代の人気戯作者の家に嫁ぐなんて玉の輿などと言われ
そんなものかと嫁にきたものの
曲亭の家は自分の育った家とは真逆
横暴な舅
癇癪持ちの夫と小うるさい姑
家の中が暗い
冒頭の言葉を述べて、きっぱりと嫁ぎ先を出てきたものの
馬琴が倒れたから戻って介抱してくれと、迎えに来た夫
お腹にはこどもが・・・
仕方なく曲亭の家に戻ります
この家の常識人は彼女だけ
彼女がいなければ、この家は回っていきません
段々、この家の扇の要になっていきます
名声の高い舅に対して
路は、日々の生活の中に小さな幸せを感じながら生きていきます
不仲だった夫に路の「小さな幸せ」を語るくだりは何回読んでもいい
もともと病弱だった夫が亡くなり、
馬琴も目が不自由になります
しかし、里見八犬伝はまだ完結しておらず
路は馬琴に口述筆記を頼まれます
気難しい馬琴にののしられます
出来るはずもないことを無理やりにやらされ怒鳴られる路
思わず積年の恨むが口をついて出てしまいます
路は、気持ちを静めるために外にでるのですが
そこで、里見八犬伝を心待ちにしている市井の人達の立ち話が耳に入ります
鬼滅の刃を待ってた人と同じような気持ち
それを聞いた彼女は腹をくくります
馬琴の口述筆記に立ち向かいます
ここ辺は本当に感動的で読ませます
苦労ばかりだった路の人生ですが
彼女はこう思うのでした
安穏とは言えない生涯だったが、不平を言うつもりはない。
人の幸不幸は、おしなべて帳尻が合うようにできている。
お路は最近、そう思うようになった。
不幸が多ければ、幸いはより輝き、
大過がなくば、己の幸運すら気づかずに過ぎる。
と。
やはり西條奈加さん、読ませてくれます