遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(504) 小説 希望(28) 他 夜の目覚めに

2024-06-30 12:41:44 | 小説
             夜の目覚めに(2024.6,8日作) 



 真夜中 ふと目を覚ます
 誰も居ない一人の寝室(へや)
 静けさに包まれた闇の中
 今日まで生きて来た 長い年月(としつき)
 甦る人生の時 過ぎ去った日々
 あの場所 あの時
 あの場所 あの時 共に過ごした
 あの人 この人は今 何処に居て
 何をしているのだろう ?
 日々 細りゆく人生の時 人と人との縁(えにし)
 自身の命も細りゆく 老齢の時
 日々 夜毎 細りゆく人生の時 我が命
 それでも今 此処にこうして生きている
 この夜を生きている 不条理 不義 不浄
 苦難 苦渋に満ちたこの世界 世の中
 僅かな幸せ 小さな幸運 
 恵みに縋りながら 日々
 過ぎ行く人生の時を生きて来て 今此処に
 こうして一人 静寂(しじま)の中 闇に包まれ
 夜の目覚めを生きている
 あと何年 ? 残された我が人生
 日々 夜毎 深まりゆく孤独
 日々 夜毎 薄れゆく喜び 楽しみ
 老いゆく人生 老齢の時
 何を心の糧として 何を見据えて 
 生きて行く ? 
 生きる 人が生きる
 生きるという事は ?
 生きている 生きているから
 生きるのだ それだけ 只
 それだけの事 
 生きているから 生きる 生きなければならない
 残り少ない人生の時 
 日々 夜毎 薄れゆく喜び楽しみ それならせめて
 豊かだったあの頃 あの日々
 若かりし頃の思い出 懐かしき思い出を胸に
 時々 刻々 迫り来る人生の終わりの時
 その時に備えて 今一度
 豊かだったあの頃 若かりし頃の思い出と共に
 今この時 人生の終わりの時を
 生きてゆこう
 あの頃の思い出と共に生きてゆく
 残り少ない我が人生 老齢の時
 一人目覚めた夜の中
 静寂にそっと呟き 眼を閉じて
 再びの 眠りへと入ってゆく




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              希望(28)
             


 
 祖母の一周忌。 
 母親が言った言葉が修二の意識の中から消えなかった。
  二月二十一日、祖母が死んだ。
 もう、一年になる・・・・
 祖母が亡くなるまでの最後の日々を思い出すと、その哀しみと共に、せめて形だけでも何かしてやりたいという思いが募った。
 一周忌・・・・
 何をすればいいんだろう ?
 どんな事をするんだろう ?
 修二には全く分からなかった。
 かと言って、母親に聞くなど出来なかった。
 お寺に電話をして聞いてみようか ?
 それでも細かな手はずを考えると自信が持てなかった。
 隣りのえ(家)のお父っあんに相談してみようか ?
 その思いも、だが、家を飛び出して以来、挨拶一つしていない負い目が先に立って、きっと、いい顔などされないだろうと思うと気持ちが引けた。
 修二はその夜、一睡も出来なかった。
 あれこれ考えながら夜の明けるのと共に結局、祖母の一周忌への思いは捨てていた。
 父ちゃんも婆ちゃんも、もう居ない !
 総てが虚しく現実だけが重くのしかかった。
 空虚な思いだけが心を満たした。
 女将さんは二十日が過ぎても修二の部屋を訪ねて来なかった。
「御免ね。近いうちに行くからね」
 女将さん自身が焦れている様子が分かった。
 修二は女将さんの肉体を待つ反面、軽い疎ましさにも似た思いをも抱く様になっていた。
 女将さんという存在に何とは無い束縛感を覚えた。
 その思いを払拭する様に初めての体験でソープランドへ足を向けた。
 雑誌の中の裸の女達では満たされない欲望が、女将さんの肉体を知った身体の中に渦巻いていた。
 初めて体験するソープランドは修二を戸惑わせた。
 それでも、そこを出る時には新たな欲望の世界が開かれた思いがして、満足感で充たされていた。
 女将さんは二月に入って三日目、土曜日の夜に修二の部屋を訪ねて来た。
 ソープランドでの体験を経た修二は積極的だった。
 女将さんはそんな修二を自分が育てたかの様に歓迎した。
 女将さんは足繫く修二の部屋へ通って来た。
 修二の積極性がそうさせるらしかった。
 修二は女将さんが以前にも増して頻繁に修二の部屋へ来るのに従って、次第に心の奥に負担を覚える様にもなっていた。
 マスターへの思いだった。
 マスターへの思いが女将さんの来る数が増えるに従って、より強く意識される様になって修二を苦しめた。
「大丈夫よ、心配なんかしなくたって。マスターはもう、わたしの事なんか諦めているんだから」
 女将さんは言った。
「マスター、駄目なの。ピストルで撃たれて死ぬか生きるかの大怪我をして以来、駄目なの。マスター、わたしばかりでは無くて、人生そのものを捨ててしまったのよ。マスターに取っては、月に何度か出掛ける花札の場だけが今では只一つの楽しみなの。その為にだけ、マスターは生きている様なものなのよ」
 修二に取っては初めて耳にする言葉ではなかった。既に、鈴ちゃんから聞いていた事だった。
「そんなマスターとどうして別れないのかって不思議に思うでしょう。でも、わたしはマスターと別れる気は無いの。修ちゃんとこんな事をしていたって、別れる気は無いの。マスター、この事はちゃんと知っているのよ。だけど、あの人、何も言わない。自分が駄目な事の負い目があるからかも知れないけど、そればっかりでないのよ。あの人の心にはもう、何も無いの。怒る事も、哀しむ事も、喜ぶ事も。あの人、人生を捨ててしまってるのよ。あの人には、自分の身体の具合いの悪い事もあって、何も信じられなくなっているのよ。せめて、わたしだけでも信じてくれれば良かったんだけど・・・・。だからと言って、わたし、マスターへの復讐の為にこんな事をしてるんじゃないのよ。ただ、寂しいだけなの。寂しくて、哀しくて、そうしなければ居られないだけなのよ。あの人、九年間、刑務所に居たんだけど、出て来た時にはすっかり人が変わってしまってたの。その間に何があったのか、あの人、何も話してくれないんだけど、昔は、あの人、その世界では県外にまで名前を知られた凄腕の人だったの。依頼された仕事も完璧にこなして。でも、撃たれたの。仲間の誰かに。マスターを消そうとしたのよ。口封じの為にね。ーーこのお店を始めてから、もう十五年になるんだけど、マスター、今でも気を許していないのよ。勿論、跡目を譲った親分がマスターには付いていてくれるんだけど、何時、何処で何が起こるか分からないって。だから、このお店の名義も家(うち)の名義も全部、わたしのものになっているの。自分にもしもの事があっても、わたしが困らない様にってね。--あの人、優しい人なのよ。わたしの両親が人に騙されて困っている時、助けてくれたの。でも、その事で恩着せがましい事は一言も言わなかった。だから、わたしは今ではわたしの両親に代わって、あの人のお母さんに出来る限りの事をして上げてるんだけど、それでも、あの人、わたしを受け入れてくれないの。あの人の死んだ心がわたしを受け入れないのよ。それがわたしには、堪らなく哀しいの。わたし、今でも、あの人の心の中に入ってゆく事が出来たらって思うわ。わたし今、あの人のお母さんが入っている施設へ毎週、通っているんだけど、あの人に優しくしてやれない分だけ、あの人のお母さんに優しくして上げたいと思ってるの。わたしには兄妹も居ないし、両親も、もう居ない。だから、せめて施設のベッドに居るあの人のお母さんだけには優しくしてやりたいと思うの。ーーマスター、<ブラックキャッツ>のリーダーが刺された時、修ちゃんのナイフが使われたっていう事も知ってるわよ。警察がお店に来た時、旨く言い繕ったけど、あの人、修ちゃんを庇っていたのよ。新聞に<凶器は鋭利な刃物>って書いてあったでしょう。マスター、それで見抜いていたのよ。こういう事に掛けてはマスター、プロだもんね」
 修二は女将さんの思わぬ言葉に凍り付いた。
 自分では隠しおおせていたと思っていた事が根底から崩れ去った思いで、頭の中が混乱した。



              八



 三月初め、久し振りに北川が<味楽亭>に顔を出した。




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              takeziisan様


               有難う御座います
              扇風機四台 出ましたね  これからの季節
              今年はどうなります事やら まだクーラーを使っていません
              部屋部屋の窓を開けておくだけで どうにか凌げています
               糸魚川小唄 民謡はかなりの数知ってるつもりですが
              初めての印象があります あるいは勝太郎などで聞いた事があるのかも知れませんが
              いずれにしても初めての印象です 一流の作者達の手になる唄だけに
              言い歌です
               佐渡おけさ 相変わらずいい歌ですね
              佐渡は遠く離れて故郷でもなく 訪ねた事もないにも関わらず
              何故か 郷愁に似た感覚を覚えるのは何故でしょうか
              やっぱりあの鳥追い笠姿 魅せられます
              それにしても離れ島にも係わらず 佐渡の文化の豊かな事
              この豊かさが郷愁を誘うのかも知れません  
               米若 虎造 練り上げられたいい声をしています
              こんな芸能が当たり前のようにラジオから流れていた時代が懐かしいです
              今では総ての芸が軽くなってしまったような気がします
              テレビの画面に映ってちょっと人の気を引けばそれでスター扱い
              なんの素養もない者達に長続きのする良いものが作れるはずがありません
               野菜 相変わらずいい艶です ジャガイモ 写真を見て
              昔 掘りたてをすぐに釜で蒸かしてふうふう言いながら食べた記憶が蘇ります
              あの旨味 味が懐かしいです
              キュウリはわが家の屋上プランターでも大きく育ちました
              ピーマンと共に何度か収穫です            
               アオダイショウ 槙塀をのそのそと這い廻っていた事を思い出します
              今 御当地ではそれだけ 自然が豊かだという事なのでしょうね
              都会の 人の家の屋根ばかりを見て暮らす日々の中で
              この頃 無性に自然の広がりに心惹かれます
              普段 見ないテレビでも造ったものではない自然の映像には
              過去の記憶と重なるせいか深い感動を覚え 憧れます
               川柳 入選作以上に面白い作品がいっぱいです
              何時もながら ふふふ の含み笑いとともに拝見
              楽しいです
               有難う御座いました