遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(500) 小説 希望(24) 他 あなたは あなたでいい

2024-06-02 12:24:24 | 小説
              あなたは あなたでいい(2024.5.23日作)



 あなたは あなたでいい
 金が無くてもなんだ ?
 名声が無くてもなんだ ?
 今日一日を自分の出来る限りの事をした
 他者に迷惑を掛ける事も無く
 他者の眼差しに触れる事も無く
 人が人として生きる上での必要な
 真実の道を生きた
 それで充分
 人は一人では生きられない
 あなたの今日一日を生きた
 人の眼に触れる事も無い
 人の耳に届く事も無い
 人としての真実の道 その道を
 真摯に生きた
 それだけで充分
 人間社会の一個の礎 この世界の礎石として あなたは
 立派に 人としての役目を果たしている
 蟻の一穴 大きな堤もそこから水が漏れ 崩れてゆく
 あなたの 他者の眼には見えない
 他者の耳には届かない その仕事
 一日の その務めは蟻の一穴 その
 小さな 小さな穴
 人間社会 この世界 そこに穿(うが)たれる
 眼には見えない 小さな小さな穴
 蟻の一穴を埋めるその仕事 その作業
 日毎 夜毎 この人間社会 世界の礎
 基盤を支えるあなたの仕事 その務め無くして
 人間社会 この世界は 
 成立し得ない




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              希望(24)
 


 
 修二は次第に激しくなる胸の鼓動を意識しながら、それでもなお、男に近付いて行ってⅠメートル程の距離になった所でようやく声を掛けた。
「すいません。あのう、境川駅へ行きたいんですけど、どっちへ行けばいいんですか ?」
 相手の男はこの時初めて顔を上げて修二を見た。
 初めは少し怪訝そうな表情で警戒する様子を見せたが、すぐにまだ子供っぽい面影を残す修二を確認するとその緊張感も解けたかの様に穏やかな表情で、
「ここを真っ直ぐ行って左へ曲がればすぐに駅が見えて来るよ」
 と親切に教えてくれた。
「ここを左ですか ?」
 修二は左手でその方角を差して言った。
「うん」
 そう答えると男はまた直ぐに手元の何かに視線を落として歩き始めた。
 修二と男の身体が入れ違った。
 無防備な男の後ろ姿が振り返った修二の眼に映った。
「今だ !」
 咄嗟に思った。
 そのまま修二はすれ違った男の背後に一歩近づくと、右手に隠し持っていたナイフを握り直して同時にボタンを押し、刃を開いていた。
 その動作は金物店の店頭でナイフを盗み取った時と同様に素早かった。
 男の左横腹目掛けて思いっ切りナイフを突き刺した。
 男はナイフが身体に突き刺さった瞬間、ウッと小さな声を上げ、痛みを堪えるように身体をよじった。
 ナイフを突き刺したままの修二もその男の動きに釣られて振り回されていた。
「テメエッ、なに・・・・」
 男は言って修二に襲い掛かろうとした。
 修二は頭の上から覆い被さって来るかと思われる男の動きから逃れるようにして身体を引いた。
 ナイフもその瞬間に抜けていた。
 同時に、男が膝から崩れる様にして道路の上にうずくまって行くのが見えた。
 修二は素早く踵を返すと事前に指示された通りに歩道の方へ逃げてその足で柵を飛び越え、植え込みの中に逃げ込んだ。
 植え込みの中で待っていた相棒の男がそんな修二を確認するとすぐに近付いて来た。
「上出来、上出来 !」
 男は興奮気味に言った。
 修二は息を切らしたまま何も言わなかった。
 二人はすぐに指定された車の来る場所へ向って走った。
 公園に人の姿の見えない事が幸いした。
 修二達が指定された場所に来た時、車はまだ来ていなかった。
 修二と相棒はそれぞれに太い樹の幹に身体を貼り付けて車の来るのを待った。
 何分かした後に車の来るのが見えた。
 二人はほとんど同時にそれぞれ樹の陰から離れて車に走り寄り、すぐに開いたドアの中へ修二から先に乗り込んだ。
 エンジンを掛けたままの車はすぐに走り出した。
 夜の公園の何処にも人影らしいものは見えなかった。
 北川がすぐに言葉を掛けて来た。
「どうだった ?」
「上手くいったよ。大丈夫だ。狙い通りだったよ」
 後部席に修二と並んで座った相棒が興奮気味に言った。
 相棒はそれからすぐに、修二の左腕に視線を向けて驚いた様に言った。
「なんだ、お前(め)え。血が・・・」
 言われて修二も初めて左腕に視線を向けた。
 二の腕一帯が血で濡れていた。
 何処かに違和感を覚えていた自分をこの時初めて意識して、このせいだったのだと、納得した。
 その納得と共に途端に傷口の痛みが意識されて、まだ握ったままでいた血に濡れたナイフを急いでズボンのポケットに押し込むと右手で傷口を押さえた。
「大丈夫か ?」
 相棒は言った。
「うん」とだけ修二は答えた。
「遣られたのか ?」
 車を運転しながら北川が言った。
 修二は答えなかった。
「血が出てんのか ?」
 北川がまた聞いた。
「大丈夫」とだけ修二は言った。
 それでも激しい痛みは傷を意識すればする程に増して来るようだった。
 修二は顔をしかめ、力いっぱい右手で傷口を押さえて痛みを堪えた。
 傍に居る相棒がその様子を見て、
「大丈夫か」と聞いて「何かで包帯をした方がいいな」
 と言った。
「俺のシャツをやっからそれで包帯しろよ」
 北川の横に居る鳥越が言ってすぐにシャツを脱ぎ、後部席の相棒に渡した。
 相棒の男は受け取り、修二に向き直って、
「腕を出してみな」
 と言った。
「俺ん所へ帰(けえ)ったらすぐに傷口の手当てをしよう」
 北川が言った。
 傷はさして深くはなかった。
 男の巨体に振り回され、ナイフが男の身体から抜けてよろめいた時に傷付けたに違いなかった。
 一方、ナイフを握った右手は力一杯ナイフを刺し込んでいたにも係わらず、上下に張り出した堅固な滑り止めが見事にその役目を果たしていて、傷付く事もなかった。
 北川のアパートへ着くとすぐに部屋へ入って傷口の手当てをした。
 血に汚れた衣服や靴は総て北川が用意して置いた別の物に取り替えた。
「これは証拠を残さねえ為に処分しちゃうかんな」
 北川は確認を取る様に修二に言った。
「うん」
 と修二は答えた。
 三人の男達に送られて北川のアパートを出た時には午前一時を過ぎていた
 翌日、修二は何時も通りに店に出た。
 傷の痛みは消えなかったが必死に我慢した。
 マスターや女将さん、鈴ちゃんに気付かれたくないという思いの一点からだった。
 幸い左腕で服を着てしまえば外目には見えないので、その点で助かった。
 ただ、何時もの通りの自然な動きをする事には苦労した。
 事件はその日の夕刊各紙で報じられた。
 見出しはどれも「暴走族の抗争か ?」とされていた。
 男は命に別状は無かったものの重症だった。
 北川達は早速、警察の事情聴取を受けた。
 車の運転に係わった四人の男達はその時間、揃って境川駅に近い飲食店に居た事が立証されて疑惑は解かれた。
 事件から五日が過ぎて北川がマスターの店に来た。
「誰が遣ったんだ ?」
 マスターは北川に聞いた。
「チームのメンバーですよ」
 北川は何食わぬ顔で言った。
 マスターはそれ以上は聞かなかった。
 何時も通りの二人の会話が続いた。
 修二は事件から一日が過ぎて、二日目になると女将さんと鈴ちゃんの眼は気にならなくなったが、マスターの視線だけは何故か、気になって仕方が無かった。修二に接する態度に変わった所がある訳では無かったが、それでいて何故か、マスターは事の総てを見抜いているのではないかという気がしていてならなかった。マスターの鋭い眼差しが修二を怯えさせた。




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               takeziisan様


                能登半島に沈む夕陽 素晴らしい眺め
               わたくし自身も幼い頃 海辺に近い村に疎開していた経験がありますが
               これ程 近い距離ではなかったので毎日 海辺の光景を見ると 
               という訳にはゆきませんでした
               懐かしい思い出ではないのでしょうか
                民謡の数々 楽しませて戴きました
               お鯉さん 懐かしいですね
               それにしても阿波踊りは日本が誇る芸能なのではないでしょうか
               至極 単純なあの踊り それでいて奥が深い
               何時まで見ていても飽きない 男踊りのあの単純な動作の中に 
               巧まぬ技巧が隠されている それこそ名手と思われる人の踊りなど
               ほとんど手足を動かさず あの格好だけで見せてしまう
               凄いと思うばかりです
                また 女踊り これも単一の動作を繰り返すばかり
               それでいてそこはかとなく匂い立って来る色気
               あの踊りをおどる女の人が皆 美人に見えて来てしまうのが不思議です
               東京などの都市部にも阿波踊りの連が作られているようですが   
               世界の何処に出しても通用する芸能だと思います
                おてもやん 先週も書きましたが赤坂小梅の十八番でしたね
                農作業 やれやれ 実感出来ます でも 止めるには惜しい気もする
               画面で見る艶やかな収穫物の数々 これはこれでまた
               楽しみなのではないでしょうか 羨ましく思うばかりです
               それに振り返り記事の中の品々の不揃い
               これもまた 趣味の農作業 その気配が伝わって来て
               見ていて楽しくなります
                数々の楽しい記事 楽しく拝見させて戴きました
               有難う御座いました