遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(491) 小説 希望(15) 他 行為の範囲

2024-03-24 12:17:17 | 小説
            行為の範囲(2023.2.22日作)



 何事に於いても
 人間に許される行為の範囲は
 自身の生存を守る それが
 その時点に於ける
 最大の条件となる
 生存の為の条件が 最悪の場合
 最悪の行為も許される
 しかし
 自身の生存確保の為
 他者の生存権を犯し 奪う
 その行為は絶対的に
 許されない




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              希望(15)



 
 店が終わって風呂へ行って帰ると午前一時を過ぎていた。
 疲れていた。
 その夜は何時もの様に裸の女性達の雑誌を開いて見る気にもならなかった。
 部屋の隅に寄せてある布団を広げて仰向けになると、「あのバカ女が垂れ込んだんだ」と、改めて警察での出来事が思い出されて母親への憎悪を滾(たぎ)らせた。
 同時に何故か、今まで遠くに感じられていた母親が身近に感じられて、肉親としての感情が蘇った。
 幼かった頃の母親との思い出も蘇って、その思い出が懐かしくさえあった。
 改めて修二は思った。
 あいつは母親なんだ !
 その母親が修二を警察に売っていた !
 とは言え、修二自身も母親を焼き殺そうとして家に火を点けたーー
 そして、刑事が訪ねて来た。
 刑事達は証拠を見せてやる、と言った。
 あの言葉に根拠はあるのだろうか ?
 単なる脅しにしか過ぎないのではないか ?
 もし、放火した事実が知られるとすれば何処から知られるのだろう ?
 いや、分かるはずがない !
 声に出して言った。
 あの時、母親はぐっすり寝込んでしまっていた。
 自分のスカートに火が付くまで分からなかった。
 母親が警察に訴えたとしても、推察に依るものでしかないのだ。
 俺を罪に陥れるだけの証拠など、何処にも無い。
 安堵の中で考えを締めくくる事が出来た。
 修二は耳を澄ました。
 何かの物音を聞いた様に思った。
 確かに誰かが店先で鎧戸をいじっているらしい音がしていた。
 誰だろう ? 今頃。
 もう、警察が来たのだろうか ?
 それとも、泥棒 ?
 起き上がって音を忍ばせ、部屋の戸を開けてみた。
 物音はまだ聞こえていた。
 部屋を出て階段の上に立ってみた。
 鎧戸を開ける気配が音として伝わって来た。
「誰だ !」
 修二は叫んでいた。
「わたしよ、修ちゃん」
 女将さんの声だった。
 修二は緊張感から解放されて階段の明かりを点けた。
 女将さんは階段の下に立っていた。
「泥棒かと思ってビックリしたですよ」
 安堵の声と共に言った。
 修二が此処での生活に馴れるに従って女将さんが訪ねて来る事もこのところ無くなっていた。
 久し振りの女将さんの訪問に修二が階段を降りて行こうとすると、
「もう、寝ていたの ?」
 と言いながら女将さんが階段を上がって来た。
 修二は狼狽した。
 部屋には何冊もの女性のヌード写真が載った雑誌が放り出されたままになっていた。
 それを知られる事への羞恥から修二は自ら階段を降りて行こうとしたが、女将さんは委細構わず登って来た。
「警察に呼ばれたりしたから、どうしているかと思って心配になって来てみたのよ」
 女将さんは言った。
 修二には答えるべき言葉か見付からなかった。ただ、女将さんに部屋へ入って貰いたくない思いだけで階段の上に立ち塞がっていた。
 女将さんは昼間とは違って薄化粧をしているのが階段の上に居る修二にも分かった。
 普段見ている女将さんとは違ったその美貌の冴えに修二は眼を見張った。
 その間にも女将さんは階段を登って来ていて修二の前に立った。
 修二はそれでも動こうとしなかった。
 女将さんはそんな修二の身体の横から部屋の中を覗き見るようにして、
「まだ、寝てなかったのね。ああ良かった」
 と言って、そのまま部屋の中へ入る気配を見せた。
 修二は慌てて女将さんの前に身体を移動させたが、そんな修二を押し退けるようにして女将さんは部屋の中へ入ろうとした。 
 強引とも言える女将さんの行動だった。
 修二は困惑、混乱したまま、それ以上に女将さんの行動を防ぐ手立てを思い付かなくて呆然と立っていた。
 女将さんは部屋へ入ると散らかった雑誌に眼を向けたが、それを気にする様子もなく、部屋の中央に敷かれた布団の傍に黒い柔らかなスカートで膝を包む様にして横坐りに坐った。
「もう、こんな時間だからどうかなって思ったんだけど、起きていたので良かったわ」
 と、まだ呆然と入口に立ったままでいる修二を振り返って言った。
 修二はその言葉には答える事もなく仕方なく部屋へ入った。
「今夜、うちの人、花札に行っちゃったの。それで、一人で居てもつまらないから、修ちゃんが警察に呼ばれたりして、どうしているかなって心配になって来てみたのよ」
 昼間とは違った何処か親しみを感じさせる優しい口調と共に女将さんは、媚びを含んだ様にも見える眼差しで修二を見詰めて言った。
 そんな女将さんの、その美貌をひと際浮き立たせる薄化粧と共に、女の匂いでその場を包み込む雰囲気に修二はドギマギしながら、
「車で来たんですか」
 と、無愛想に聞いていた。
「ううん、自転車で来たの。十分足らずで来られるんだもの」
 女将さんは優しさの滲んだ口調で言ってから、
「警察では、あんなに長い時間居て何を聞かれたの ?」
 と修二の気持ちを労わる様な口調で優しく言った。
「別に」
 修二はやはり無愛想に答える事より他出来なかった。
 女将さんの何処か、普段と違う雰囲気が修二の気持ちを戸惑わせていた。
「この前来た、お母さんっていう女の人の事 ?」
 女将さんは修二の眼を見詰めて言った。
 その眼差しがうるんでいる様にも見えて修二は戸惑った。
「ええ」
 そう答えただけだった。
「そう。お母さん、ちょうどわたしと同じぐらいの歳なのね」
 と、女将さんはやはり熱い眼差しを修二に向けたままで言った。
 何故か、身体の堅くなる様な緊張感を覚えて修二は黙っていた。
 女将さんはそんな修二から視線をそらすと部屋の中を見廻わした。
 部屋の中には柱から柱へ紐を通して何枚ものパンツやシャツが干されたままになっていた。
 思わず赤面する修二に女将さんは、
「何か、困る様な事はないの。もし、あったら言いなさい。わたしに出来る事ならなんでもしてあげるから」
 と言った。
「はい」 
 息の詰まる思いのまま修二は言った。
 女将さんはそんな修二から視線をそらすと今度は辺りに散らばった様々な雑誌に視線を移した。
 夥(おびただ)しい雑誌の中にはページが開かれたままになっているものもあった。
 女将さんはそんな雑誌の中の、全裸の女性が誘いかける様な眼差しでこちらを見ている一冊を手に取ると、
「あなた、毎晩、こんなものを見ているの ?」
 と言って、媚びを含んだようにも見える微笑みと共に修二を見た。
 修二は夜毎の自分の秘密を盗み見られた様な気がして体中が熱くなった。





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              takeziisan様


               有難う御座います
              この冬は暖冬だったと言いながら 彼岸が過ぎてもまだ寒さが残る
              強風の日もかつてなく多くて 嫌な年です
              穏やかな春の陽ざしが欲しいものです
               美しい花々 よく御覧になっていらっしゃる
              敬服です またお庭の花々 春の楽しみですね
              狭苦しい都会の中で暮らしていると無性に自然の美しさが恋しくなります
              我が家はその中でも左手には比較的大きな防災公園
              右手には映画「男はつらいよ」の舞台 江戸川の堤防がそれぞれ
              百メートルほどの距離にあるのですが それでも雄大に広がる自然の美しさには
              とても及びません 無性に、子供の頃過ごした環境が懐かしく思い出される事があります
              それにしても 文化祭 よく当時の物をお持ちになっていらっしゃいます
              わたくしの方では学芸会と言って年に一度行われました
              中学三年に菊池寛の「父帰る」を行った事を思い出します
              それこそなんの娯楽も無い田舎 村中が学芸会運動会には 馳せ参じたものでした
              懐かしい思い出です
               高齢者運転免許 わたくしの兄妹でも次々に返納しています
              思わぬ事故 高齢者に多い事をつくづく実感します
              それにしても人間 歳を取るという事は寂しいものです
              今まで有ったものが次々に失われてゆく
              せめて自身は日々 元気に過ごす それを心掛けるようにしています
               どうぞ お身体に気を付けて御無理をなさいませんように
              何時も有難う御座います













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