桜井浩子が演じた毎日新報のカメラマンである江戸川由利子は上野駅の取材のシーンでドイツの詩人のライナー・マリア・リルケの『マルテの手記(Die Aufzeichnungen des Malte Laurids Brigge)』(1910年)の冒頭を暗唱している。脚本を執筆した山田正弘が元々詩人だからなのであるが、その引用は正確ではない。由利子は「現代の旅人は何を求めてこの大都会に集まってくるのか? 詩人リルケは言ったわ。『僕にはただ死ぬためにだけ集まってくる蟻のように見える。』東京は苦い砂糖なのよ」と言うのだが、英訳では「Here, then, is where people come to live; I'd have thought it more a place to die in.(ここに人々は生活の場としてやって来る。僕には寧ろ骨を埋める場所のように思える。)」となっており、蟻という言葉は無く、ここではいわゆる東京に出稼ぎに来る「働きアリ」と呼ばれていた人々を皮肉って山田正弘が加えたものであろう。
原題:『Me Before You』 監督:シーア・シェアイック 脚本:ジョジョ・モイーズ 撮影:レミー・アデファラシン 出演:エミリア・クラーク/サム・クラフリン/ジャネット・マクティア/チャールズ・ダンス 2016年/アメリカ
知性がある故の厳しい選択について
銀行員として働いていたウィル・トレイナーがバイクに衝突された後遺症で車イス生活を余儀なくされて2年が経った頃、イギリスの田舎町に住むルイーザ・クラークは20歳から6年間働いていたカフェが閉店になり途方に暮れていた。そんな時、高額のギャラをもらえる仕事として紹介された先がウィルが住むイギリスの実家の大邸宅だったのである。 最初はギクシャクした2人だったが、ルイーザの天性の明るさでウィルは少しずつ心を開いていく。字幕のある映画は観ないと言っていたルイーザにウィルは『神々と男たち(Des hommes et des dieux)』(グザヴィエ・ボーヴォワ監督 2010年)という作品を観せたことでルイーザは作品の奥深さを知り、その後、体育会系のボーイフレンドのパトリックと『オール・アバウト・マイ・マザー(Todo sobre mi madre)』(ペドロ・アルモドバル監督 1999年)を映画館で観たりするのであるが、そもそもルイーザは頻繁に読書をしており文学に関する素養はあったのである。 当然、ウィルはルイーザの才能を見抜き、兄弟の多い彼女の家族がお金に困っていることも知り、決意を固めたのであろうし、頭の良いルイーザもウィルの「合理性」に反対のしようがなく、『淵に立つ』(深田晃司監督 2016年)ほどではないとしても結末は何とも言えない。この作品のために書かれたらしいイマジン・ドラゴンズ (Imagine Dragons)の「ノット・トゥディ(Not Today)」の歌詞の内容はどのようにも解釈できる絶妙なものである。以下、和訳。
ビッグ・フレンドリー・ジャイアント (BFG)のキャラクター自体は悪くはないし、孤児院に住むソフィーという少女を主人公にした『ジャックと豆の木(Jack and the Beanstalk)』の後日談という物語設定も良いのだが、ストーリーの展開が単調で、子供向けの3D作品として観るならば十分に面白さを堪能できるだろうが、大人には厳しい感じがする。 ラストのシチュエーションが実はイギリスのエリザベス女王の住むバッキンガム宮殿ではないが、ソフィーが子供のいないメアリーと夫の裕福な家庭に引き取られたというものであるならば、ソフィ―はとてもラッキーだったと思う。BFGの住む部屋にはジャックを始めとした子供たちの絵が残されており、不幸にも彼らが巨人たちに食べられたのだとするならば、それは悪い大人たちに引き取られたことの暗示だからである。