原題:『夏の庭 The Friends』
監督:相米慎二
脚本:田中陽造
撮影:篠田昇
出演:三國連太郎/坂田直樹/王泰貴/牧野憲一/戸田菜穂/根本りつ子/淡島千景
1994年/日本
「武勇伝」にならない戦争体験について
主人公の傳法(でんぽう)喜八の心情は理解できる。無垢な子供たちに自身の戦争体験を語る時、それがまだ「武勇伝」であるならば体裁をとりつくろうことも出来るが、フィリピンのジャングルで敵に居場所を告げ口されないように老人や女性や子供を殺し、さらにその女性が妊娠していたとするならば、もはや戦争体験ではなくただの殺人でしかない体験を子供たちにどのように語ればいいのか誰にも分からないだろう。
それは語れないだけではなく、喜八の人生そのものを左右してしまう。身重の女性を殺しておきながら自身は身重の妻と幸せに暮らす訳にはいかないはずで、喜八は過去に囚われたまま、妻だった古香弥生は過去を忘れて生きていくことになる。弥生の孫の近藤静香に自分が祖父だと告白することを喜八がためらうのも、それを認めれば人殺しの孫になってしまうからであろう。
本作を観る限り、相米慎二監督は女の子の扱いは上手いが男の子の扱いには慣れていないように感じた。