原題:『Searching for Sugarman』
監督:マリク・ベンジェルール
脚本:マリク・ベンジェルール
撮影:カミラ・スカーゲルストロン/マリク・ベンジェルール
出演:ロドリゲス
2012年/スウェーデン・イギリス
Researching for Sugarman
1968年のミシガン州デトロイトの場末のバーの片隅で歌っていたロドリゲスという男を見に行ったプロデューサーのマイク・テオドールとデニス・コフィーによってデビューアルバム『Cold Fact』は1970年にリリースされたとする。2枚目のアルバム『Coming from Reality』も1971年にリリースされるも、商業的には大失敗して、ミュージシャンとしてのキャリアは終わったとするが、彼のアルバムは南アフリカへ渡り、不法コピーではあったが50万枚以上売れ、反アパルトヘイト運動を盛り上げる役割を果たすことになり、南アフリカにおいてロドリゲスはエルヴィス・プレスリーよりも有名になったとする。
ドキュメンタリー作品である本作の「脚本」はこのような感じでミュージシャンとしてのロドリゲスの数奇な運命を語るのであるが、観ているうちにかすかな違和感が生じることは避けられない。ロドリゲスの3人の娘がインタビューに答えているのに、彼の妻は登場することも語られることもないことは本人の希望もあることだからよしとしても、南アフリカへの凱旋ライブが行われた年は1998年であり、本作が製作される14年も前なのである。奥歯に物がはさまったような書き方をそろそろ止めようと思うが、要するにこのドキュメンタリー作品は「嘘」ではないが、ロドリゲスに関して語られていないことが多すぎるのである。ロドリゲスのファンと同じようにインターネットでロドリゲスを調べていけばすぐに分かることを敢えて書き留めておこうと思う。
確かにロドリゲスは自国において成功はしなかったが、1970年代にはオーストラリアでアルバムがヒットし、オーストラリアでツアーも行われ、1977年には『At His Best』というベストアルバムを、1981年には『Rodriguez Alive』というライブ盤をリリースしており、決して本作で描かれているように、ミュージシャンとして全く不遇だったというわけではないのである。ちなみに
『Cold Fact』はオーストラリアで500万枚売れており、実はむしろかなり裕福なはずである。
ロドリゲスというスペイン系の名前が災いしたという話はあるが、1967年の「最初」のデビューにおいては「ロッド・リーゲス(Rod Riguez)」という芸名であったし、「Sugar Man」という曲がドラッグを歌っているためにラジオで放送を自粛されたからという話も、シングルになった曲は「I'll Slip Away」や「Inner City Blues」や「To Whom It May Concern」なのだから、売れなかった原因にはならない。
この、嘘ではないが、他の事実を描かないことでドラマティックを醸し出すドキュメンタリー作品をどのように捉えればいいのか?