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『造花の判決』

2023-10-25 00:58:22 | goo映画レビュー


(2023年8月25日付毎日新聞朝刊)

原題:『造花の判決』
監督:梅津明治郎
脚本:土方鉄
撮影:酒井忠
出演:入山保則/石立和男/柴田美保子/岡田英次/永六輔
1976年/日本

典型的なプロパガンダ映画について

 本作は1963年5月1日に起こった狭山事件を扱った作品で、冒頭とラストは永六輔が街頭で「狭山事件のことを知っているか?」と通りがかりの人たちにインタビューを試みており、そのインタビュー映像に挟まれる形で久保という弁護士見習の主人公が狭山事件を丹念に調べる過程を描く劇映画となっている。因みに久保の父親は大阪の被差別部落出身者として描かれている。
 狭山事件に関して何も予備知識を持たずに観れば、犯人とされた石川一男氏は完全に無罪だと誰もが納得するであろう。ところが改めてネットなどで調べるととたんに無罪かどうかは怪しくなってくる。本作で描かれている石川氏はとても大人しく素直な印象なのだが、実際はかなりやんちゃな人物だったようで、そのやんちゃ振りは警察の心証をことのほか害するほどだったようである。
 例えば最近公開された『福田村事件』(森達也監督 2023年)を観賞するならば、永山瑛太が演じた沼部新助は香川県の被差別部落出身者であるが、決して「善良」には描かれておらず、むしろ彼の口の悪さがその後の大惨事の引き金にさえなっているのである。
 石川氏が冤罪かどうかは資料の膨大さから把握しきれないので軽率に判断はできないものの、1963年5月1日に犯人が被害者宅に届けた脅迫状の字体が途中で別人が書いたように変化しており、これで筆跡鑑定が機能するのかという点は気になるし、狭山事件は日本弁護士連合会が支援する再審事件ではないことと、本作がある意味、感心するほど典型的なプロパガンダ映画であるということだけは実際の体験者として記しておきたい。嘘は書けない。何故ネット上に本作のレビューが一つもないのかも気になることろである。

gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/look/region/look-247f1d4c98bb98ecf6c495595b713315831c10f0


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