7月29日と8月5日の2週に渡って放送されたフジテレビの「ザ・ノンフィクション」の「転がる魂 内田裕也」はとても興味深いものだった。歌手として一曲としてヒットの無い男が今に至るまで日本の芸能界の「キング・オブ・ロック」として生き残っていることが凄いのだが、そもそも反体制であるロックミュージシャンに「ヒット曲」があること自体が間違っているのではある。
ところで内田が大阪で見つけてきたザ・タイガースが最初にテレビ出演したのは1966年の『ザ・ヒットパレード』で、内田が番組に無理やりねじ込んだらしい。内田によれば1分の演奏、岸部一徳によるならば45秒か47秒程度と証言していたから、当初は1分の出演予定時間だったのが実際は40秒くらいになったのであろう。演奏した曲はポール・リビアとレイダース(Paul Revere & The Raiders)の「キックス(Kicks)」という曲でどのような曲だったのか調べてみた。動画サイトなどでこの曲のコメントを見ると、最初の「反ドラッグソング」と見なされているようなのだが、以下、和訳するようにその意見には異議を挟まざるをえない。
「Kicks」 Paul Revere & The Raiders 日本語訳
昨夜あの魔法のカーペットに乗ったことで
答えを見つけたと君は思ったようだが
君が朝目覚める時
世間はいまだに君にいらいらしている
君には空虚な心を埋めようと努力する手立てがないようだが
君が元に戻ってくるとしても
いまだに気分はすっきりとはしない
性的快感(=kicks)が答えを見つけることを
ますます難しくしているように思えないだろうか
性的快感は心の安定を君にもたらしてはいない
手遅れだと気づく前に
君は麻薬をやって落ち着く(=get straight)方が良い
性的快感が無くても
君はただ助けを求めればいいんだ
君は君自身を楽園の一部に見つけられると思うだろうが
実際にはまだ見つけられてはいないのだから
もう一度考えてみろよ
分からないのか?
君がどのようにもがいても
決して君自身から逃れられない
それでも走り続けるのならば
君は高い代償を払うことになるだろう
性的快感が答えを見つけることを
ますます難しくしているように思えないだろうか
性的快感は心の安定を君にもたらしてはいない
手遅れだと気づく前に
君は麻薬をやって落ち着く方が良い
毎日世界と対峙する君を助けてくれる上で
性的快感は必要ではない
あの道は君をどこにも導かない
僕は別の方法で君が君自身を見つけられる手伝いをするつもりなんだ
性的快感が答えを見つけることを
ますます難しくしている
(性的快感は必要ではない)
性的快感は心の安定を君にもたらしてはいない
(君はただ助けを必要としているだけ)
手遅れだと気づく前に
君は麻薬をやって落ち着く方が良い
性的快感が答えを見つけることを
ますます難しくしているように思えないだろうか
(性的快感は必要ではない)
性的快感は心の安定を君にもたらしてはいない
(君はただ助けを必要としているだけ)
手遅れだと気づく前に
君は麻薬をやって落ち着く方が良い
どの辞書を見ても「kicks」にドラッグという意味はない。このように和訳してみると「キックス」は反ドラッグソング(antidrug song)どころかドラッグ推進ソング(pro-drug song)と言えるものであるのだが、もちろん道徳的に非難をするつもりは全く無く、むしろ現在に至るまで誰にも気づかれることなくドラッグを推奨する詩的テクニックが素晴らしい。
番組内で内田は「朝日のない街(You Gotta Get out of This Place)」や「朝日のあたる家(The House of the Rising Sun)」を歌っておりアニマルズ(The Animals)が好きなのかもしれない。
Paul Revere & The Raiders - Kicks (Audio)