15年もレコード(CD)を出していないビリー・ジョエルがシェイ・スタジアムのステージに立つ。
この世界的イベントがニュースとなって世界を駆け巡っていた2008年の7月。
正直なところ、僕は全くこの事実を知らなかった。
同年11月に来日し、東京ドームでライヴを行っているので、もしかしたらこのニュースを見聞きする機会もあっただろうが、一時引退騒動もあったので、すでに当時は興味の的ではなかったかもしれない。
この事実を購読している『大人のロック!』で知ったときは驚きを隠せなかった。
2009年に取り壊しが決定したニューヨーク・メッツのホームグランド、シェイ・スタジアムの2回公演がCD&DVDでコンパイルされる。
なんでもその公演ではサプライズ・ゲストとしてポール・マッカートニーが出演している。
そしてビリーと同じステージで「レット・イット・ビー」を歌う。
これだけでも大変な話題である。
ポール・マッカートニーの出演はビートルズが始めてこのシェイ・スタジアムでコンサートを行ったことに由来し、この歴史的ステージを完璧に終わらせるのには是非彼の尽力が必要だと、これはビリーの予てからの希望であったらしいが、エド・サリヴァン・ショーで始めてビートルズを目にしたビリー少年にとって、ビートルズというグループは同時に彼の音楽的原点ともいえ、ポールへの出演依頼は一人のミュージシャンとしてのひとつの区切りだったのかもしれない。
そう思うと意味深いものがありそうだ。
「ソロ・デビューから40周年…そうか、もうそんなになるのか…」
僕がビリーを知った中学時代からも30年は経っている。
『ストレンジャー』から『グラス・ハウス』までの4年間、ミュージシャンとしての絶頂期をリアルタイムで見守ってきた僕としては、引退撤回後もニューアルバムを一枚もリリースしないビリーに苛立っていた。
いったいどうしてしまったんだろうな、ビリーは。おそらく彼の音楽を愛する世界中のファンも同じ気持ちだったんじゃないかな。
そんな疑問を晴らす答えが、96分のドキュメンタリー・フィルムの中に収められているが、これからこの『ビリー・ジョエル ライヴ・アット・シェイ・スタジアム デラックス・エディション』を購入する方のためにいわないでおく。
このアルバムを購入しようかどうかを迷っている40歳代の僕と同世代の方々に断言しておく。
これは凄い、ライヴ・アルバムだ。
でっぷりと肥り、頭の禿げ上がった風貌からはかつてのロックスターの面影を偲ばせるものは何一つない。
そのかわりにステージで歌う楽曲の数々は妙に新鮮であの頃のままに瑞々しい。
それは彼のヴォーカリストとしての圧倒的な才能と過去世に送り出した名曲の素晴らしさを証明するものだ。
「夏、ハイランドフォールズにて」がいいね。
アメリカの良質な短編小説のようにこの曲が僕の耳には聞こえてくる。
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