音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

日米歌姫達のアイドル進化論~クリスティーナ・アギレラ篇~

2010年11月16日 | インポート

Christina_aguilera

 昭和の伝説的歌姫・山口百恵が8年足らずの芸能生活に別れを告げ、引退コンサートを経て結婚の道を選んだことはその後の日本の歌手のステータスになっていった。

 そして山口百恵は多くの日本の歌手が「こうありたい」と願うアイドルのシンボライズとなった。

 山口百恵が芸能界を去ったのが80年代の初め、新たにアイドルとして頭角を現したのが、松田聖子だった。

 しかし、アメリカで衝撃的デビューを果たすマドンナが結婚後も精力的に音楽活動をこなす姿を見て、彼女に影響されたシンガーは少なくないだろう。

 松田聖子も例外ではない。

 その時、一瞬にしてシンガーとしての新たな道が開けたことは、その後に登場するシンガー達の生き方を見ても分かるとおりだ。

 山口百恵が「としごろ」でデビューしたのはわずか13歳のとき。

 「としごろ」は等身大の彼女が歌うのには余りにも自然体で予想外にヒットには繋がらなかったが、続くセカンドシングル「青い果実」から大胆な歌詞を取り入れたことでそれまでの彼女のイメージを一新した。

 彼女の5枚目のシングル「ひと夏の経験」は少女が歌うには余りに衝撃的な内容だったが、レコードは瞬く間にヒットし、清純でありながら大人びた歌を唄う彼女に多くの関心が集まった。   

 清純なイメージを前面に打ち出してデビューし、その後もその路線を脱皮できなかった松田聖子に対し、マドンナや山口百恵は瞬時にして路線変更を容易にしていった。

 ただ、山口百恵は一見清純に見える少女が性行為を連想させる歌を唄うことでこれまでのアイドルとは違う、いわゆるオジサン受けのするアイドルとして変貌を遂げた。

 内なるセクシーさを持ち、それが自然に振舞えるマドンナと違って「作られたアイドル」だったのである。

 こうした80年代を彩り、数々の神話を築いた日米のアイドル達の活躍から十年後、第二世代といっていいアイドルが生まれた20世紀後半にひとりの歌姫が誕生した。

 彼女の名前は、クリスティーナ・アギレラである。

 彼女もデビュー当時はブリトニー・スピアーズ同様、清純派路線で売り出したシンガーの一人だったが、マドンナの成功例を真似たためか、次第にセクシー路線へと変わっていく。

 初の全米No.1となったシングル「ジニー・イン・ア・ボトル」はどちらかといえば露出度の極めて少なかったブリトニー・スピアーズのデビュー当時と重なってしまう。

 健康的で、可愛さが売りのブリトニー・スピアーズと比べると、可愛さというよりもクール・ビューティーでスタイルが良かったクリスティーナ・アギレラのほうが実年齢よりも大人びて見えた。

 プラチナ・アルバムを獲得し、「ジニー・イン・ア・ボトル」を含む全米No.1タイトルが3曲も収録されたデビュー・アルバム『クリスティーナ・アギレラ』はその年の話題をかっ浚い、グラミーの最優秀新人賞の栄冠に輝くものの、音楽的スタイルや楽曲的には、常にブリトニー・スピアーズと比較される対象であった。

 その彼女が、一皮剥けた感じでブリトニーと同じ路線から離れていくきっかけとなったのが、ミッシー・エリオットがプロデュースした映画『ムーラン・ルージュ』の主題歌「レディー・マーマレード」でリル・キムやピンク、マイヤと競演した事だ。これも全米No.1に輝いた楽曲だが、ど派手に着飾った4人の中でも一際目立っているのがクリスティーナ・アギレラである。

 個人的に馴染み深く、普段でもよく聴いているピンクは娼婦のようだし、見た目もクリスティーナにそっくりなマイヤはヒップがセクシーだ。

 リル・キムは…うーん、唯一この場では笑いを誘うようなキャラだよな。

 それにしてもたかが、PVなんだが、豪華なステージ衣装に身を包んだ歌姫たちが同じステージでこんなパフォーマンスをしてくれるなんて滅多にはないだろう。

 彼女達を紹介するミッシー・エリオットはどこか売春宿の女将のようだ。Christina_aguilera_keeps_gettin_bet

 最近僕は、ちょうど今から2年前に発売された『Keeps Gettin' Better:A Decade Of Hits』を遅ればせながら購入した。

 発売当時、買いそびれたということもあり、今回は輸入盤での購入だが、ヒット曲は完全網羅されているし、勿論、今回紹介した楽曲も収録済みである。

 クリスティーナ・アギレラのアイドルとしての変遷を一瞬にして辿るにはかっこうのベスト盤である。

 売れ線狙いでデビューした彼女が結局、全米で予想外の評価を得た。だが、その後、その路線を踏襲することなく常に新しいスタイルを築いていった。

 そこにはマドンナの成功例の影がちらついているようにも思える。

 80年代初頭に一時代を築き、現在も尚、ポップ・スターの頂点に君臨し続けるマドンナ。

 実を言えば、彼女自身もマリリン・モンローの背中を追い続けながら、時に、娼婦となり、時に、高慢なセレブになったり、僕達が驚くような淑女に変身したり、その生き方は常に音楽シーンの興味の的だった。

 類い稀な美貌と圧倒的ヴォーカルで僕達を魅了し続けるクリスティナーが次に向かう世界も、きっと新作のなかで答えてくれている。