音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

変わる法廷

2008年04月25日 | 本と雑誌

 以前弊ブログでもお話した胃潰瘍治療の通院ということで今朝方車を駆って診察を受けるために近くの病院へ行ったのだが、診察まで暫く待たねばならないので名前を呼ばれるまでの間、待合室のソファに腰掛けると、最近嵌まっている読み止しの本を膝の上に開く。読売新聞社会部裁判員制度取材班[著]『これ一冊で裁判員制度がわかる』という本で、勿論これは来年の春から施行されることになる「裁判員制度」について書かれた本だ。先週の日曜日に立ち寄った本屋さんで偶然見つけた一冊なんだけど、これがまた頗る面白い。つい面白いと表現してしまったが、些か語弊を承知で述べさせていただくと、この本は「裁判員制度」についてQ&A方式で書かれているので非常に親しみ易く、しかも丁寧に解説してあるから法律云々を知らない初心者には打ってつけの書物といえる。つまりぼくのような法律に疎い者や新しい司法制度に不安を抱いている者には極めて「優しい解説書」となっている。国民が司法に参加する。この壮大且つ画期的提案は実は小渕内閣当時に司法制度改革審議会が設立された1999年から数えた2年後の2001年に幾多の紆余曲折を乗り越え、陪審制と参審制の両方の特徴を併せ持つ日本独自の国民の司法参加制度を盛り込んだ最終意見書が纏まり、小泉首相に提出された。新しい司法制度の名称は「裁判員制度」となった。

天国の駅 天国の駅
価格:¥ 4,725(税込)
発売日:2005-01-21

 ずっと若い頃にぼくは吉永さゆりさんの『天国の駅』という映画を映画館で観た。この映画は当時、吉永さゆりさんの濡れ場シーンが話題となり、むしろ映画の内容よりもこちらのほうが興味先行で肝心の評価のほうは蔑ろになっていた気がする。日本で始めて死刑判決を受けた女性の半生を描いたこの映画は当時ぼくの心を鷲摑みにした。さっそく図書館に行って女性職員を摑まえ「日本の犯罪史を調べたいのだが、適当な書物はあるか」と尋ねたところ、途端にその女性職員は慌てだし、「そのような書物はここには今ないので至急取り寄せるか検討する」という回答があって平謝りに申し訳なさそうにしていたものだから、かえって悪いことをしたものだと反省したのを覚えている。まさか日本の犯罪史を調べたい、という利用者など今までなかったのだろう。

 そんなことを不意に思い出し待合室のソファで待っていると程なくして診察室から声が懸った。先日受けた血液検査の結果、ピロリ菌の存在が陽性と判断された。ピロリ菌の除菌をするかと訊かれたので、勿論しますと答えたが、どうも質問の意味をはかりかねたので尋ね返すと、実は一応患者さん一人ひとりに訊いている確認事項で、下痢とか肝機能に障害を受けるとか、多少の副作用もあるので治療を拒絶する人もいるらしいとか。 

量刑 量刑
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2001-06
 話を「裁判員制度」に戻す。昔和久峻三氏の法廷もの、とりわけ「赤かぶ検事シリーズ」はテレビ放映されたりして人気があったのでよく原作本も読んだ。それ以外では少し前になるが夏樹静子女史の『量刑』などもとても興味深く読めた。しかしこれらの本は「裁判員制度」が施行される前のもので今から読むとすればやや時代懸った趣を捨てきれない。こんなふうに司法が変わればそれまで持て囃されていた文学は過去のものとなり、新たな司法制度を取り入れた法廷ものにとって変わる筈だ。たとえば、芦田拓氏の『裁判員法廷』のように。これこそ「裁判員制度」を見据えたもっとも新しい法廷もののミステリーといえる。あいにくこの小説は未読だが是非読んでみたい一冊である。
裁判員法廷 裁判員法廷
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2008-02