音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

音楽がぼくに与えてくれたこと

2008年04月06日 | Billy Joel

  ビリー・ジョエルはどちらかというとライヴ盤のほうが好きだ。この趣向は昔からではなく、むしろ最近の傾向といえるかもしれない(ちなみについ2年前に購入して良く聴いたのはU.S.S.R.コンサートの模様を伝えた『コンツェルト/КОНЦЕРТ 』。当時は貸しレンタルでダビングして良く聴いていたのだが、カセットテープレコーダーが壊れたしまったため已む無くコンパクトディスクを購入し直したのだ)。

コンツェルト-ライヴ・イン・U.S.S.R.- コンツェルト-ライヴ・イン・U.S.S.R.-
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2006-05-24

若い頃は、圧倒的にオリジナル盤を良く聴いた。ライブ盤が少なかったことも理由のひとつだけど、なによりもオリジナル盤のほうが、最初に聴いた曲調のためか耳に馴染んでいたし、どういうわけかフェイクし過ぎた音はぼくの好みではなかった。結局、Aという音がライヴの感覚でA’になるというのが許せなかったみたいだ。これはジャズでいうところのインプロビゼーション(即効演奏)ということになるのだろうが、その頃はまだ規格どおりの音楽が真の音楽と信じて疑わなかったから、アドリブを重視した演奏そのものに違和感を感じていたかもしれない。しかし、もしもレコードと同じ音を聴くためにコンサートに行くならわざわざ高いチケットを買ってまで聴くことはないのである。すなわちライヴ盤のレコードなりコンパクトディスクがスタジオ盤と同じ音なら果たしてそれは値段に見合う音楽といえるのかどうかという問題である。そういう考えに傾いたのはぼくがジャズを聴くようになった1980年代の初頭の頃からである。ジャズは緊張感と躍動感が交互に現われる非常に摩訶不思議な音楽だ。ジャズは今から百年ほど前にクレオールよって生まれた音楽と伝えられている。クレオールとはフランス系の白人と黒人の間に生まれた混血である。すなわちジャズとは西洋音楽と黒人音楽の融和によって誕生したといえる。当初、ニューヨークで暮らす彼らは白人と同等の扱いを受けていた。ところが、奴隷解放令によりクレオールは白人の扱いを受けなくなったばかりかこれまで虐げられていた黒人社会からも迫害を受けるようになった。次第に没落の一途を辿ることになるクレオール達はやがて黒人社会へと溶け込んでいくことになるのである。それは彼らが学んだヨーロッパスタイルの音楽がアフリカをルーツに持つ黒人音楽と邂逅して自然に溶け合う瞬間でもある。こうして生まれたのがジャズのルーツであるディキシーランドスタイルなのである。この頃の代表的なジャズメンがあのルイ・アームストロングである(ヴァーヴ盤の『エラ&ルイ』は超お薦めの一枚だ!)。

エラ・アンド・ルイ エラ・アンド・ルイ
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2003-04-23

彼が活動の場をニューオリンズからシカゴに移したことからジャズの拠点もシカゴに移ったといわれている。しかしその後黒人ジャズにとって受難の時を迎えることになる。時は第一次世界大戦真っ只中、軍幹部がジャズメン達を歓楽街から追い出したことや「禁酒法」の施行によりジャズメン達は一様に職を奪われた。ところがイタリアのマフィア、アル・カポネのバックアップでヤミ酒場での演奏の機会を与えられたお陰で多くのジャズメン達が殺到した。こうしてジャズの原型であるディキシーランドスタイルから大編成のビックバンドスタイルが生まれたのである。 「禁酒法」廃止が本格化した1930年代半ば、ようやく聴衆の趣向がもっと明るく軽快な音楽へと傾くにつれてベニ―・グッドマン率いる白人ジャズバンドが人気を博すことになる。スウィングジャズの到来である。スウィングジャズが台頭した背景には聴衆のダンスミュージックへの渇望がある。現在のミュージックシーンを見てもわかるように重厚なサウンド主体の音楽の次にヒットするのは概ね極めて軽めの音楽だ。1980年代のロックシーンがそうだった。ハードロックやパンクロックに代表される音のざらつき感がピークに達した粗雑な音楽から電子ドラムに象徴される1980年代のロックシーンにはスウィングジャズのような受け入れやすい音楽性があった。スカーン、スコーン。あの透き通るような歯切れのいい電子ドラムの音はもっとも1980年代を感じる。

 軽めのジャズ―。それがいいのか、否かは勿論、好みの問題なのでなんともいえないが、次第にスウィングジャズは廃れていった。これは演奏するミュージシャン達がいわゆるジャムセッションという演奏スタイルによってもっと自由で制約のない演奏で技量、力量を磨きたいという欲求から生まれたものだ。聴く側よりも演奏する側によって音楽のスタイルが変わっていくというのがジャズらしくて愉快だ。音楽により高度なものを求めるというのは音楽が成長するうえでは必要不可欠なものである。こうして生まれたのが後にモダンジャズの原型となるビ・バップスタイルなのである。この頃の代表的なジャズメンはチャーリー・パーカーである。

ストーリー・オン・ダイアル Vol.1 ストーリー・オン・ダイアル Vol.1
価格:¥ 1,835(税込)
発売日:1997-05-28

あの「テーマ⇒アドリブ⇒テーマ」というモダンジャズ独特の演奏スタイルは21世紀になった現在も正統に継承されている演奏スタイルで、芸術的にも評価が高い。

 さて蛇足、余談はぼくの専売特許。どうしても記事は長めになるが、この辺で話を元に戻すと、ビリー・ジョエルを最近良く聴くようになったのは、一昨年発売された『12ガーデンズ・ライヴ /12 Gardens Live 』を手に入れたからだ。

12ガーデンズ・ライヴ 12ガーデンズ・ライヴ
価格:¥ 3,150(税込)
発売日:2006-06-14

これはマディソン・スクエア・ガーデンで12夜による前人未到の連続ライヴをパッケージ化したものである。ビリー・ジョエルをリアルタイムで聴かなくなったのは色々と理由がある。長くミュージックシーンから遠ざかっていたことも理由のひとつだし、この時点でミレニアム・コンサート盤『ビリー・ザ・ライヴ/2000 Years -The Millennium Concert』でぼく自身、ビリーの一通りの節目を作っていたのも理由のひとつといえるのかもしれない。

ビリー・ザ・ライヴ~ミレニアム・コンサート ビリー・ザ・ライヴ~ミレニアム・コンサート
価格:¥ 3,780(税込)
発売日:2000-05-10

『ビリー・ザ・ライヴ/2000 Years -The Millennium Concert』ではローリング・ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィメン」を録っていたのには驚いた。ライヴならではの臨場感やその迫力にはやはり聴いた当初は度肝を抜かれたし、選曲も頷けるものだったからそれなりに満足のいく音源だったのだけど、『12ガーデンズ・ライヴ /12 Gardens Live 』と聴き比べると、ずっとぼくがビリーに抱いていたあのすこぶるハッピーで物悲しいイノセントな音は少し陰を潜めていた気がする。譬えるなら、『12ガーデンズ・ライヴ /12 Gardens Live 』は第2の『ソングス・イン・ジ・アティック/ Songs in the Attic 』だ。

ソングス・イン・ジ・アティック ソングス・イン・ジ・アティック
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:1999-01-21

 今ぼくはビリー・ジョエルを聴いている。そしてあの頃の気持ちに戻ろうとしている。あの頃の自分に戻ろうとしている。何故今ビリー・ジョエルを聴くのかはぼくにも説明できない。ぼくはビリーを知ってジャズに興味を持った。きっとそれは音楽がぼくに与えてくれたささやかで偉大な何かだ。次に紹介する映像はニューヨーク市で行われたライヴの模様。「マイアミ2017」という曲で、ビリーが演奏するピアノはワルツのようで清々しい。いつにも増してフェイドインしていくビリーのヴォーカルが聴き所だ。