メジャー 敵こてんぱんダメ スポーツの掟?(産経新聞) - goo ニュース
【末永満利のスポーツの掟】
「これはベースボールではない」
声の主は、30ン年ぶりにサンフランシスコから帰国した知人だ。先日、高校野球の近畿地区大阪府予選を観戦していたときのこと。あるチームが序盤から猛攻をかけ、8-0と大量リードしていた。
もう勝負は決まったも同然だが、中盤になって、勝っているチームは先頭打者が出塁すると次打者が送りバントを試みた。知人はこれを許せないというのだ。
「アメリカではあり得ない。相手をこてんぱんにたたきのめす必要はない」というのだ。
たしかに、メジャーリーグではこんな作戦はまず見られない。また、メジャーリーグの公式ルールブックには書かれていない“闇のおきて”というのもある。それが「アンリトン・ルール」だ。
メジャーリーガーはプライドが高い。ときには三振したり、特大ホームランを打ち、一喜一憂することもあるが、顔をつぶされることだけは極端に嫌う。
だから、松坂がピンチで相手を三振にとって、ガッツポーズをしようものなら、間違いなく報復される。松坂はほとんど打席に立つことはないから、ぶつけられる恐れは少ないが、それでも三振の際、手が滑ったとかで、バットが飛んでくる。
また、〈チームが5点以上、勝っているときは相手投手のボールカウントがスリーボール、ノーストライクからの球をスイングしてはならない〉というのもある。
速球がど真ん中に来る状況で一発を狙い、相手に追い打ちをかけるのは、見えっ張りで、情け容赦のない行為と取られるのだ。
高校野球では大差をつけているチームが終盤になっても、送りバントするシーンがよく見られる。たしかに、これは情け容赦のない行為と取られても仕方ないか。
今でも語り草になっている、1998年の高校野球青森大会。
といえば、高校野球ファンなら誰でも知ってる
東奥義塾対深浦高校。
青森県の高校野球の記録を片っ端から塗り替えるトンデモ試合。
122対0。
東奥義塾 39 10 11 17 16 12 17 122
深浦高校 0 0 0 0 0 0 0 0
スコアも凄惨だが、もっとすさまじいのが東奥義塾の打撃成績。
打者はのべ149人。
打ちすぎだろ86安打。
36死四球。
本塁打7。
三塁打21。
二塁打27。
そして盗塁78。
しかも合計5人の打者がサイクルヒットを達成。
しかもその一人は二度もサイクルヒット。
一人は初回でサイクルヒットを達成した。
対する深浦高校は点数も0だが、ヒットも0。
つまりノーヒットノーラン。
あまりにすさまじい試合だったため、翌年から「5回コールド」制が採られるきっかけとなった。
上記のサンフランシスコ帰りの知人がこの試合を見ていたら、卒倒していただろう。
たぶんこの知人と同じ気持ちの人が、以下の話の主人公だったにちがいない。
1934年8月5日。
甲子園福島大会の決勝戦。
平商対福島師範。
結果的に福島師範が29対1で圧勝したが、この平商が返した1点について、以下のようなエピソードがある。
4回表の時点ですでに16対0の大差がついており、誰の目にも福島師範が勝つのは目に見えていた。
4回裏、平商の攻撃。
そのときに球審が、福島師範の監督に歩み寄ると、こう言った。
「君たちはいったいどういうつもりなんだ」
「どういうつもりって・・・試合をやってるだけですが」
「こんな一方的な試合が試合か? これじゃ、ちっとも面白くない。観客もそう思っているし、俺だって面白くないんだ。勝つことはもう決まったも同然だ。だから、投手には変化球を投げさせないで、ど真ん中だけを投げさせろ。少しは平商に打たせて、君たちは守備練習でもしなさい」
ふつうならありえないこのクレーム。
ところが、この球審というのが福島球界ではカリスマといわれた人だったから、監督もうかつには逆らえない。
そこで球審の言うとおり投手にはど真ん中だけ投げるように指示した。
ところが、平商だってだてに決勝まで駒を進めたわけではない。
連打攻勢をかけてたちどころに無死満塁。
慌てたのが福島師範の監督。
万が一これで負けたら末代までの恥とばかり、バッテリーに変化球を投げるよう指示した。
結局、平商の1点はこのとき、内野ゴロの間に奪ったその1点だけ。
なんとも大らかな時代の話である。
(参考文献:織田淳太郎『ニッポンプロ野球珍記録』東京書籍)