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明けましておめでとうございます!

2024-01-01 08:48:15 | エッセイ

                    

    □□□□□‐‐‐ikiikiclub mail magazine‐‐‐□□□□□

               2024.1.1.第281号

                  「生き生きくらぶ」事務局
                    http://ikiikiclub.sakura.ne.jp/

           明けましておめでとうございます!
 生き生きくらぶは第281号となり、発刊から24年目を迎えることができ
ました。これもひとえに皆様方のご支援の賜物であり、冒頭心より御礼申し上
げます。
 新しく迎える令和6年が明るく、幸多い年であることを祈ります。2023年イ
ンバウンド需要は5.9兆円に達し、コロナ前の2019年の4.8兆円を大きく上回る
見通しです。このことが日本経済全体を後押しするものと期待しています。

 最近の話題として「デフレからの脱却」を取り上げます。日本はこの30年
間にわたってデフレに陥り、経済が停滞しています。そうなった経緯、現状の
問題点、打開策について述べることとします。

◆ 経済用語解説
<デフレとは> 
 商品が余ると、売り手は値段を下げて売ろうとします。企業は費用を圧縮す
るため、従業員の給料を下げると同時に設備投資を抑えます。人々は収入が少
なくなって買い物をしなくなり、さらにモノの値段と給料は下がり続けていき
ます。景気は下降します。この現象を「デフレスパイラル」と申します。

<インフレとは> 
 モノに対する需要が増加し、供給を上回ると消費は活発になり、モノの価格
が上がっていきます。企業は売上げ増・利益の改善が見込まれるため、従業員
の給料を上げると同時に設備投資を拡大します。そうなると資金需要が増え、
銀行預金の金利が上がります。お金が社会で循環し、景気は上昇します。

<イノベーシヨン理論> 
 経済学者のシュンペーターは新しい商品や技術、市場開拓などのイノベーシ
ョン(創造的破壊)が新しい価値を生みだし、社会に大きな変革をもたらすと主
張しています。その際、インフレの役割を強調しています。
 アイディアがある人の多くはお金がありません。そういう人に対し、アイデ
ィアはないがお金がある人を結びつける、それが金融です。インフレの場合、
借金は目減りしていくので、借金返済が楽になります。その結果、イノベーシ
ョンが促されます。

◆ バブルの発生と崩壊 1985年~1991年
 デフレの出発点は1985年のプラザ合意です。当時、米国はドル高が進み、貿
易赤字に苦しんでいました。プラザ合意はG5諸国が外国為替市場に協調介入し、
ドル高是正に動きました。
 日本では円相場が1ドル235円から翌年には150円台の円高となり、輸出が減
少し、国内景気が低迷します。日銀は円高不況に対する懸念から低金利政策を
実施し、円高で輸入物価も下がり、一旦景気回復に転じました。

 更に、日銀は景気拡大を図るため、低金利政策の推進と銀行から大規模な貸
し出しを進めました。その結果、不動産や株式などの資産価格が高騰します。
いわゆるバブル景気です。期間としては1988年頃から1991年2月頃迄です。
 資産価格高騰は国民の間の所得格差を広げ、社会問題となりました。政府に
とってバブル潰しが最大の課題となります。日銀は貸し出し金利の急激な引き
上げと、不動産への貸し出し資金の総量規制を実施します。

◆ デフレ 1992年~現在
 バブル退治に向けた急速な財政金融引き締めは、銀行や企業に巨額の不良債
権を生みました。日本は不良債権の処理に手間取り、円高から円安へ切り替え
る金融政策が後手に回り、デフレスパイラルに陥りました。
 円安が効果を発揮するのはモノを日本で生産し、欧米に輸出する場合です。
アベノミクスの時点では部品生産が中国や東南アジアに移転しており、円安で
高い値段の部品を輸入して日本で組み立てても効果は発揮できませんでした。

 日本ではこの30年間、GDP、給与、物価は横這いでした。
・GDPは低成長です。     1992年:445兆円 2022年:547兆円  
    30年間の成長率比較   日本:1.23  米国:4.07   ドイツ:1.98
・給与は30年前より減っています。 1992年:472万円 2018年:433万円  
  2018年の各国給与 米国:741万円 豪州:591万円 韓国:448万円
・消費者物価指数は横ばいです。1992年:97.3 2022年:102.1 
  物価上昇率比較 日本:1.05倍  米国、英国:2倍 ドイツ:1.7倍

◆ イノベーション推進
 日本経済も今春、やっと物価上昇を上回る賃上げが実現する見込みで、経済
の好循環が期待されます。目標としては賃上げ率:5%~7%、物価上昇率:2%~4%、
為替レート:1ドル120円~130円といったところです。イノベーションすべき課
題を以下に列挙します。

<賃金引上げ> 
 今まで企業は賃金をコストと見做して賃下げしてきました。ところが近年、
「賃金は買い物の財源、賃上げが国内市場を活性化する」との見方が広がり、
更に物価上昇や人手不足の深刻化も踏まえ、2023年企業は一斉に賃上げに踏み
切りました。
 労働市場は従来の上場企業・一括採用・終身雇用・年功序列型から新興企業
・中途採用・職務別スキル評価型に急速に変わりつつあります。事業成長が順
調な分野はAI開発、農業資材、金融、ヘルスケアなど多様です。東京商工リサ
ーチによると新興企業の平均年収は上場企業を上回っているそうです。

 北欧等では国全体の賃上げを図るため、企業の新陳代謝を進めています。具
体的には低賃金の企業は積極的に倒産させ、その代わり、失業手当・学び直し
・転職を手厚く支援しています。

<物価引き上げ> 
 市場モデルは現状の値引き重視・価格破壊型は廃止し、付加価値重視型に変
えるべきです。付加価値とは製品が使い易いとか、頑丈と言った独自の機能を
付加することです。製品価格はコストに付加価値分を加えたものとします。
 これまで半導体、EV、蓄電池等といった戦略商品も含めて部品生産をコスト
削減の視点から中国や東南アジア諸国に発注していましたが、経済安全保障の
観点から見直し、国内生産に回帰すべきです。

       第281号の目次
    ■1 切り抜き岡目八目
    ■2 中村さんの遺志「緑の大地計画」、政府支援  

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

◆ 1             切り抜き岡目八目

        ( 神奈川県横浜市 山尾 正斌 )
 長く暑い夏のあと、あっという間に秋が終わり、寒暖差の大きい冬の日々が
続く。やがて冬至、せわしなく令和5年が過ぎ去ろうとしている。コロナ禍の
呪縛から解き放されて、生活のリズムがもとに戻りつつあることは、殊に余生
短い私にとってこの上なく嬉しい。
 その時その時の気まぐれで切り抜いた新聞や雑誌の記事を整理廃棄しながら
老耄の眼に映る昨今の世相を綴ってみた。

 ◆ 政治家と金  
 政治家が金に汚いことは過去においてもたびたび糾弾され、さんざん叩かれ
てきた。いい加減に懲りればいいのに、またもや同じ轍を踏む事態で世情が騒
がしい。
 政治資金集めのパーティ券にせよ一般の商品にせよ、販売促進のためにキッ
クバックを採用する例はむしろ一般的といえる。しかし、懐(ふところ)にし
たキックバックを収入として正規に申告せず猫ババを決め込むとは、遣(や)
った方も受け取った方も如何にもセコい。

 政界には裏金が飛び交っているようだ。85歳を過ぎた老人の私は、唯一の収
入である年金ですら真面目に納税し、確定申告の結果戻る僅かな過払い税を喜
んでいるのに、猫ババした裏金を湯水の如く使う政治家が居るとは、どう考え
ても不公平極まる。
 与党であれ野党であれ、派閥であれ個人であれ、厳正に裁かれて然るべきだ
し、それ以前に政治家の品格を疑う。私の目には、政治家とは己(おのれ)の
使命「経世済民」を忘れた金に汚い輩の集団にしか見えない。

 ◆ 藤井聡太と大谷翔平  
 令和5年10月藤井聡太七冠は、唯一残っていた王座戦を制して史上初となる
八大タイトル全てを手にした。若干21歳の快挙である。八冠達成後の記者会見
で「結果は良かったが、それに見合った力があるかといえばまだまだ。引き続
き実力をつけていく」と述べた謙虚さも清々(すがすが)しい。
 各種コンピューターゲームの普及や趣味の多様化、スポンサーの将棋離れな
どで将棋界の苦戦が囁(ささや)かれる中、藤井八冠達成の快挙はそれらの杞
憂(きゆう)を一気に吹き飛ばし、若い人たちの興味を再び将棋に呼び戻し、
スポンサーも戻りつつあると聞く。将棋界を活性化させ、若者の目をスマホゲ
ームから日本伝統のゲームに呼び戻した功績は大きい。

 戦後のアメリカ進駐軍の兵士たちが娯楽としてやって見せた野球は、小学生
時代の私をも草野球に夢中にさせたし、大リーグのチームが来日して日本のプ
ロ野球チームと交流試合をしたことも、娯楽に飢えていた私たちの目を野球に
釘付けにした。  スタルヒン・別所・藤村らが活躍した時代である。
 以来日本ではプロ野球が唯一の「見せるスポーツ」として隆盛したが、近年
はサッカー・ラグビー・バスケットボールなどの前に影が薄くなり、テレビ中
継の頻度も時間も減ってしまった。日本のプロ野球が、技と力を見せることを
二の次にしてデータ重視に偏り過ぎたことも一因かもしれない。

 その中で、アメリカ大リーグの野球は、野茂・イチロー・松井・大谷らの活
躍で、ゲームのある日はほぼ毎日BS放送で生中継され、多くの国民を楽しませ
てきた。個人技に秀でた多くの選手が技と技・力と力で対峙し勝負する痛快さ
は、日本のプロ野球には無い魅力がある。
 なかでも大谷翔平は投打二刀流でめざましい成果を挙げ、日米にファンを拡
げると同時に野球の面白さを広めた。活躍の素晴らしさは一昨年に続いて今年
のア・リーグMVPに全票一致で選出されたことに如実に現れている。グラウン
ド内外で見せた大谷の何気ない謙虚な行動も「誰にも愛される大谷」の印象を
強くした。

 さらに11月末には大リーグで最も活躍した指名打者(DH)に贈られるエドガ
ー・マルティネス賞も受賞した。今年度はホームラン44本(ア・リーグホーム
ラン王)、打率3割4厘、打点95・盗塁20、投手として10勝、まさに投・打・走
に亘る八面六臂の大活躍であった。
 大谷の素晴らしさはプレー面の活躍だけに止まらない。「野球をしようぜ!」
をスローガンに、日本のジュニア向けに6万個のグローブを寄贈するという。

 また、エンジェルスからフリーエージェントになってドジャースへの入団が
決まり、その契約金の大きさにも驚かされる。10年間で総額7億ドル、私には
想像も付かない金額である。日本円にすると1千億円を超えるという。
 大谷は自ら申し出て契約金の一部を後払いにすると言い、ドジャースへの配
慮も見せた。金に汚い政治家どもは大谷の爪の垢でも貰って煎じるがいい。

 ◆ ガザ紛争  
 1948年大英帝国の承認のもとに建国を果たしたイスラエルについては、建国
に至る歴史的な経緯や民族間・宗教間の因縁を考えると、もともと綱渡り的な
危うさがあった。しかしイスラエルは建国直後に国連にも加盟を認められた歴
とした国家である。
 もう一方の当事者ハマスはイスラム同胞団を母体とするイスラム原理主義組
織であって国家ではない。ハマスが実効支配していたガザには220万を超える
人々が生活を営んでいたのだが、水も電力も食料も医療も、ほとんどをイスラ
エルや周辺国に依存していた。

 そのハマスが、令和5年10月「イスラエル撲滅の聖戦」と称して戦闘部隊を
侵入させ、子供を含むイスラエル人1200人を殺害し、200人以上の人質を取っ
た。あまつさえ、ハマスは1000発以上のロケット弾をイスラエルに打ち込ん
でいる。
 イスラエルが怒らない方がおかしい。一時停戦も報じられたが、多分この紛
争は今後も永く続くだろう。私の個人的で根拠の薄い推測だが、イスラム教信
奉者もユダヤ教信奉者も相互に宗教的主張で譲り合う気はない。極論すれば、
どちらか若しくは双方が死に絶えるまで続くだろう。

 機会は少なかったがイスラム圏の人たちと仕事などで付き合って私が知った
事は、彼らは神を前にすると何事にも妥協とか共存という選択肢を持たない。
異教徒と折り合うことなどあり得ないのだ。
 ユダヤ教もイスラム教も、所謂(いわゆる)宗教改革のような試練を経て、
妥協や共存という知的選択肢を持つことを切に願うものである。

 ◆ マイナカード  
 受け売りの話だが、ルーズベルトがニューディール政策の一環として貧困層
救済を目指した際、対象者が3000万人に達するので各人に9桁の固有番号を与
え、所得と保障の掌握に努めた。この延長線上で現在でもアメリカ国民には9
桁の固有番号が付与されている。
 また、ヒットラーは不況乗り切り策の一つとしてユダヤ人から財産を没収し
てゲルマン民族に配分しようと策し、その方策として国民一人一人に固有番号
をつけた。
 両国とも、膨大な個人情報を処理する必要から情報処理分野が飛躍的に伸び
たと言われる。その象徴がIBMのパンチカードシステムだと言われれば、何と
なく納得できる気がする。

 ところで我が国のマイナンバー制度、政府は鳴り物入りで100%普及を呼び
かけ、新規登録者には「おまけ」(マイナポイント)もつけると言う。新旧制
度の紐付けやリスク管理の問題点を先送りして制度を進めようとやっきになっ
ているが、現実に多くのトラブルに見舞われ、現状は普及率80%でピタリと止
まってそれ以上進まない。
 先日まで「健康保険証を廃止してマイナカードに切り替える」と国民を煽り
立ててみたものの、どの医療機関も健康保険証優先で、診療受付窓口には小さ
な表示で「マイナカードご利用の患者さんは事前にお申し出ください」などと
書かれているだけである。
 明日にでも今の健康保険証が使えなくなる緊迫感は覗えない。確定申告にも
eタックスにはマイナンバーが必要だし便利だが、手書きの申告には番号を記
載し、カードのコピーをつけるなど余計な手間がかかり申告当事者には何の利
得もない。

 私は制度が始って直ぐマイナカードを取得したが、当時はおまけのマイナポ
イントも無かったし、今日に至るまで「マイナカードを利用してよかった」と
感じた事は一度も無い。
 そもそも役所自身が、それぞれ自己が割り付けた固有番号(健康保険番号・
納税者番号など)に固執していてマイナンバーに一本化する機運が覗えない。
さまざまな固有番号が乱立しているから、マイナンバーとの紐付けに手間がか
かる上、間違いも起こる。
 さらにこれによる国民のメリットがイマイチ伝わってこない。全体主義国家
のような強圧的手段でも講じない限り、これ以上の普及は期待できまい。利用
者にメリットが感じられないマイナ制度は今本当に必要なのだろうか。

 何だ彼だと言いながら令和5年は過ぎ去り、令和6年春に私は86歳を迎える。
年賀状の常套句ではないが、新しい年が恙(つつが)ない穏やかで平和な一年
であるよう、我と我が身や家族が健康に過ごせるよう、祈ること切である。

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◆ 2    中村さんの遺志「緑の大地計画」、政府支援  

         (東京都小金井市  上田 亨)
 アフガニスタンで灌漑事業に力を尽くした医師の中村哲さんが凶弾に倒れて
から4年になる。一時は事業の存続が危ぶまれたが、遺志を継ぐ技術支援チー
ムが結成され、JICAから資金協力も得られることになった。アフガニスタン全
土で砂漠化が進む大地に緑と水を回復させる計画が進みそうだ。

◆ 用語の説明
・ペシャワール会:僻地での中村哲医師の活動を支援する国際NGO団体。
  国内で年間約1億円前後の募金を集め、現地の活動資金として提供する。
・PMS:(Peace (Japan) Medical Services)の略。ペシャワール会の現地事業
  体の名称で院長は中村医師である。
・JICA(国際協力機構):日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関
・FAO(国連食糧農業機関):国連にあって食料の安全保障と栄養、作物や家
  畜、漁業と水産養殖を含む農業、農村開発を進める先導機関である。

◆ 中村哲医師の40年の足跡と功績
◇ 中村医師のペシャワール派遣
 ペシャワール会の支援活動は1983年に中村哲医師がパキスタン北部のペシャ
ワールのミッション病院に派遣されるところから始まる。派遣先の病院におい
てハンセン病の治療に従事した中村哲医師は、ハンセン病多発地域であるアフ
ガニスタンの山村無医地区にも3つの診療所を開設する。
 診療を行うとともに、ペシャワールに70床の病院を自前で開設し、パキスタ
ン・アフガニスタン両国にまたがる支援活動を行う。

◇ PMS水源対策事務所の開設
 中村医師は診療を続けていく中で、十分な食料と清潔な飲料水があれば防げ
る病気が多いことが分かり、清潔な飲料水の確保に乗り出す。2000年にアフガ
ニスタンのジャララバードにPMS水源対策事務所を設ける。
 井戸掘り事業を展開し、枯れた井戸の修復を中心に約1600か所の井戸堀りを
行う。同時に飲料水だけでなく、干ばつにより枯れた灌漑用水路の復旧や灌漑
用井戸掘りを手掛ける。2001年、米英軍のアフガニスタン空爆で作業は中断。

◇ 用水路掘削
 2002年、中村さんは大河川クナール河から取水し、ガンベリ砂漠までの約25
kmの用水路建設を骨子とした「緑の大地計画」を発表した。潅漑工事着手に当
たっては多大なコストをかけないPMS方式採用を宣言する。
 ・伝統的な工法を利用し、壊れても地域の人で修復することを目指す
 ・重機は使わず日当240円の労役でやる  ・物の運搬はモッコを利用
 ・手近な素材(石、土、針金) を利用する  ・石を切り出し、巧みに積む
 ・護岸工事では針金をかご状に編んだ中に石をつめる蛇篭を採用

 2007年4月、第1期工事で、約13kmの用水路が開通し、1200ヘクタールを超
える広大な田園が復活した。2009年8月、総延長約24.8kmの用水路が開通し、
田園は3500ヘクタールに広がる。難民となっていた十数万人が帰農した。

◇ 取水設備の完成
  大河であるクナール河の水位は常に上下するが、用水路は一定の水位で安定
的に水を供給する必要がある。この調整をするのが取水門である。中村さんは
試行錯誤の末、江戸時代に築かれた筑後川の山田堰(せき)をモデルに決めた。
 取水部を岩盤に隣接して置き、対岸中州との間を上流部に向かって堰を川幅
全体に斜めに設けて水位を上げる。取水門の間口を広くとって水位の低下に備
え、洪水時は堰板で水量調節を行う。

 8年かけて取水設備が完成した。かんばつの被害を受けている近隣地域への
水の安定供給の取り組みが始まる。取水システムの確立に向け、取水堰・用水
路の新設、改良工事が行われ、PMS方式取水堰の標準設計が確立する。
 2018年からは取水方式の普及のため訓練所での職業訓練も始まり、安定した
水の供給により穀倉地帯として復活した農村へ帰還した農民は約100万~150万
人に上る。更に水道、トイレ、プール、学校、モスク、広場もつくる。

◆ JICA、ペシャワール会/PMSと協力
 2018年、JICAはPMS方式潅漑に関わる技術・知見の普及を目指し、中村医師
と協議してPMS方式の文書化に取り組む。中村医師はこれまで調査や設計、施
工、管理、ブルドーザーの運転まで一人で担当し、100人のアフガニスタン人
を陣頭指揮して潅漑事業を成し遂げてきた。
  ところが2019年12月4日、中村医師の突然の死でPMS方式の文書化をはじめ、
潅漑事業の存続が危ぶまれた。この局面で事業を支えたのが元建設コンサル
タント会社役員の大和さんら日本人技術者数人で結成した技術支援チームだ。

 PMS方式の文書化作成事業も再開し、アフガニスタン側関係者及びペシャワ
ール会等が検討を重ねてPMS潅漑事業のノウハウを体系的に整理した。2021年
にガイドラインとしてまとめ、日本語、英語、ダリ語、パシュトー語の4言
語で発行した。
  2023年8月、JICAはPMS方式による用水路建設をアフガニスタン全土で進める
ため、約13億円の無償資金協力の契約を国連食糧農業機関(FAO)との間で結
んだ。事業推進元はFAOとなり、PMSはFAOの傘下に入る。

  アフガニスタンは2021年8月から米軍の撤退でタリバンが支配している。女
性抑圧政策は続けているものの、治安は安定している。タリバン政府はFAOに
よる潅漑事業推進を承認しており、PMS要員の暗殺は再発しないように思う。
 ただし、食料不足は危機的な状況にある。人口の6割に相当する約2,400万人
が栄養不良のリスクにさらされている。食糧生産の向上が喫緊の課題である。
PMS方式による潅漑事業がJICAやFAOの支援を受けて、従来の3~4倍のスピー
ドで進み、食料不足解決の一助となることを期待する。

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