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今年の自然科学系ノーベル賞 日本の研究者、あと一歩…日経新聞10月10日13面より

2011年10月10日 13時49分57秒 | 日記
東北大・蔡教授 準結晶の9割を発見  
阪大・審良教授 免疫分野、引用群抜く


今年のノーベル賞は生理学医学賞と化学賞で、日本の研究者2人が受賞者に匹敵する成果を出していた。日本の科学技術力の高さを示す一方で、なかなか越えられない壁も見せつけられた。

化学賞の授賞分野、準結晶の研究で最も貢献したのは蔡安邦(さい・あんぽう)東北大学教授とされる。台湾出身で日本で研究する蔡教授は100余りある準結晶の9割近くを発見。竹内伸・東京理科大学前学長は「蔡氏が受賞してもよかった」と残念がる。

物質には原子が規則正しく周期的に並んだ結晶か、無秩序なアモルファス(非晶質)しかないと考えられてきた。受賞するダニエル・シェヒトマン・イスラエルエ科大学特別教授は1982年、原子が規則的に並ぶものの、同じ配列を繰り返すことがない物質を見つけ、準結晶と名付けた。

だが周囲は懐疑的で、大学の教科書を手渡し「勉強し直したら」と酷評した。投稿した論文は拒絶。米仏など3人の協力者の検証を経て、2年後にようやく載った。

ノーベル化学賞を受賞し「結晶学の神様」といわれたライナス・ポーリング博士をはじめ学界はなお否定的だった。「アモルファスと結晶の中間状態」とみる研究者も多かった。簡単に壊れるため、結晶構造の解析が進まなかったためだ。

そんな流れが変わるきっかけを作ったのが蔡教授だ。87年を皮切りに壊れにくい安定な準結晶を次々と作製。構造解析や物性の研究が飛躍的に進んだ。ノーベル賞選考委員会の解説にも「安定な準結晶が構造解明に重要な役目を果たした」と書いてある。

蔡教授は「準結晶の発見は科学史に残る快挙で、単独受賞がふさわしい」と残念がる様子はない。しかし「ひょっとしたら(自分もノーベル賞を受賞)という期待はあった」とも。応用がもっと広がって複数受賞の場合は可能性があった。

一方、生理学医学賞の授賞対象となった「自然免疫」では、審良静男・大阪大学教授が有力候補とされていた。自然免疫は病原体が体内に侵入したときに最初に働く生体防御機構。審良教授は細胞の表面で病原体の侵入を感知する「トル様受容体(TLR)」というたんぱく質を次々と発見し、その機能を解明した。

今年、ノーベル賞の登竜門の一つとされるカナダの有力医学賞「ガードナー国際賞」を受賞する。共同受賞する仏ストラスブール大学のジュール・ホフマン教授はノーベル賞に選ばれたが、審良教授は選から漏れた。

「医学への貢献という点では審良教授が最もあった」という声がある。ほかの研究者から論文を引用される回数では、受賞する3氏を圧倒していた。しかしTLRの最初の発見で先を越された。

免疫学の世界的な権威である岸本忠三・大阪大学元学長は「審良氏は質、量ともによい仕事をした。だが今回は先駆者を優先するという判断だったのだろう」と話す。

もし蔡教授が受賞していれば、日本に住む外国人として初。日本で生理学医学賞の受賞者が出たら24年ぶりの快挙だった。

科学技術立国を標榜するうえで、外国人の活躍と、超一流の医学系研究者の輩出は欠かせない。日本の外国人研究者の割合は1%ほどで、医学系大学院に進む若者も減っている。今年を惜しむだけでなく、今後の政策に生かすべきだ。(編集委員青木慎一)
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