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諸悪の根源は中国共産党…米国務省の対中方針…奇妙な形をした全体主義…自由か独裁かをめぐる戦い

2020年12月24日 09時26分46秒 | 全般
以下は、総力特集、習近平中国の暴走を許すな、と題した月刊誌Hanada今月号に掲載されている長谷川幸洋の論文の続きである。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。
諸悪の根源は中国共産党 
トランプ大統領が直ちに反撃しようとしても、すぐ最高司令官になるバイデン氏はトランプ氏に協議を求めるだろう。
結論を出すまで、米軍は事実上、動けない。
時間がかかればかかるほど、中国に有利になる。 
報告が「中国」という国名と「中国共産党」を区別している点は要注意だ。
米国の政策サークルでは、こうした扱いが普通になった。
「諸悪の根源は中国共産党であって、中国という国、あるいは国民ではない」というメッセージである。
習近平氏の肩書を国家主席ではなく、総書記と記述したのも同じ理由だ。 
以上のような対中認識に基づいて、報告は19項目の提言をまとめている。
うち、報告自身が重要と位置づけた以下の10項目を紹介しよう。
・米議会は米中関係について相互主義の原則で臨むべきだ。
・米議会は外国政府の補助金を監視できるように、米連邦取引委員会(FTC)の権限を強化すべきだ。
・国連および国連傘下の機関における中国の活動について、米国務省は毎年、報告すべきだ。
・米議会は国際標準に関する政策と優先順位を調整するために、政府間委員会の新設を検討すべきだ。
・米議会は米国民が医薬品や医療用品を確実に入手できるように、「マンハッタン計画」(原爆開発のための科学者総動員計画)のようなプログラムを策定すべきだ。・中国の経済データを収集、分析する新組織を創設すべきだ。
・米議会は米国の利益を損なう行為や人権侵害を理由に、中国の組織を制裁する場合、親組織も制裁するよう政府に指示すべきだ。
・米国在台湾協会(AIT)の代表を議会の同意を得たうえ、大統領の任命制にするよう検討すべきだ。
・米議会は外国政府の技術移転プログラムと関係する人物のビザ発給を制限すべきだ。
・米議会は政府に香港脱出を企てる香港居住者に対するビザ発給の制限を撤廃するよう指示すべきだ。
米国務省の対中方針 
次に、NATO報告である。 
11月25日に発表された報告は全部で67ページ、中国について、一節を割いて以下のように書いた。 
〈中国パワーは全体主義の強化と領土的野心の増大ゆえに、開かれた民主主義社会に深刻な挑戦を突きつけている。多くの同盟国にとって、中国は経済的ライバルであると同時に貿易相手国だ。中国は欧州・大西洋地域における軍事的脅威ではないが、ロシアとの関係を深め、長距離ミサイルや航空機、空母、原子力潜水艦を開発し、大量の核兵器を貯蔵している。同盟国はあらゆる分野で中国の影響力増大を感じている〉 
〈NATOは2030年をにらんで、北京が強制力を行使するようないかなる試みも防御できるように備えるべきだ。中国に同盟国間の違いを利用させてはならない。同盟は欧州・大西洋地域の安全保障に影響を及ぼす中国の能力と活動、意図について理解を深める必要がある〉 
ここにも、中国に対する警戒感がにじみ出ている。
米国ほどではないが、欧州のNATO同盟国も中国の脅威をひしひしと感じているのだ。 
11月17日に発表された国務省報告はどうか。
私は、これをもっとも興味深く読んだ。 
国務省の政策企画スタッフが執筆し、本文は74ページである。
政策企画室とも訳されるこの組織は1947年に創設され、ソ連に対する米国の「封じ込め政策」を設計したジョージ・ケナン(故人)が初代室長を務めたことでも知られている。
スタッフはリサーチャーやアシスタントを含めて30人と少数だが、独自の権限を持つエリート集団だ。 
米シンクタンク「民主主義防衛のための財団」(FDD)のセミナーで講演したピーター・バーコウィッツ室長によれば、国務省の他部局が書いたペーパーは国務長官に報告する前に、政策企画室のチェックを受けなければならない。
だが、彼らが執筆したペーパーやメモは誰にもチェックされずに報告できる。長官に異論がなければ、政策企画室の結論が国務省の方針になるのだ。 
ちなみに、国家安全保障担当の大統領補佐官に内定したサリバン氏も、オバマ政権時代に室長を務めた。
奇妙な形をした全体主義
報告はこう書き出している。 
〈中国共産党は単に、すでに確立した世界秩序のなかで卓越した地位を目指しているわけではない。現下の世界秩序は自由な主権国家を基礎にして、米国が建国された普遍の原則から導き出され、かつ米国の利益を促進するものだった。だが、中共はそれを根本的に書き換えて、中華人民共和国を世界秩序の中心に据え、北京の全体主義的目標と覇権主義の野望を満たすような秩序の構築を目指しているのだ〉 
この一文だけでも、中国問題の深刻さが分かるだろう。 
米中対立の通俗的な理解は「米国と中国という二大国が世界の覇権を目指して戦っている」というようなものだ。
パスポートを持っていれば、基本的にだれでも自由に旅行できて、ビジネスや勉強もできる。ルールを守れば、競争も自由。それが「いま、そこにある世界」である。 
だが、中国はそんな世界を受け入れるつもりはない。
それは米国が作った世界であるからだ。
いまや中国の全体主義こそが正しく、自分たちが覇権を握るのも当然である。世界の中心は中国であり、「米国と共存共栄しよう」などとも思っていない。中国こそが秩序の形成者であって、米国はその従属国にすぎない。
一言で言えば、中国はいまの世界を、まったく新しい「自分たちの世界」に書き換えようと思っているのだ。
こうした世界観は、USCC報告の冒頭部分とも響き合っている。 
報告は続けて、こう書く。 
〈中国の挑戦に直面して、米国は自由を守らなければならない。中国は1970年代後半に自由市場の要素を取り入れ、米国や他国が中国との取引を歓迎したおかげで、途方もない経済成長を遂げた。中国共産党は経済力を武器に世界中で他国の政治や社会を中共基準に適応させ、国際機関を中国ブランドの社会主義で改変しようとしている。同時に、世界クラスの軍事力で米国に追いつき、追い越そうとしているのだ〉 
〈中国の奇妙な形をした全体主義と覇権主義的目標を理解するためには、そんな中国の行動の知的源泉を理解しなければならない。それは中共版のマルクス・レーニン主義であり、中国のナショナリズムに関する中共の極端な解釈なのだ〉
自由か独裁かをめぐる戦い 
ここにある「中国の行動の知的源泉」という言葉は、ケナンが47年に外交誌『フォーリン・アフェアーズ』に投稿した「ソ連の行動の源泉」論文(X論文)に触発された気配が濃厚だ。
米外交官の伝統意識とプライドがうかがえる。
実際、バーコウィッツ氏は先のセミナーで、報告執筆前から「ケナンの仕事を意識していた」と語っている。 
「私は報告を書くために2019年夏、ケナンが1946年に執筆した有名な『長い電報』を読み返して、二つの特徴に気がついた。
まず、ケナンはソ連の行動を理解するために、マルクス・レーニン主義と19世紀のロシア・ナショナリズムを理解しなければならない、と考えていた」 「彼は、ロシアを深く理解する新しい世代の外交官や政策担当者を育てると同時に、米国自身が大切にしている建国の原則や憲法の伝統に対するコミットメントを強める必要がある、とも訴えていた」 
今回の報告は、ケナンの仕事を受け継いでいる。 
いま中国と「新しい冷戦」を戦う米国は、中国の言語や歴史、文化を深く理解する必要がある。
そうでなければ、米国は中国が何を目指して行動しているかを理解できず、適切に対処できない。バーコウイッツ氏はそう考えたのだ。 
米国はかつての米ソ冷戦と同じように、中国を良く知る新しい世代の外交官や政策担当者が必要になる。
米国が大切にしている自由や民主主義、人権、法の支配といった理念に対する忠誠心も必要だ。
そんな認識を基に、報告は「民主主義と人権を促進する新たな国際機関の創設と同盟の強化」「中国の挑戦に関する米国人の教育」「言葉と行動による自由の擁護」など10項目を提言した。 
貿易不均衡や知的財産権、国有企業問題など具体的な課題にあえて触れず、同盟強化や教育などを挙げたのは、国務省の中枢が「米中対立は米ソ冷戦に匹敵する長期戦になる」と認識しているからにほかならない。
彼らは腰をぐっと低く落とし、米国の価値観を最大の拠り所にして、中国に対峙しようとしているのだ。
はたして、日本はそれだけの覚悟を決めているだろうか。 
政権交代とともに国務省を離れるバーコウィッツ氏は、バイデン次期政権に「どんな別れの言葉を送るか」とセミナーで問われ、「中国の実際の行動を真剣に受け止めよ。そして、西側向けのレトリックと党員向けの発言を区別せよ」と答えた。 
米中対立は単なる二大国の覇権争いではない。
「自由と民主主義の世界」か、それとも「独裁と全体主義の世界」か、をめぐる戦いなのだ。
日本が対中ビジネスの短期的利益に惑わされて、「独裁と全体主義」の勝利に手を貸してはならない。


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