すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

ドストエフスキー「虐げられた人びと」

2005-12-13 20:11:50 | 書評
放浪編 -番外-


放浪中に読み始めていたのですが、ドストエフスキー「虐げられた人びと」を、ようやく読了。(放浪期間中については、こちらを、どうぞ。)

うーん。
まぁ面白くないわけではないのですが。
他の作品と比べると、あまりにもメロドロマ調が強いなぁ。

ストーリーは、ある金持ちの青年と中流家庭の女性との恋愛を、互いの両親が認めないで、いろんなことが起こって、あら大変! という感じ。


その金持ちの青年の軽薄さは、お見事しか言い様がない。

父の意に沿わぬ女性と駆け落ちしようとしている彼は、いつか父が許してくれるだろうと自信満々です。そこで、「もし赦してくれなかったら? その場合のことを考えてみましたか」と作家の主人公が聞くと、青年・アリョーシャは、こう答えます。
「きっと赦してくれます、ただ時間はかかるかもしれない。でも、そんなことはなんでもありません。ぼくにも根性があるところを見せてやりますよ。お前には根性がない、軽薄だと言って、74 父は年中叱るんです。ぼくがほんとうに軽薄かどうか、今に分らせてやります。所帯を持つということは大変ですからね。そうなったら、ぼくはもう子供じゃない……いや、つまり、ほかの人たちと同じ……家庭の人間になるわけです。自分で働いて暮しますよ。人に頼って暮すよりそのほうがずっといいって、ナターシャも言うんです。ぼくらはみんな人に頼って暮しているわけですからね。いや、まったく、ナターシャは実にいろいろ為になることを言ってくれます! ぼくはそんなふうには一度も考えなかった。育ち方が違うし、教育の中身も違うでしょう。もっともぼくが軽薄で、何の役にも立たない人間であることは、自分でも分ってます。ただ、おととい、すばらしいことを考えつきましてね。まだ時機尚早かもしれないけど、ナターシャにも聞いてもらいたいし、あなたのご意見もうかがいたいから、お話しましょう。つまりですね、小説を書いて、あなたのように雑誌に売りこみたいんです。売りこみについては援助してくださいますね?あなたを当てにして、ゆうべも一晩かかって、小手試しにある小説のプランを練ったんですが、
これが実にもうすばらしい作品になりそうです。題材はスクリーブ(訳注 十九世紀フランスの風俗劇作家。一八六一年没)からちょっといただいて……しかし詳しい話はあとにしましょう。肝心なのは、その小説が金になるってことです……だってあなたも原稿料を稼いでおられるんでしょう!」
ドストエフスキー「虐げられた人びと」73~74頁 新潮文庫
この全く背骨の抜けたアリョーシャの人物像などは、素晴らしかったです。

が、いつもの、未来への予言かと思わせるような、鬼気迫る言葉はなかったなぁ。


後は、二人の恋に、間接的ながら大きな影響を与えるネリーも、支離滅裂な言動でありながらも、しっかりとした人物像となっていました。

黒澤明の「赤ひげ」に出てくる少女は、ここが元ネタなんでしょうね。

と思っていたら、ネリー自体も、ディケンズの借り物だと巻末で解説されていました。
どの作品だろう?

久しぶりにディケンズでも読んでみるか…………。


他のドストエフスキーの感想。
ドストエフスキー「悪霊」同志!

黒澤明「赤ひげ」「赤ひげ」と聞くと、「江戸むらさき特急」の「青ひげ」を思い出してしまう


虐げられた人びと

新潮社

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