オノ・ナツメ『リストランテ・パラディーゾ』

2007-01-16 01:03:34 | 本関係
オノ・ナツメの作品を読むのは「not simple」、「La Quinta Camera」ときて、この『リストランテ・パラディーゾ』で三作目。イタリアのレストランを舞台に繰り広げられる穏やかな恋愛と人間模様が中心になっている。


まず人物描写について書くと、思わず「紳士萌え」になりそうなフェロモンというかダンディズムが凄い。特に第1、2話のクラウディオや第四話のジジには思わず溜息をついてしまった。オノ・ナツメはbassoのペンネームでBLものを書いているゆえに、おそらく「色っぽい」男の描写がこれだけ上手いのだろう。カッコイイ男なら少し練習すれば多分大抵の人は描けると思うけど、これほど嫌らしくなく色っぽい男を描ける人間はほどんどいないのではないだろうか。しかも、この色っぽさは男だけに留まらない。主人公(ニコレッタ)の母親オルガやクラウディオの元妻ガブリエッラといった熟年女性も非常に色っぽく、魅力的に描かれている。その上明らかな偶像ではなく、どこにでもいそうな女性と感じさせるところが凄い。つまり、男も女も色っぽさというか独特な雰囲気(オーラ?)を各々の形でまとった人物として描かれているのだ。こう見てくると、『リストランテ』は「紳士」という範囲ではなくて人物の描写力そのものが非常に優れた作品だと言えるだろう。


この描写力は、単にキャラのビジュアルに留まらない。それぞれのキャラクター設定と個性的なやり取り、そして厨房・フロア含めたリストランテの雰囲気を融合させ、独特の世界を作り上げている。また深い背景や影を思わせるやり取りを、決して重くなりすぎ無いように描くバランス感覚もすばらしい(※)。このような世界を舞台にニコレッタのクラウディオに対する恋愛が展開するのだが、感情的になりすぎず、それでいて真っ直ぐなそのあり方は、作品世界と見事にマッチしていて感心させられる。ただ個人的には、紳士達のやり取りを中心に描いた番外編の「休日の昼食」が一番おもしろかった。それは各紳士達のライフスタイルや距離感を描いているというのもあるし、何より最後に「ジジはなぜオルガの作ったものを食べにこなかったのか」という疑問をさらりと残したところが憎い。はてさてこれはオーナーの言うとおり「ジジは美味しいもの好きだから」(171P)なのか、それとも兄の妻でありながら自分も愛している女性への距離の取り方なのか……あいにくとフリオ家で昼食をモグモグしているジジからは読めない(笑)。


このように、基本的に軽妙で明るいやり取りも、中にはその裏に深みや重みを伺わせるものが含まれている。単純に紳士や婦人達、ニコレッタのやり取りを見るだけでもおもしろいが、そういった言葉や行動の裏の背景を考えるのもまた、この『リストランテ』の醍醐味だと言えるだろう。オノ・ナツメの作品の中では一番とっつき易いし、ぜひお勧めしたい漫画である。



例えばクラウディオの婚約指輪関するリストランテの従業員たちの会話において、ルチアーノは「でも…いいかげん外すべきだけどな」とクラウディオに言ったことで、テオに「ルチアーノが一番キツイ」と評されている(119P)。この評価は、ルチアーノの口調がもともとキツめなので大して違和感はないのだけど、彼が妻と死別しているという設定も考慮に入れると事はそう単純でもないように思える。つまりこの言葉は、自分の先立った妻に対する過去の、あるいは現在進行形の思いから出ているものであり、単なる助言以上の深みを持った言葉ではないか、と推測されるのだ(他の従業員は、現在妻がいるか独身)。

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