ひぐらし憑落し編:TIPS「大災害その後」に関する考察

2008-05-21 12:12:37 | ひぐらし
今回は、憑落し編の中で疑問点として挙げられることの多いTIPS「大災害その後」を扱う。なお、以下は完全にネタバレなので注意。





まず、この「大災害その後」を追加した狙い(製作者側の意図)を明らかにしておきたい。このTIPSは憑落し編のエンディングを見た後で手に入るが、同編のエンディングと合わせて、「雛身沢大災害」が自然災害ではなく陰謀であることを強く印象付ける内容となっている(細かいが、明らかに精神に異常をきたしていて信用性の低い憑落しレナの視点を、魅音という他の視点で補強するという意味づけもありそうだ)。


皆殺し編へと繋がる罪滅し編は、一見陰謀を肯定しているのか否定しているのかわかり辛い構造になっている。それならまだいいが、陰謀という見方を嘲るような記述も少なからずあり、リアルな人間の反応の描写としては正しくとも、皆殺し編で真相を見てその点(陰謀という見方を嘲笑い、危険視するようでありながら、結局陰謀であること)を不快に感じる人間が出てくると推測される。もちろん、「寄生虫」などがいきなり出てくるあたり、罪滅し編自体も皆殺し編の飛躍への準備をしているのが読み取れるし、あまりにあからさまでは推理の興がそがれていしまうのはあるだろう。とはいえ、本質的な部分で方向性がわかり辛い。しかし、憑落し編のエンディングとこのTIPSを見ていれば、自然災害ではなく人為的なものであると考えないわけにはいかない。そしてそれを前提にすると、最後で煙に巻かれるような罪滅し編の描写も、陰謀・「症候群」側が正しくて、そうでない人間たちは「まさかそんな…」といかにも妥当な反応をしているように見えながら、実は正しくない方向に行っていることがプレイヤーにはわかる、という構造になっている。


回りくどくなったが、要するに、大災害が陰謀だとわかりやすく提示することで、皆殺し編をそれほど違和感なく受け入れられるようにするのがこのTIPSの狙いだと考えられるのである。


では、早速このTIPSの状況そのものについての考察に移ろう。プレイヤーが一番疑問に思うのは、おそらくこれがいつの話(何編)かという点だろう。魅音が生存しているため憑落し編の続きではありえないが、それでも憑落しの後半があまりに急展開かつ混沌としているし、何が何やら…という印象を持つ人もいるかもしれない。しかし、「魅音が生存しているのが確かな話は?」と考えれば、盥回し編しかないことにすぐ気付くはずである(同編のエンディング[大災害の十年後]を確認した後でTIPSを見直せば、看護師の何かを中断するような「今日はもうこの辺で…」という言い方も、あのエンディングの続きであることを示している)。


これで、時間軸の確定はできた。では次に、陰謀に気付く過程を確認しておこう。まず、憑落しのレナは、「猛毒ガスが…(中略)…全員死んだ」にもかかわらず、隠れ家で籠の中のハムスターが動いているのを見て大災害が陰謀であることに気付く。気付くまでのプロセスと確信の仕方があまりに短絡的だが、ともあれレナは自分の気付きを誰かに伝えようとする(余談だが、大災害後で動物が動いている、という話は崇殺し編で圭一の見た光景との対比を意識しているように思える)。その後何をしたのかはっきりと描かれていないが、「大災害その後」の描写なども合わせて推測すると、自分の帽子を籠の中に入れて川に流(そうと)したようである。帽子の血痕は撃たれた時か逃げている時に付着したものだろう。


しかしそれでも、いつ籠を流したかがよくわからない。レナのモノローグを見る限りでは、流そうとして車から出た瞬間を(おそらく)狙撃されており、川に流す時間があるとは思えないからだ(まるで川に流せたかのような彼女のモノローグは気になるが、普通に考えればありえない)。憑落し編はあまりにおかしな記述(あるいはレベルの低いミス)が少なくないのを考慮すれば、要するに書き方が紛らわしいだけで実際には流しているということかもしれない。好意的な解釈を試みるなら、憑落し編は実際には流すのに失敗しており、盥回し編では成功した、というのが一番可能性は高そうだ。


さて、それで肝心のTIPSの内容だが、魅音はレナの帽子を見て大災害が陰謀であることを看破する。ここでまたやってくれているのだが、描写を見る限り、魅音が帽子の血痕に気付いたのは帽子を見て意識がクリアになった後である(大石たちを呼んでくるように行った後、血痕だと気付いて涙した云々、とある)。とするなら、帽子だけでメッセージを読み取ったことになるが、帽子に霊でも宿っていたのだろうか(まさに霊納[レナ]!)?…というのは冗談だ。これは描写のミスであり、普通に考えれば血痕を見て気付いたのだろう(その気付きにハムスターの死骸[10年モノ]は無関係である)。そして、すぐに心不全で死亡、つまり山狗に処理されたというわけだ(これは非常によく似たアニメ版の厄醒し編と比べると明らかだ)。


にしても、山狗って平成になっても活動しているのね(雛身沢の封鎖が解かれる平成17年近くまでは機能していたのかしらん。まあ類似の組織ってことなのかもしれんけど)。ところで、このTIPSが「悪魔の脚本」と同時に取得できることを考慮して内容を重ねてみると、「一度起きてしまったら陰謀を暴くのは無理」という主張が浮き上がるように思える。だから昭和58年で打ち破るしかない、というわけだ。もっとも、この話を突き詰めても大して実のある内容にはならないと思うので、それを指摘するだけに止めておく。


最後になったが、「大災害その後」が盥回しの後だとすると、レナが一体どういう状況で籠を流すに到ったのかが疑問として残る。帽子の血などは憑落し編の描写から逃走中に受けた傷によると推測されるが、それにしても自分の隠れ家へ逃げ込んだ理由がわからない(雛身沢が包囲されていることを知り、時間を稼いで状況をやりすごすため?必死に逃走したため自分のもっとも安心できる場所に行き着いた?)。もっとも、アニメ版の厄醒しにおいて描写が変化(逃走中に森の中で山狗に包囲され死亡)しているのを見ると、この問題について考えても不毛のようだ。


さて、次は憑落し編のいくつか残ったフラグメントを掲載していきつつ、何度か出てきた描写の稚拙さについて言及することにしよう。

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