ポプテピピックからリスボックリへ:「カワイイ+毒」図式の成熟

2017-06-16 17:16:38 | ポプテピピック

 

 

新刊発売アニメ化と破竹の勢いを続ける「ポプテピピック」。「クソマン」を自称しサイコパスなJK(というかJC?そもそも制服で判断することに意味があるのか?)二人がニッチネタを振り合ったり振りっぱなしで終わったりする亜空間な漫画だが、それがここまで人気を博すると一体だれが予測しただろうか?

 

もちろん、後付け的に分析することはできる。すなわち、

1:「カワイイ」キャラが毒舌発言をするというギャップ

2:ニッチネタの意味不明さ(宙づり感)がおもしろいと感じる

3:ニッチネタの元を調べたいという欲望を喚起する

4:二人の奇妙なバディ感を見ているのが好き

という具合に。

 

ところで、1についてはこのブログでは何度も書いてきた「ズレ≒笑い」、2は「シュール」、3はネット社会に適した笑いの構造、4は「萌え」と言い換えることもできるが、2巻では4の側面がかなり意識されるようになっていることがうかがえる。というのも、一巻ではピピ美の「いっぱいちゅき」・「絶対流行る」発言くらいしか、もう片方に対する肯定的感情を示す描写はなかったものが、二巻ではポプ子の「ピピピッピ」発言などに加え、undertaleを元ネタとした4コマ(243)のようにピピ美がいなくてポプ子が不安になっている描写が多々見られる(一巻では、群衆の中でハグれてポプ子が不安になっている描写が一回だけ=18しかない)。ポプ子は無表情orキレ顔が特徴的だったが、その目が蹄鉄のようになっている笑顔は、1巻の2回(82・100)に対し2巻では16回も使用されるようになっている。また二人があからさまにキャッキャウフフしている描写も1巻にはなかったものである。ことほどさように、4のバディ感はかなり意識的に2巻では組み込まれるようになっていると言えるだろう。

 

え、そんなこと考えずに無心で読めって?さてはアンチだなオメー・・・というネタはさておき。今私は「ポプテピピック」内における描写の比重の変化を書いたが、ここに大川ぶくぶの他作品である「リスボックリ」・「ハニカムチャッカ」を含めて分析すると1の要素を作者が非常に強く意識するようになっていることがうかがえる。1の要素とは、繰り返すが「『カワイイ』キャラが毒舌発言をすること」であるが、「ポプテピピック」では2chのAAを元にした顔を持つデフォルメされたJK(ないしJC?)であり、可愛いとは思うものの、元ネタを知っていればそこにある毒々しさもまた同時に意識されるような類のものであった(だからカッコつきで「カワイイ」と表現するのが適切と思われる)。

 

ところが、「リスボックリ」ではリス=小動物(他にもハムスターやペンギンが登場)、「ハニカムチャッカ」ではJKアイドルとなっており、小動物もアイドルもカワイイものの典型・象徴であるだけでなく、そこに棘を組み込んでいない点でよりストレートにカワイさを前面に押し出していると言えよう(ただしDJコピペが常に「コピペに過ぎない」というメッセージを投げかけ、アンカーの役割を果たしてもいるのだが)。

 

しかも、非常に興味深いのは、「ハニカムチャッカ」ではSACHIやTAYOたちのアイドル活動が「A面」としてギャグも交えつつほのぼの可愛らしく描かれるのに対し、そのファンであるチャカピーとカリメロの活動(?)は「B面」としてギャグではあるが実にクレイジーで破壊的なものとして描かれている。両者が意識的に対比されているのは、A面は家族愛が前面に出ており周りと助け合っていく様がしばしば描かれている(別言すれば、ハニカムチャッカを愛する人しか出てこない)のに対し、B面はむしろ家族や仕事、そして自分の臓器(!?)を犠牲にしてもハニカムチャッカに全てを捧げようとするそのdevoteぶりがギャグタッチで描かれている。そしてそこには、否そこにだけ、ハニカムチャッカのアンチたちが登場するのである。

 

ことほどさようにA面とB面は単に「アイドル―ファン」という視点の違いに留まらず、「仲間・ファンのみ存在する世界―アンチの存在する世界」、「可愛いらしさ―クレイジーさ」という具合に極めて意識的に二項対立で描かれている(家族だけがハニカムチャッカのメンバーを「たよ」・「さち」と名前で呼び、それ以外はマネージャーも含めてTAYO・SASHIという表記が徹底されている。これはアイドル=偶像としての存在を意識した演出であろうが、作中において彼女たちの振る舞いに裏表がないため、単純に記号的な意味合いが強いと思われる) 。A面もB面もある種書き方というか物語のテンションは同じであるが、カワイイ要素を特徴とするA面と毒の要素を特徴とするB面の書き分け・構成は、作者がこの取り合わせについて極めて意識的であることを示しているのである。

 

おそらく今後はこれを一つの軸として作品を展開してくことになるのであろうが、次にはどのような要素を組み合わせていくのか興味深く観察していきたいものだ。


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