ラーメンズと「不条理」~日本語学校アメリカ編の場合~

2008-09-03 02:34:16 | 感想など
※ まずはこちらの動画をご覧下さい。


収容所脱出記念パーティーの口直しとしてラーメンズのDVDを借りに行った時、ラーメンズのビデオで「日本語学校アメリカン」の紹介文に「不条理」とあるのが目に付いた。


えっ、このコントが「不条理」…?
なるほど広辞苑を見れば「道理に反すること。不合理なこと。背理」とあるから、こんな日本語学校は存在しない、という意味においてその評価は妥当かもしれない。しかしながら、この「不条理」にはどうも「よくわからないもの」というニュアンスが含まれているように感じられるのだ(前に「「時計仕掛けのオレンジ」とシュール」という記事を書いたことがあるが、その違和感と似ている)。つまり、「なんかよくわからんけどおもしろい」ものをとりあえず「不条理」とか「シュール」とか表現しておく、そういう背景から生まれた言葉なのではないだろうか(ちなみにサブの“Monday”を友人がシュールと評価した時同じように突っ込んだことがある)。しかし、アメリカン以外のラーメンズの日本語学校シリーズや筒井康隆の「日本地球ことば教える学部」を見たことがあるからかもしれないが、こんなにわかりやすい内容はないと私は思う。


このコントを特徴付けるのは過剰さとズラしである。前者はアメリカ的記号を詰め込みまくった(西部劇みたいな格好、アメリカ国旗のバンダナetc...)のが笑いになっていることを指すが、過剰な記号による笑いは「ハラキリ・ゲイシャ・フジヤマ」などいくらでも例を挙げることができる(これでもわかりづらければ筒井康隆の「色眼鏡の狂詩曲」あたりを読んでくださいな)。この過剰な記号の付与があるからこそ、途中のハリウッド関連ネタが生きてくることにも注目したい。また後者のズラしについて説明すると、要するに連想ゲーム・言葉遊びに近いのだが、そもそもお笑いとは「ズラすこと」ではなかったか(じゃなければ「普通じゃん」の一言で終了である)。そう考えれば、ラーメンズの日本語学校のネタはむしろわかりやすいとさえ言える(あとは空耳のおもしろさとかにも繋がってくる、と)。


さて次に、想定される否定的評価から考えてみよう。例えばコント中の「御成敗式目」だが、お題は「日本の歴史 all stars」なわけだから、「御成敗式目」がカテゴリーに入ってることがそもそもおかしい、というのは言うまでもない。ここで視聴者は違和感を持つわけだが、それは突っ込まれることなくスルーされ、言葉遊びだけが残される。そうすると、「やり取りが成立してない」(基本的にしゃべっているだけ)という評価が出てくる。


しかしよく考えてほしいのだが、日本語学校に来ている人間で「御成敗式目」が人名でないと知っている人間など一体どれほどいるというのか。そう考えれば、むしろ「御成敗式目」への突っ込みこそ不条理である(※)…とまあこれはさすがに型にはめすぎた物言いだとしても、講師の発言をスルーする意味・効果を指摘することはできる。前掲の「日本地球ことば教える学部」でもそうだが、明らかに言っていることはおかしいのに、それが突っ込まれたり是正されることはない(これはラーメンズの日本語学校アジア編[新橋!で有名]との違いを見ればわかる)。このように間違った、と言うかおかしな例/話がそのままスルーされるのは、私たちも経験してきたことだ。そう、“This is a pen”などであるが、つまり「見てわかれよ!」と突っ込みを入れつつも、教師の後に続いて読むわけである(ちなみに、averageを数字以外に使ってしまうといった類の誤りはそこかしこで起こっていると思われる)。要するに、「日本語学校アメリカン」において間違った/おかしな例がそのままスルーされるのは、言語教育のそういう側面をパロっているわけだ。だからおかしな例に突っ込まないのがダメだ、という評価は二重の意味で不適切だと言わざるをえない。


以上、過剰さとズラし、そして突っ込まずに流す意味と効果について述べてきた。しかし、誤解しないでほしいのだが、私は「だから笑え」と言っているわけではない。不条理という言葉の源泉にあるわかりにくさのようなものは、少なくともこのコントには存在していない、と指摘したかっただけである。ちょっとわからないだけで物事を安直に不条理だとかシュールだとかいう言葉でまとめてしまうような短絡さからは自由になりたいものである。



こう考えてくると、違和感がしょせん自分本位のものにすぎないとよくわかる。だから、その違和感が何なのかをよく考える必要があるのだ。例えば、「突っ込まないことへの違和感→突っ込む/漫才スタイルが完全に染み付いている」というように。
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