ロシアの米大統領選ハッキング疑惑に絡めて

 

ブッシュVSゴアの時から大統領選の集計・不正については取り沙汰されてきたが、今回はロシアによるかなり具体的なコンピューターのハッキング方法が記載された文書が流出したことで、米大統領選に関する疑惑のレイヤーがだいぶ変わってきている(もちろんNSAに確認した上で一部黒塗りの文書が出たことなどからすると、「何の意図で流出させたのか？」という視点も持っておく必要があるだろう)。

 

これまでは疑惑を徒に言い募っても、そこいらの陰謀論と変わらないとみなされたり、下手をすると周囲からはただの「負け犬の遠吠え」と捉えられ、ただ自らのreputationを低下させるだけで(この動画でも問題にされていることだが)全く発言の意図と違った結果をもたらすだけに終わっていただろう。

 

この動画で私が特に思うことは二つあった。

一つ目は短期的な話。アメリカが一枚岩でないことは、先の大統領選への注目もあってさすがにある程度共有されつつあると思うが、それでもこのNSAの動きは気になるところではある。そもそもトランプ周辺の人事を見ると、(ラフな言い方をすれば)彼の好きそうなor彼が選んだ人材から、いわゆる共和党本流が好みそうな人材への変更が見られる。典型的なのは大統領補佐官がフリンからマクマスターへと変更になったこと(フリンはロシアとの絡みで解任されたが、FBIの操作に関連して今もまた話題に上がっている)、あるいは「トランプ現象」の立役者の一人スティーブ＝バノンが主席戦略官・上級顧問から外され、さらにバノンのメディア「ブライトバート・ニュース」の看板であったマイロ＝ヤノプルスがペドファイルを擁護する発言をしてその地位を追われている。このようにしてトランプ色が薄められていく動きは、前FBI長官コミーの証言に対する共和党側の対応と併せて考えると興味深い。

 

 

おそらく共和党側としては、自党支持者の８０％が支持するトランプを今叩くのは賢明ではないと考え(またそもそも弾劾決議までいくのは非常にレアなことなので)、トランプの手足をもいで自分たちのコントロールしやすい手足と取り替えつつ、トランプという看板はとりあえずそのままでいくという方針なのだろう。このことは、「たとえトランプが消えてもトランプ支持者やそのメンタリティは消えない」というのとつながり、要するに彼の首を挿げ替えても、前回の大統領選のような(共和党本流からすると)「混乱」が繰り返される公算が高い以上は、当然の戦略といえよう。ともあれ、今述べたような一枚岩ではないことを前提にした動向分析は今後も必要不可欠なのは間違いない。

 

 

二つ目は長期的な話。このブログでも何度か取り上げてきた話題だが、近代民主主義を支えていた人間理性への信頼というものが目に見える形で損なわれ続けているということ。なるほど第二次大戦前でもファシズムが存在したが、そもそも日本は技術以外の面では近代化などしていなかったし(加えて言うなら日本の戦争突入はいわゆる独裁によるものではなく、むしろ権力の空白が招いた面が多分にある)、またドイツ・イタリアの場合は戦争による怨念があったことと、またナチスドイツを国民が選んだことは民主主義の陥穽として認識・分析されたが、それでも一つの欠陥として暴走の可能性の一つとしてしか捉えられていなかったのではないか？何が言いたいかというと、今日のように人間理性の脆弱さ(見たいものしか見ない・ポストトゥルース！)が「先進国」各所で見られ、しかもそれを世界中の人間が目の当たりにすると、もはや近代民主主義自体(あるいはそれと国民国家・グローバリズムの組み合わせ)に限界がきつつあることは明らかである。このような文脈において人工知能の発達は、かつての産業革命などとは比べ物にならない意味をもちうる。というのも、単に人間の手足となって我々を楽にする道具的存在を超えて、不完全な我々に代わってこの社会をマネージメントする存在となりうる。今でも人間の脆弱さを目にしない日はないが、人工知能が発達して人がVR的世界に溺れ、多くの仕事・人間関係から解放・疎外される段になると、人は坂を転げ落ちるようにその独善性を発揮するようになっていくだろう。そんな状況で、人間などというものに社会の決定を委ねるのと、人工知能に決定を委ねるのと、果たしてどちらが機能主義的に有効か・・・よく考えてみれば答えは明らかだろう(ただし、「機能主義的」と言ったのはそこに正統性＝レジティマシーの問題が絡んでくるからである。ともあれ、このような観点からすると、人工知能の発達を単に失業の問題としか結びつけないのは近視眼にも程があると言えるだろう)。