カラー映像の「身近さ」が作る熟考の契機:マリアナ沖海戦・本土空襲

2017-11-18 12:10:23 | 歴史系

  

特攻の映像などはよく目にするが、それでも白黒だと遠い世界の出来事であるという印象がぬぐい難い。非常に稚拙な話ではあるが、自分の視覚と同じカラー映像だと、日常との連続性が感じられ惨劇の臨場感も全く違ったものとなると思うのだ。これはマリアナ沖海戦のガンカメラ映像だが、それにしても

1:アウトレンジ戦法のための長距離飛行によるパイロットの疲弊
2:キャリアが浅い訓練不足のパイロットの起用(1と連動してさらなる能力低下を招いた)
3:ヘルキャットなど零戦より性能が上の機体との交戦
4:零戦の性能の限界を見抜かれた上にその対処法も確立済(一撃離脱戦法)
5:日本側の索敵能力の低さに対し、相手方のレーダーの精度の高さ(待ち伏せして有利な状態から攻撃される)
6:VT信管を導入した対空射撃

と一つだけでも不利な要素なのに、それが6つも重なっては、勝利が覚束ないのはもちろんのこと、「マリアナの七面鳥撃ち」と揶揄されるほどの一方的な敗北を喫したのもむべなるかなと感じられる(せっかく日本軍はアウトレンジ戦法をとって敵機動部隊へ一方的に攻撃を仕掛けようとしたのに、航空機の帰投を待っていた日本艦隊は長時間大きな動きが取れず、結局潜水艦の餌食になったのだとか。しかも撃墜されなかった戦闘機も長距離飛行のため艦隊を発見できず、未帰還となるものが多数存在していたそうだ)。

 

 

 

変わってこちらは日本本土への機銃掃射のガンカメラ映像である。東京大空襲などの映像はそれなりに見た人もいると思うが、それらの大半は白黒のものであった(そして物や人の具体像は当然のことながら見えない)。しかしこちらは、今とそれほど変わらない景色が瑞々しくカラーで見れるわけで、その中で機銃掃射・爆撃され動く人々が狙い撃ちされている様は、私たちの日常との連続性を実感させずにはおかない。なるほど確かに工場付近が狙われやすいといった偏在はあるが、家が破壊されることの、命が奪われることの偶然性は(標的となる飛行場や工場の帰り道だからついでに攻撃された、という事例はその最たるものだ)、それに対して自分たちが何もできないことと相まって、空襲を天災と見倣わすような心性が生まれたのもある意味当然だと思わせる(そしてシベリア抑留を描いた「凍りの掌」や南方戦線での彷徨を描いた「野火」もそうだが、そのような暴力的偶然性は戦争一般に共通するものでもある)。

 

「この世界の片隅に」が広く受け入れられるのも似た理由からだと推測するが、結局「戦争はいけない」などといったお題目を語る前に、この映像で感じられるような「身近さ」に触れることが決定的に必要であるように思う(「帰ってきたヒトラー」の描き方に込められた意図も同じだ)。なぜなら、それゆえに沸き起こる凄惨さ・悲劇性を慮ろうとする内発性がその人の中に立ち現れなければ(表現者の立場からすれば、そのようにして他者に伝わる仕方で工夫しなければ)、深く考える契機など生まれようもないからだ(すでに書いたことだが、特に年長世代は、戦後70年以上経過しての記憶の劣化を嘆いたりする前に、そもそも1000万人に及ぶ人間が死んだと言われる第一次大戦終結から15年と経たないうちに満州事件を起こし、20年と経たないうちに日中戦争へとなだれ込んだ自分たちの所業を徹底的に総括すべきだと私は思う。これを世代論にならないよう一般化するなら、それこそが人間の忘却癖というものであり、ゆえにこそ善悪よりもそこへ到った構造を語り継ぐ必要があるのではないか)。

 

もちろん、四肢断裂した死体などを見るのはさすがに厳しいという人たちもいるだろうし、年端もいかない学生に見せるのは憚られるかもしれない。ならばこそ、遠い世界の戦争動画を流すより、こちらを視聴させる方がよっぽど効果的だと私は思う。そして賢明な人間であるならば、この動画を見てその凄惨さを認識しながら、同時に撃つ側(=搭乗員)からはまるでシューティングゲームのようにしか感じられないことにも気づくだろう(戦争というものの恐ろしさは単に人が死んだり物が破壊されたりすることに留まらないのだ)。そしてこのような気づきは、たとえば今日増えているドローンを利用した攻撃の一見した「クリーンさ」に騙されない賢明さを獲得すること(ただし、それとドローン攻撃が増える背景=前線に兵士を送ることが困難になりつつある社会的事情を論理的に理解することも同時に必要)などにも繋がると思うのだが。


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