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青森・大間のマグロ漁師たちが「違法行為」に手を染めた本当の理由

2022-05-19 02:31:55 | 日記

青森・大間のマグロ漁師たちが「違法行為」に手を染めた本当の理由

2022/5/19(木) 現代ビジネス

 

 青森県大間産の太平洋クロマグロ漁で不正が横行している。昨年11月に発覚した大間産クロマグロをめぐる不都合な真実は、水産業界など関係者を震撼させた。  一時期絶滅が危惧されたクロマグロの年間漁獲可能量は、各都道府県ごとなど漁業形態別に厳しく管理されている。それにもかかわらず、マグロの聖地である大間で漁獲した数量を報告しない違法行為が平然と行われていた。規範意識の低さが招いた行為で、長年築き上げたブランドは崩壊寸前のところまで来ている。

マグロを隠していた漁師たち

 全国の中でも指折りの産地である大間で揚がったクロマグロは、東京など大都市圏を中心に流通する超高級品だ。銀座に構える老舗寿司店では、一貫数千円と高値で提供されている。  「マグロが餌を食った!」。引っ掛かった巨大マグロを一気に糸で引っ張り上げるベテラン漁師たち。踏ん張りきれなければ、波の荒い海に放り出されかねない。漁船に近づいた巨体に電気ショッカーを掛けて気絶させた上で、銛で急所を狙って仕留める。まさに食うか食われるかの戦いはテレビのドキュメンタリー番組などでも取り上げられ、大間の知名度は全国でも高い。  なかなか釣れない男たちの苦悩や、家族との絆にもスポットを当てた場面は視聴者の涙を誘う。多くの漁師たちは自己研鑽に励んでいるが、一方で一部の漁師による不正が昨年11月に発覚した。  関係者によると、大間の漁師らは、2021年度の漁期がスタートした21年4月~9月に、大型クロマグロ計14.3トンを、青森県に届け出ずに隠していた。

補助金がなければ赤字寸前

 クロマグロは国際条約により、漁を行う日本や米国、台湾など国・地域別に漁獲可能量が厳密に決まっている。例えば、日本の今年の漁獲可能量は大型が約5600トン、小型は約4000トン。かつての乱獲が響いて資源が減った反省を踏まえ、厳密に管理している。上限の超過は一切許されない。  青森県全体の21年度の漁獲可能量は514トンで、不正を働いたとされる漁師が所属する大間漁協には、そのうち253トンが配分されていた。  一部の漁師が不正を働いた背景には、ルールを破ってでも自分たちの生活を守ろうとする身勝手さがあるようだ。マグロが取り放題の20世紀は終わり、2015年から国際的な漁獲規制が始まったため、漁師の収入も頭打ちになった。一攫千金が狙いにくくなり、漁獲規制そのものに不満を持つ漁師が多いのも事実だ。  出漁してもマグロに出くわさなくても、1日当たり数万円の燃料代が掛かる。昨年秋以降の燃料高で利益は目減りし、補助金がなければ、赤字に転落しかねない。マグロのような水産資源は漁獲量を抑えれば、資源量は将来確実に増える。目先の利益にとらわれて申告せずに漁を行えば、再び資源が枯渇するリスクがある。  大間産クロマグロが最も高く取引される時期は年末年始だ。近年は新型コロナによる外食需要の激減により、豊洲市場の年明けの初競りで付ける値段は1本1000万~2000万円台と平常値に戻ったが、一時期はご祝儀相場により1本3億3000万円の超高値を記録したこともある。  漁師は一千金を狙い、夏場は可能な限り漁を控え、自身に配分された枠を冬場に備えて温存する。ただ、割当量を大切に取っておいても、全く釣れず懐が寒くなる危険性もはらむ。

「未報告マグロ」は200トン以上か

 不正を行っていた大間のマグロ漁師は、マグロが釣れないリスクを回避するため、夏場に一定量取ったマグロを県に届け出ず、漁獲割当量を温存して、冬場も出漁していたとみられる。  漁獲未報告に対する罰則の軽さも不正を助長した可能性がある。漁業法では、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される。時期と重量にもよるが、大型マグロを確保した場合は100万円規模の値段が付くケースもあり、30万円を上回るリターンが得られるため、悪事に手を染める者がいてもおかしくはない。  不正が始まったのは、最近のことではないようだ。関係者の間では、大間は「違法操業で有名」な場所。青森市中心部から車で3時間も掛かり、行政の監視の目が行き届きにくいためだ。  「14トンどころか、200トン以上の未報告がある」。関係者は重い口を開いた。もしこの話が事実なら、県全体に割り当てられた数量を超過する可能性があるため、県内全ての漁業者が禁漁に追い込まれる事態も想定される。その影響は県内にとどまらず、台湾や米国などから厳しく非難され、国際社会での日本の信頼が失墜しかねない。これが起因し、日本にとって厳しい規制を導入すべきとの雰囲気が広がる可能性もある。

漁協と行政の「距離感」

 一方、中国産や韓国産のアサリを熊本産と偽装して販売していたことが大きな社会問題となったことを受け、熊本県は県産アサリの出荷を2ヵ月間停止した。偽装を根絶し、さまざまな対策を打つためだ。県はこの間、産地を証明するトレーサビリティの導入を柱とした対策を決定した。  未報告漁獲と産地偽装は趣が異なるが、消費者や社会の信頼を失うという意味では共通する。本来なら、大間でも出荷停止に踏み込むくらいの措置が必要にもかかわらず、大間漁協や青森県からのメッセージは聞こえてこない。  大間での不正も徹底的な真相解明が求められるが、「県はアリバイ作り的な調査しか行わないだろう」(業界関係者)との懸念がある。  大間漁協と県庁は地理的に離れているが、他の地方と同じように行政と漁協や漁師は心理的な距離がきわめて近いとみられる。漁師と県職員が縁故関係にあるケースや、地方議員らが問題に介入してくることなども想定されるため、行政は厳しい追及をためらい、さらなる不正を生む悪循環にも陥りやすい。熊本県は不正から目をそらすことなく、真に消費者やひたむきに努力する生産者の利益保護を優先し、英断を下したといえる。

信頼を回復できるか

指導力が欠如している青森県に代わって、国がリーダーシップを取って徹底的に実態解明を進めるべきだが、中央官庁の顔は見えない。   当然ながら、消費の現場にも問題が波及している。不正が介在したクロマグロを食した消費者は全国のどこかに必ずいる。  大量消費の時代は終わり、食材を作った生産者の思いや製造工程などバックグラウンドを重視する消費者が日本でも増えつつある。しかし、いかなる消費者も生産工程に不正があると分かれば、その商品を手に取ることは二度とない。  知名度抜群で最高級の大間産クロマグロは、築き上げた地位が失われるかどうかの瀬戸際に立たされている。大間産を愛する寿司屋や消費者のためにも、信頼回復に資する仕組みの導入が待ったなしの状況だ。


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