羽花山人日記

徒然なるままに

サンゴの救出

2021-11-25 17:07:17 | 日記

遺伝子操作でサンゴを救出

昨日ネット上で,「遺伝子操作はサンゴを気候変動から救えるか 米研究」という記事を読んだ。

それによると,海水の温度上昇や酸性化で,急激に数を減らしているサンゴを救出する手段として,環境変動に抵抗性のある種の幹細胞(組織分化のもとになる細胞)を,抵抗性のないサンゴに移植することが,マイアミ大学で研究されている,とのことである。

この研究は環境保護NPOの支援を受けていて,記事に紹介されているアメリカの研究者は,おおむねこの研究をポジティブに評価している。しかし,わたしはいくつかの懸念を感じる。

生物の集団においては,環境の変動に対して,変動に適応した個体が生き残り,子孫を増やしていくというのが,ダーウィニズムにおける進化の考え方である。標記研究における基本的な狙いは,急激に進む環境変化に,集団の中の突然変異の速度が追いつかないので,突然変異の代わりに,人為的に遺伝子を持ちこもうということである。栽培植物や飼育動物においては,集団の遺伝的改変が行われているが,自然集団の進化の過程に遺伝的に介入しようとすることは新しい試みであり,それが生態系や環境にどのように影響するかは,慎重に見定めなければならない。

操作の詳細は分からないが,移植しようとする幹細胞が遺伝子組み換えを含むとすれば,無条件で是認することはできないだろう。遺伝子組み換えは,その技法が利用されるにあたって,組み換え体が漏出しないようにするのが,合意事項であった。組み換え体の動植物が飼育・栽培されるようになってからも,個体や遺伝子が拡散しないように最大限の措置がとられてきた。

標記の技法に遺伝子組み換えが含まれているとすれば,組み換え体を積極的に生態系に拡散させようとすることであり,これまでの規制の基本理念を根本的に見直さなければならなくなる。

サンゴの救出の目的が,単に絶滅危惧種を保護することだけであるか,それとも,救出するサンゴを利用しようとするかによって,評価の視点が違ってくる。

トキは日本での自然集団の復活を狙って導入された。その目的には,トキの集団が生存・繁殖可能な環境条件を再現するということも含まれていたのではないだろうか。しかし,遺伝子操作によるサンゴの保護は,環境の変化を前提にしたもので,その変化にさらされる他の生物集団はどうなるのかは置き去りで,これまでの絶滅危惧種保護の考え方からは,ずれるところがあるように思える。

サンゴの二酸化炭素吸収率は,共生する藻類の働きによって,約4.3㎏/年・㎡に達し,陸上植物の10倍近いとされている。この能力を大気中の二酸化炭素削減に利用しようとするのであれば,サンゴを積極的に増やしていくことを考えるべきで,絶滅危惧種保護とは別問題になるだろう。

いずれにせよ,バイオテクノロジー的手法の環境問題への適用は,慎重の上にも慎重を期すべきだある。

石垣島の珊瑚

1996年8月,カピラ湾にてグラスボートの船底より撮影。沖縄の海はサンゴの宝庫で,約200種が存在するという。

 


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2 コメント

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Unknown (KamijimaAkio)
2021-11-26 08:16:07
遺伝子操作(組換え)のことは、知識がなく、難し過ぎて、コメントは、出来ませんが、自然破壊にならぬ事を願うのみです。サンゴの二酸化炭素吸収率が、驚くほど高いことを初めて知りました。
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Unknown (山人)
2021-11-26 16:48:02
環境問題にバイテクが入ってくる時代になったことに,感慨をおぼます。
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