◾️ドミートリイ・ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 op.47  (日本フィル・曲目解説:藤田崇文)

2023-12-18 | 解説(音楽解説・曲目解説)
日本フィルハーモニー交響楽団第756回東京定期演奏会
プログラムノートより


2023年12月8日 (金) 19:00 開演
2023年12月9日 (土) 14:00 開演
サントリーホール


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プログラム・ノート(曲目解説への前文) 藤田 崇文


<混迷を深める現代において、オーケストラが放つメッセージ>

 新首席指揮者カーチュン・ウォンが登場する2023年12月の東京定期演奏会は、桂冠指揮者アレクサンドル・ラザレフへの思いも込めショスタコーヴィチ交響曲第5番の演奏とともに、混迷を深める現代において、この曲が放つメッセージが届けられる。そしてコンサート冒頭には先日惜しくも逝去した外山雄三を追悼し、交響詩《まつら》を演奏。この曲は日本フィル恒例行事である九州公演に深くゆかりのある作品で、日本フィルにとっても大切な宝物のひとつであるといってよいであろう。生前の外山の業績を振り返り、日本フィルから作曲者へ感謝の意を表し特別に演奏される。次に演奏されるのは伊福部昭のマリンバ協奏曲《ラウダ・コンチェルタータ》である。これまでも伊福部作品において名演を繰り広げてきたウォン&日本フィルの熱い演奏と注目されるマリンビスト池上英樹の共演に期待が高まる。


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◾️ドミートリイ・ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 op.47  (曲目解説:藤田崇文)


 ドミートリイ・ショスタコーヴィチ(1906サンクトペテルブルク〜1975モスクワ)はソビエト連邦(現ロシア)の作曲家でサンクトペテルブルク音楽院にて作曲をマクシミリアン・シテインベルクに学んだ。音楽院時代、父親の死により経済的困難に陥ったが、自らのアルバイト、音楽院院長アレクサンドル・グラズノフの強力な援助もあって勉学を続けピアノ科と作曲科を卒業している。生涯で15作の交響曲を遺し、その中でも「第5番」は演奏機会が多く、1937年の初演はエフゲニー・ムラヴィンスキー指揮、レニングラードフィルによって大成功を収めた。
 ショスタコーヴィチは芸術音楽における20世紀最大の作曲家のひとりと称され、作曲家としての地位を確立させた時期と作品は、1934年に初演された、オペラ《ムツェンスク郡のマクベス夫人》であった。レニングラードとモスクワで大成功を収め、翌年以降はクリーブランド、ニューヨーク、コペンハーゲン、チューリヒと諸外国都市でも上演され、作曲家としても市民権を得ていく。ところが、1936年1月28日のソビエト共産党機関誌〈プラウダ(Pravda)〉に『支離滅裂で音楽ではない』という論評にはじまり、オペラや作曲姿勢を攻撃され、創作意欲や活動にも多くの制約をもたらした。交響曲第4番は練習途中で初演を取り止め、作曲の筆もしばらく休めた。この悲劇的時期にショスタコーヴィチを奮い立たせ、1937年4月18日から7月20日までの3カ月間に一気に筆を走らせた作品が交響曲第5番である。名誉も回復する作品となった。
 交響曲第5番の印象を指揮者カーチュン・ウォンが日本フィルのインタビューに対し単刀直入に答えており興味深いので紹介したい。『第1楽章の幕切れのチェレスタの響きは鳥肌が立つほど恐ろしく、第2楽章の皮肉に満ちたスケルツォは、誰かに銃を向けられ無理矢理踊らされているかのようです。第3楽章の果てしない孤独では、クラリネットの金切り声が人間的なテクスチャを作り出します。第4楽章のクライマックスはまるで人間の頭に釘を打ち付けながら、白いものを黒と言わせているかのようです』と語っている。
 特に第4楽章の主題(旋律)は単調に始まり、クライマックスは同主題が長調へと、勝利への音楽と導かれるかのようである。現実の矛盾に直面しながら誠実に創作活動を続けたショスタコーヴィチ、そして悲劇的時期に遺した交響曲第5番は、混迷を深める現代においても、この曲が放つメッセージとともに聴く人の心に深く刻まれるであろう。

(1937年11月21日初演・レニングラード)

●楽器編成 : ピッコロ 1 、フルート 2 、オーボエ 2 、E♭管 クラリネット1、クラリネット2、ファゴット2、コントラ・ファゴット 1、ホルン 4、トランペット 3 、トロンボーン 2 、バス ・トロンボーン 1 、テューバ1 、ティンパニ 、 大太鼓 、小太鼓 、シンバル 、トライアングル 、シロフォン 、銅鑼 、グロッケンシュピール、ハープ 2 、ピアノ1(チェレスタ弾替1)、弦楽5部。

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▶︎外山雄三:交響詩《まつら》
▶︎伊福部昭:オーケストラとマリンバのための《ラウダ・コンチェルタータ》 
▶︎ドミートリイ・ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 op.47

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▼第756回東京定期演奏会 プログラム公開(無料)


▼この公演はライブ配信が行われています。(有料)

◾️伊福部昭:オーケストラとマリンバのための《ラウダ・コンチェルタータ》 (日本フィル・曲目解説:藤田崇文)

2023-12-18 | 解説(音楽解説・曲目解説)
日本フィルハーモニー交響楽団第756回東京定期演奏会
プログラムノートより


2023年12月8日 (金) 19:00 開演
2023年12月9日 (土) 14:00 開演
サントリーホール


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プログラム・ノート(曲目解説への前文) 藤田 崇文


<混迷を深める現代において、オーケストラが放つメッセージ>

 新首席指揮者カーチュン・ウォンが登場する2023年12月の東京定期演奏会は、桂冠指揮者アレクサンドル・ラザレフへの思いも込めショスタコーヴィチ交響曲第5番の演奏とともに、混迷を深める現代において、この曲が放つメッセージが届けられる。そしてコンサート冒頭には先日惜しくも逝去した外山雄三を追悼し、交響詩《まつら》を演奏。この曲は日本フィル恒例行事である九州公演に深くゆかりのある作品で、日本フィルにとっても大切な宝物のひとつであるといってよいであろう。生前の外山の業績を振り返り、日本フィルから作曲者へ感謝の意を表し特別に演奏される。次に演奏されるのは伊福部昭のマリンバ協奏曲《ラウダ・コンチェルタータ》である。これまでも伊福部作品において名演を繰り広げてきたウォン&日本フィルの熱い演奏と注目されるマリンビスト池上英樹の共演に期待が高まる。

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◾️伊福部昭:オーケストラとマリンバのための《ラウダ・コンチェルタータ》 (曲目解説:藤田崇文)

 伊福部昭(1914北海道〜2006東京)は、作曲家、音楽教育者として活躍し、作曲を独学で学んだ。「ゴジラの音楽」は広い世代に知られており、ゴジラの作曲をはじめとする300作の映画音楽は根強いファンに支持されている。伊福部音楽の特徴は「オスティナート(繰り返しの演奏法)」である。「ゴジラ」もそうであるように、延々と続く押しの強い音楽と様々な楽器を重ね合わせるオーケストレーションは土俗的かつ力強い高揚感を持ち合わせる。そのオスティナートは《ラウダ・コンチェルタータ》にも当然のごとく取り入れられ、特にクライマックスに向かうにつれ、マリンバの激しい打法と動き、大胆なオーケストラの響きを存分に味わうことができる。
 この曲は1978年平岡養一の木琴演奏活動50周年記念の為に書かれた木琴と管絃楽の作品であったが演奏されないまま、マリンバソロ用に加筆され、1979年山田一雄指揮、新星日本交響楽団 (現・東京フィル)にて安倍圭子との共演により初演された作品が現在の《ラウダ・コンチェルタータ》である。平岡が使用したシロフォン(木琴)は米・ディーガン社製最低音F(ファ)から最高音C(ド)の3オクターブ半音域で伊福部もソロパートを最低音Fまで使用した。その後、マリンバ用に1オクターブ低音域を増やし4本バチでの演奏スタイルへ拡大した。
 伊福部は初演時の説明に『ゆるやかな、頌歌風な楽案は主として管絃楽が受け持ち、マリンバは、その本来の姿である打楽器的な、ときに野蛮にも近い取扱いがなされています。この互に異なる二つの要素を組み合わせること、いわば、祈りと饗性との共存を通して、原始的な人間性の喚起を試みたのです』と語っている。デッサンには[LAUDA ANTICA、古代の頌歌、シャーマン頌歌、Ode of Shaman 、shamanism]などタイトルメモが残され、北方・ユーラシア古代のシャーマニズムという民族的・宗教的・霊的知恵を意識した世界観が流れてくる。
 近年、日本管打楽器コンクールマリンバ部門においてラウダが本選曲となりマリンバ奏者の登竜門曲としても愛されている。なお、ラウダのデッサン92枚を含める他曲の直筆譜・楽譜等1300点は伊福部が学長を務めた東京音楽大学に保管され、付属図書館から伊福部昭デジタルアーカイブと所蔵目録 (OPAC) の公開が始まっている。

(1979年9月12日初演・東京)

●楽器編成:独奏マリンバ、ピッコロ1、フルート1、 オーボエ2、イングリッシュ・ホルン1、クラリネット2、 バス・クラリネット1、ファゴット2、コントラ・ファゴット1、ホルン4、トランペット3、トロンボーン2、バス・ト ロンボーン1、テューバ1、ティンパニ、大太鼓、トムトム、ティンバレス、ハープ、弦楽5部。 

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▶︎外山雄三:交響詩《まつら》
▶︎伊福部昭:オーケストラとマリンバのための《ラウダ・コンチェルタータ》 
▶︎ドミートリイ・ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 op.47

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▼第756回東京定期演奏会 プログラム公開(無料)


▼この公演はライブ配信が行われています(有料)



◾️外山雄三:交響詩《まつら》 (日本フィル・曲目解説:藤田崇文)

2023-12-18 | 解説(音楽解説・曲目解説)
日本フィルハーモニー交響楽団第756回東京定期演奏会
プログラムノートより

2023年12月8日 (金) 19:00 開演
2023年12月9日 (土) 14:00 開演
サントリーホール

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プログラム・ノート(曲目解説への前文) 藤田 崇文


<混迷を深める現代において、オーケストラが放つメッセージ>

 新首席指揮者カーチュン・ウォンが登場する2023年12月の東京定期演奏会は、桂冠指揮者アレクサンドル・ラザレフへの思いも込めショスタコーヴィチ交響曲第5番の演奏とともに、混迷を深める現代において、この曲が放つメッセージが届けられる。そしてコンサート冒頭には先日惜しくも逝去した外山雄三を追悼し、交響詩《まつら》を演奏。この曲は日本フィル恒例行事である九州公演に深くゆかりのある作品で、日本フィルにとっても大切な宝物のひとつであるといってよいであろう。生前の外山の業績を振り返り、日本フィルから作曲者へ感謝の意を表し特別に演奏される。次に演奏されるのは伊福部昭のマリンバ協奏曲《ラウダ・コンチェルタータ》である。これまでも伊福部作品において名演を繰り広げてきたウォン&日本フィルの熱い演奏と注目されるマリンビスト池上英樹の共演に期待が高まる。

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◾️外山雄三:交響詩《まつら》 (曲目解説:藤田崇文)

 外山雄三(1931東京〜2023長野)は、指揮者、作曲家として活躍し、NHK交響楽団正指揮者他、地方オーケストラの音楽監督を歴任し楽団運営にも力を注いだ。外山は東京芸術大学で下総皖一に作曲を学び、代表作のひとつに日本民謡をモチーフにオーケストラ作品として作曲した《管弦楽のためのラプソディ》がある。日本各地に古くから受け継がれる民謡や祭囃子の音をオーケストラによって人々の心に鮮明に蘇る作品を遺し日本各地の美しい風景や賑わいを思わせる。そして、同じく日本的モチーフをオーケストラに取り入れた《まつら》は、玄界灘に面した城下町唐津の古称、松浦(まつら)地方の音楽を表現している。夜明けを思わせる情景を冒頭に置き、「唐津くんち」の祭囃子を題材に祭りが最高潮に達する賑わいをオーケストラで表現し、当時日本フィル音楽監督であった渡邊曉雄の指揮で初演された。
 この作品が生まれるまでの物語を少し触れてみたい。外山は日本フィルにとっても大切な指揮者であり、作曲家である。外山が日本フィルを最初に指揮したのは1973年2月のこと。旧財団が前年に解散し楽団がもっとも苦しい時期と重なる。その後も楽団の活動に心を寄せ、1977年には《花を捧げる》を作曲し楽団との歴史を刻んできた。今回演奏される本作は佐賀県唐津市民の委嘱により交響詩《まつら》が生まれ、九州での公演を長年育んできた地域と初演の日本フィルとの文化交流の絆、作曲料に1人1口千円の募金活動で2000名が賛同した市民と作曲家との絆が深まった音楽作品であり、日本フィルにとっても大切な宝物の一つであるといってよいであろう。
 外山が1999年に日本フィルと地元唐津で再演した時のノートには『美しい海、限りなくやさしい人々・・・。その上に豊かに伝えられてきた民謡の数々。これだけ揃うと作者の責任は重くなるばかりである。日本フィルの外国旅行で、そして国内でも現在に至るまでしばしば演奏されてきた。唐津の皆さんと日本フィルの苦労が実った、夢がかなったと言うべきだろうが、作者は、とんでもない幸運に恵まれたと思っている』と感謝の言葉が記されている。
なお、スコアは初稿から祭囃子の部分が6ページ挿入、32小節分追加され、1982年2月20日に作曲が完成。3月1日初演の数日前に宮崎のホテルで渡邊曉雄にスコアが手渡されている。

(1982年3月1日初演・佐賀県唐津)

●楽器編成 : ピッコロ 1 、フルート 2(ピッコロ持替 2 )、オーボエ 2 、クラリネット 2 、ファゴット 2 、コントラ・ファゴット 1 、ホルン 4 、トランペット 3 、トロンボーン 2 、バス・トロンボーン 1 、テューバ1 、ティンパニ、大太鼓 、小太鼓 、トライアングル 、グロッケンシュピール、チャンチキ、弦楽5部。 

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▶︎外山雄三:交響詩《まつら》
▶︎伊福部昭:オーケストラとマリンバのための《ラウダ・コンチェルタータ》 
▶︎ドミートリイ・ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 op.47

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