映画音楽「八甲田山」 “Mt. Hakkoda” 芥川也寸志 (解説:藤田崇文)

2024-01-05 | 解説(音楽解説・曲目解説)
「八甲田山」
“Mt. Hakkoda” : Main theme, Tokushima Team, Ending theme
■音楽:芥川也寸志 (Yasushi Akutagawa) [1925年7月12日 - 1989年1月31日]             

八甲田山(タイトル)テーマ   映画オリジナルスコア使用 no.1
徳島隊銀山に向う        映画オリジナルスコア使用 no.10
終焉              映画オリジナルスコア使用 no.38
監督:森谷司郎 / 公開1977.6.18 / 製作会社=配給:橋本プロダクション、東宝映画、シナノ企画=東宝 カラー 169分


 真冬の青森県・八甲田山の山中でふたつの連隊が雪中で演習行軍し、199名の死者を出した「八甲田山雪中行軍遭難事件」を題材にした超大作映画。新田次郎の原作『八甲田山死の彷徨』をもとに、大部隊で自然を克服しようとする部隊と小数精鋭部隊で自然にさからわず、折り合いをつけようとする部隊の様子を冬の八甲田山を舞台に描く。極寒の八甲田で長期撮影を敢行し、出演者の中には脱落者が出たとも伝えられる。正に本物の雪の恐怖が観る者に襲いかかる。日本映画界で未曾有の大ヒットを記録した。
 音楽は芥川也寸志。映画冒頭、秋の景色の八甲田山を背景に「八甲田山テーマ」が流れていく。ヴァイオリン、ビオラ、チェロの弦楽器ユニゾンがニ短調による第1主題を聴く者の胸に深く入り込むように謳う。第2主題はトランペット、ホルンがドライに奏で、再び弦楽器にテーマが受け継がれる。演奏会スタイルでは、第1主題と第2主題をダ・カーポし、もう一度演奏する場合があるが、このアルバムではリピートせずに、映画版そのものを再現した。
 「徳島隊銀山に向う」は冬景色の山道を歩くシーンで、十和田湖西岸の銀山を目指して徳島隊が列をなして行進していくくだりに奏される。小太鼓の刻みにシンバル、大太鼓が加わるマーチ・スタイルではあるが、通常2拍子の行進曲ではなく、誤った方向へ進んでいくかのような描写に「3拍子の音楽」が被さることで、観る者に危機感を抱かせる。
 真冬の八甲田山で起こったあの「事件」を記憶する者も少なくなった。長い歳月が流れ、今はすっかり平和な時代となった。青森ねぶた祭の歓声に沸く頃、ロープウェーから八甲田の自然を窓から静かに眺める一人の老人がいた。青森歩兵第五連隊で生き抜いた村山伍長である。草木に覆われた穏やかな八甲田山系の山々を彼はただただ見つめていた。芥川は1曲目のテーマ同様、ニ短調の音楽で「終焉」を締めくくる。ビオラ、チェロが主旋律を奏でる中、ハープのアルペジオとともに内声の静かな動きにフラットやナチュラル、シャープで音の半音上下を駆使し、静かな回想に心を向かわせる。次々に楽器が加わって大オーケストラへの響となり、更なる回想が胸に迫り、村山伍長の瞳に万感の思いが浮かび上がる。
 芥川也寸志の映画曲を代表する作品のひとつで、1978年第1回日本アカデミー賞音楽賞を受賞。

<楽譜管理:全音楽譜出版社>


▶︎ CD発売:キングレコード:シンフォニック・フィルム・スペクタキュラー 12
King Records,The Greatest Japanese Film Scores SYMPHONIC FILM SPECTACULAR 12

▶︎ 日本映画音楽の巨匠たち 企画監修・解説とエピソード:藤田 崇文
The Greatest Japanese Film Scores: Planning supervision(Takafumi Fujita)


▶︎「八甲田山」 八甲田山 メインテーマ

▶︎「八甲田山」 徳島隊銀山に向う


▶︎「八甲田山」 終焉

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