■『可愛い女』(未知谷)
アントン・P・チェーホフ/作 ナターリャ・デェミードヴァ/絵 児島宏子/訳
未知谷から出しているチェーホフの短編シリーズはこれで最後の1冊となった。
ラストを締めくくるにふさわしい、心がホッコリする話だ。
▼あらすじ
ふっくらとした姿で常に笑顔を絶やさないオーレンカは、周囲の人が思わず「可愛い女(ひと)!」(ドゥーシェチカ)と言ってニッコリと振り返るような女性。
遊園地の経営者クーキンは、毎日雨が降ってばかりで客入りが悪いこと、誰もが喜劇ばかり観たがり、
自分が出し物として選ぶ芸術的な芝居にはまったく興味がないことなどをいつも嘆いている。
オーレンカは、心からクーキンに同情を寄せ、いつしか2人は結婚する。
オーレンカは夫の仕事を手伝いながら、夫の漏らす不平不満をそのまま周囲に説いて聞かせるのだった。
ところが、クーキンはモスクワ滞在中に病気で急死してしまい、オーレンカは嘆き悲しむ。
毎日泣いて暮らすオーレンカに優しい言葉をかけたのは、材木商のワシーリー。
周囲のすすめもあり、魅かれ合った2人は結婚する。
オーレンカは材木商を手伝い、材木の値上がりなど、夫の話を熱心に周囲に話して聞かせた。
そんなワシーリーもまた数年後病気で急死する。
夫の不在時によく遊びに来てくれていた動物医のウラジーミルは、妻と別居して、息子とも会えずにいる。
ウラジーミルがシベリアに送られた間、オーレンカはまるで死んだように日々を送っていたが、
数年後、ウラジーミルが町に戻ってきて、妻ともよりを戻し宿を探しているというと、
「ぜひウチにいらっしゃい!」といって同居させ、家をあけがちなウラジーミル、
姉の家にいりびたっているその妻の代わりに、息子サーシャを自分の息子のように可愛がり、世話をすることで、オーレンカは再び輝きを取り戻すのだった。
自我も捨て去るほど相手に溶け込んでしまうほどの愛情。
ともすれば昔のタイプの女性として眉をひそめてしまいそうになるが、
そんな「無償の愛」を改めて考えさせられる物語だった。
挿絵を描いたのは、こないだ読んだ『カシタンカ』を描いた女性画家。
毎ページに温か味のあるセピア色の挿絵が入っていて、まるで歴史ある個人のアルバムを覗いているよう。
わざとコーヒー染みがあったり、端っこが破けていたり、古ぼけた工夫がされていて、さらに郷愁を誘う。
解説では、作者はリカ(リーディア・ミジーノヴァ)に熱い想いがあったということも書いている。
ネットで調べたら、キレイな女優さんなんだって。
▼解説抜粋
p.60
「作者の「可愛い女」に対する態度には、嘲笑など少しもなく、これはむしろ可愛い女に対する哀しみを透かした繊細なユーモアであり、とてもかわいい作品です」
p.62
「厳しい自然の中で一人では決して生き抜くことができなかったロシアの人々の熱い心根は厳寒に育まれてきた。広大で一人一人の相互空間の距離がどこよりも厳しい大きさを持つロシアでは、人々の孤独さもひとしおである。“山と山は出会わないが、人と人は出会う”というロシアの諺通り、人は出会い、出会いは至福のひと時となり、お互いを熱く思いやることになる」
指小辞(ししょうじ)=ある語について、それよりもさらに小さい意、または、親愛の情を表す接尾語。
陸続(りくぞく)=次々と連なり続くさま。
ブーブリカ=ロシアの輪形パンらしいが、画像が見つからず。どんなパンだろう???
アントン・P・チェーホフ/作 ナターリャ・デェミードヴァ/絵 児島宏子/訳
未知谷から出しているチェーホフの短編シリーズはこれで最後の1冊となった。
ラストを締めくくるにふさわしい、心がホッコリする話だ。
▼あらすじ
ふっくらとした姿で常に笑顔を絶やさないオーレンカは、周囲の人が思わず「可愛い女(ひと)!」(ドゥーシェチカ)と言ってニッコリと振り返るような女性。
遊園地の経営者クーキンは、毎日雨が降ってばかりで客入りが悪いこと、誰もが喜劇ばかり観たがり、
自分が出し物として選ぶ芸術的な芝居にはまったく興味がないことなどをいつも嘆いている。
オーレンカは、心からクーキンに同情を寄せ、いつしか2人は結婚する。
オーレンカは夫の仕事を手伝いながら、夫の漏らす不平不満をそのまま周囲に説いて聞かせるのだった。
ところが、クーキンはモスクワ滞在中に病気で急死してしまい、オーレンカは嘆き悲しむ。
毎日泣いて暮らすオーレンカに優しい言葉をかけたのは、材木商のワシーリー。
周囲のすすめもあり、魅かれ合った2人は結婚する。
オーレンカは材木商を手伝い、材木の値上がりなど、夫の話を熱心に周囲に話して聞かせた。
そんなワシーリーもまた数年後病気で急死する。
夫の不在時によく遊びに来てくれていた動物医のウラジーミルは、妻と別居して、息子とも会えずにいる。
ウラジーミルがシベリアに送られた間、オーレンカはまるで死んだように日々を送っていたが、
数年後、ウラジーミルが町に戻ってきて、妻ともよりを戻し宿を探しているというと、
「ぜひウチにいらっしゃい!」といって同居させ、家をあけがちなウラジーミル、
姉の家にいりびたっているその妻の代わりに、息子サーシャを自分の息子のように可愛がり、世話をすることで、オーレンカは再び輝きを取り戻すのだった。
自我も捨て去るほど相手に溶け込んでしまうほどの愛情。
ともすれば昔のタイプの女性として眉をひそめてしまいそうになるが、
そんな「無償の愛」を改めて考えさせられる物語だった。
挿絵を描いたのは、こないだ読んだ『カシタンカ』を描いた女性画家。
毎ページに温か味のあるセピア色の挿絵が入っていて、まるで歴史ある個人のアルバムを覗いているよう。
わざとコーヒー染みがあったり、端っこが破けていたり、古ぼけた工夫がされていて、さらに郷愁を誘う。
解説では、作者はリカ(リーディア・ミジーノヴァ)に熱い想いがあったということも書いている。
ネットで調べたら、キレイな女優さんなんだって。
▼解説抜粋
p.60
「作者の「可愛い女」に対する態度には、嘲笑など少しもなく、これはむしろ可愛い女に対する哀しみを透かした繊細なユーモアであり、とてもかわいい作品です」
p.62
「厳しい自然の中で一人では決して生き抜くことができなかったロシアの人々の熱い心根は厳寒に育まれてきた。広大で一人一人の相互空間の距離がどこよりも厳しい大きさを持つロシアでは、人々の孤独さもひとしおである。“山と山は出会わないが、人と人は出会う”というロシアの諺通り、人は出会い、出会いは至福のひと時となり、お互いを熱く思いやることになる」
指小辞(ししょうじ)=ある語について、それよりもさらに小さい意、または、親愛の情を表す接尾語。
陸続(りくぞく)=次々と連なり続くさま。
ブーブリカ=ロシアの輪形パンらしいが、画像が見つからず。どんなパンだろう???