本稿では前稿に続いて一軍戦の対局を振り返りたいと思います。三回戦は立命館大学と当たり、私のお相手は橋本氏でした。後手の橋本氏が角交換振り飛車を選択し、先手の私が地下鉄飛車で対抗して図の局面を迎えました。
既に先手が少しリードしている局面ですが、この△6五桂が厄介。以下▲7六金△7五歩に何とか金を助けようと、①▲8五金としましたが、代えて②▲6五金とし△同歩に▲5三とで優位を拡大できていました。本譜は①▲8五金以下△8八歩▲7九飛(悪手)△7三桂▲7五金に△7八歩と打たれ誤算に気づきました。そう、この金は最初からどうやっても助からない金だったのです。
以下▲2九飛と逃げましたが、それなら7九に途中下車せずにはじめから▲2九飛を選ぶべきでした。以下①△7九角も相当な迫力(以下▲5九玉で難解)でしたが、本譜は後手が②△8六角を選び、以下▲5八玉△7五角▲6六銀△8四角に▲2三飛成が実現し、好転を感じました。以下△5一飛に▲5三金!とねじ込んでいきました。絶対に勝ちたい、その一心でした。
この手は後手の飛車の効きを止めながら後手陣に迫り、なおかつ△3三金に備えた手のつもりでしたが、図でそれでも△3三金としたのが好手。以下▲同馬△同桂で馬を取られてしまいました。そこで腹を立てて▲3二龍としましたが、これが悪手。代えて冷静に▲7五歩としていれば、負けにくい形でした。
ここでは後手にチャンスが訪れていました。△6六角がその第一歩。以下▲同歩に△8五角▲7六歩△同角▲6七金△6九銀▲6八玉と進めば、そこで△5三飛が強烈。
以下▲同と△7七金以下、3二の龍を取れば、もはや先手が勝てる将棋ではありません。本譜は後手がこれを逃し、先手がうまく流れに乗ることができました。そして迎えた次の局面。
△7六角はハッとする手。この手は▲7三角△同玉▲8五桂以下の詰めろを消しながら、次に△6七角成以下の即詰みを見せた、詰めろ逃れの詰めろのように見えます。ところが、実際は▲7三角△同玉▲6三金△同玉▲7四銀以下、6六に銀が打てるので後手玉は即詰みだったようです。対局中は何となく詰んでいるように感じていましたが、ギリギリ逃れていたら目も当てられないので、30秒を読まれたときから受けの手を考え始めました。しかし、良さそうな受けが一向に浮かばず、かなり焦りました。そして50秒を読まれたときに慌てて指した▲4九玉が意外といい手で、結果的に勝利を手繰り寄せた一手となりました。
以下、数手進んで次の図。
ここで喜んで①▲8四歩と詰めろを掛けると△2九飛以下先手玉は頓死してしまいます(▲3九金は△4八銀、▲3九銀は△5八銀以下即詰み)。②▲2二飛が決め手。以下数手進んで後手の投了となりました。
前稿の冒頭で登場した某院生は、相手がどれほど強敵でも「十回に一回」を取りに行くように、と仰っていました。一局を振り返って、私の将棋の改善点が散見される内容だったとはいうものの、「十回に一回」の高波にうまく乗れたのが負けなかった一つの要因だと感じました。
次の四回戦は関西大学と当たり、私のお相手は岡田氏でした。角換わりの序盤から後手の岡田氏が右玉を選び、先手の私が雁木中住まいで対抗する戦型となりました。そこで迎えた次の局面。
△2七歩で苦戦を覚悟。この筋を警戒するべきでした。以下▲同飛の一手に△3五歩とされて次の図。
以下①▲4五歩と反発し、実戦はA,△同桂▲同桂△同銀と進行しましたが、代えてB,△3六歩でどうだったか。
対局中は▲4四歩でも▲3六同銀でも先手耐えていると考えていましたが、▲3六同銀に△3五銀!を見落としていました。▲同銀は△3六角なので、これは先手いけませんね。よって▲4四歩ですが、これにも△2六歩が頭にない手で、以下▲同飛△3七歩成▲同金△1五角とすれば後手がわかりやすかったようです。
戻って①▲4五歩では②▲2六飛で難解だったようです。危機管理能力が足りませんでした。
本譜は▲4五歩△同桂▲同桂△同銀に▲5五桂が勝負手。
ここでは①△3六歩と指されたときの対応がよく分かっていませんでしたが、本譜は後手が▲6三桂成~▲8二銀の筋を消す②△2三歩を選んだため、▲3五歩と取り返して虎口脱出。相手が一歩引けばこちらは一歩進めるので、これで先手有利となりました。しかし、後手も盛り返して次の局面。
ここで①△6七歩成なら形勢不明かつ難解な終盤が続いており、先手自信ありませんでした。一例ですが、△6七歩成以下▲8九金に△8七飛成を入れるのが好手(△7七龍がある)で、以下▲6三桂成△同金▲8八銀△5八と▲同銀△8一龍▲5五角と進み、やはり混沌とした形勢です。実戦は②△6七角成だったので▲6三桂成△同金▲6七銀△同歩成▲6四銀と食いつける格好になり、先手が抜け出しました。そして進んで次の図。
ここから▲5五桂△5二玉▲6三角△4二玉▲4三桂成(代えて▲6四角で合駒を一枚使わせる方が明快)△同金▲2三飛成で挟撃できる形になり、後手投了となりました。なお、後手に残された最後の手段として△5八銀があります。
対局中は取っても逃げても詰まないと思っていましたが、これを取ると詰みます(▲5八同金△同と▲同玉△6六桂打▲6九玉△5八銀▲7九玉△7八金▲同金△同桂成▲同玉△6六桂▲8八玉△8七飛成以下詰み)ので▲3九玉しかありません。以下△4七桂(△2七桂はギリギリ詰みません)▲2九玉△2八歩▲1八玉△2七銀▲同龍△同銀成▲同玉△2一飛▲2六歩△2九歩成と進んで逆転かと思いきや、▲6四角が絶妙で先手の勝ちは揺らがなかったようです。終盤まで難しい将棋でした。
一局を振り返って、私の将棋の脆弱性が露呈し、課題ばかりが山積した内容だったと言わざるを得ませんが、終盤が難しかったので、詰将棋を解いていてよかったと思いました。
最後の五回戦は近畿大学と当たり、私のお相手は朝倉氏でした。後手の朝倉氏のノーマル四間飛車に対し、先手の私が居飛車穴熊で対抗する戦型になりました。
今、後手が先手の▲1六歩を緩手と見て△5五歩と開戦したところ。本譜は以下▲5五同歩△同銀▲2四歩△同歩▲3五歩△5六歩▲同銀△同銀▲同金△5二飛▲5五歩△同角▲同金△同飛▲6五歩で先手が優勢になりました。
以下、後手のしっかりとした粘りにより、一時は形勢が接近したものの逆転には至らず、最後は穴熊の遠さを活かして先手が一手勝ちを収めました。
本局はA級残留を懸けた一戦であったため、一刻も早く勝ち星を挙げたいとの思いから、冷静さが失われた指し手もありました。反省点は少なくないものの、学生生活最後の一戦を白星で終われたのはラッキーでした。
最後に、これほど白星が集まった要因について少し述べたいと思います。
一つは、技術的側面から観て、戦型がいずれも複数回経験しているものであったということです。あまり時間を使うこと無くスムーズに指せたのは日頃の対局の経験値のおかげだったと思います。逆に、雲のジュウザのような我流終盤ゴリラほど、タチの悪い相手はいません。
もう一つは、精神的側面から観て、私の立場上、プレイヤー的要素が大きかったということです。裏を返せば、錦織氏が部内をまとめ、一軍戦に向けての雰囲気作りもしっかりやっていたので、私は自身の対局に集中することができたのだと思います。彼には感謝しかありません。また、逆に言うと、チーム作り等で負担や責任が一点集中しないような体制も今後必要なのかなと感じました。
改めて、私の一軍戦に悔いはありません。皆様ありがとうございました。
(追記)
やはり全部勝とうという気持ちが大事ですね。私がそのような基本的な姿勢を後輩達に示せなかったのもあまり良くなかったと思います。もちろん、団体戦には中学生の頃から出ているので、知識としてはその姿勢の重要性を理解しているつもりでした。ただ、その姿勢を裏付ける将棋の実力、自分のやって来たことに対する自惚れ、単純な努力の量、すべて足りませんでした。後輩の皆さんには是非、「強い将棋」を指して欲しいと思います。
それではまた来年お会いしましょう。皆様良い新年をお迎えください。