虚無交換日記

神戸大学将棋部の住人たちによるブログ

ゆく年くる年②

2021-12-31 17:25:24 | Nの本

 本稿では前稿に続いて一軍戦の対局を振り返りたいと思います。三回戦は立命館大学と当たり、私のお相手は橋本氏でした。後手の橋本氏が角交換振り飛車を選択し、先手の私が地下鉄飛車で対抗して図の局面を迎えました。

 既に先手が少しリードしている局面ですが、この△6五桂が厄介。以下▲7六金△7五歩に何とか金を助けようと、①▲8五金としましたが、代えて②▲6五金とし△同歩に▲5三とで優位を拡大できていました。本譜は①▲8五金以下△8八歩▲7九飛(悪手)△7三桂▲7五金に△7八歩と打たれ誤算に気づきました。そう、この金は最初からどうやっても助からない金だったのです。

 以下▲2九飛と逃げましたが、それなら7九に途中下車せずにはじめから▲2九飛を選ぶべきでした。以下①△7九角も相当な迫力(以下▲5九玉で難解)でしたが、本譜は後手が②△8六角を選び、以下▲5八玉△7五角▲6六銀△8四角に▲2三飛成が実現し、好転を感じました。以下△5一飛に▲5三金!とねじ込んでいきました。絶対に勝ちたい、その一心でした。

 この手は後手の飛車の効きを止めながら後手陣に迫り、なおかつ△3三金に備えた手のつもりでしたが、図でそれでも△3三金としたのが好手。以下▲同馬△同桂で馬を取られてしまいました。そこで腹を立てて▲3二龍としましたが、これが悪手。代えて冷静に▲7五歩としていれば、負けにくい形でした。

 ここでは後手にチャンスが訪れていました。△6六角がその第一歩。以下▲同歩に△8五角▲7六歩△同角▲6七金△6九銀▲6八玉と進めば、そこで△5三飛が強烈。

 以下▲同と△7七金以下、3二の龍を取れば、もはや先手が勝てる将棋ではありません。本譜は後手がこれを逃し、先手がうまく流れに乗ることができました。そして迎えた次の局面。

 △7六角はハッとする手。この手は▲7三角△同玉▲8五桂以下の詰めろを消しながら、次に△6七角成以下の即詰みを見せた、詰めろ逃れの詰めろのように見えます。ところが、実際は▲7三角△同玉▲6三金△同玉▲7四銀以下、6六に銀が打てるので後手玉は即詰みだったようです。対局中は何となく詰んでいるように感じていましたが、ギリギリ逃れていたら目も当てられないので、30秒を読まれたときから受けの手を考え始めました。しかし、良さそうな受けが一向に浮かばず、かなり焦りました。そして50秒を読まれたときに慌てて指した▲4九玉が意外といい手で、結果的に勝利を手繰り寄せた一手となりました。

 以下、数手進んで次の図。

 ここで喜んで①▲8四歩と詰めろを掛けると△2九飛以下先手玉は頓死してしまいます(▲3九金は△4八銀、▲3九銀は△5八銀以下即詰み)。②▲2二飛が決め手。以下数手進んで後手の投了となりました。

 前稿の冒頭で登場した某院生は、相手がどれほど強敵でも「十回に一回」を取りに行くように、と仰っていました。一局を振り返って、私の将棋の改善点が散見される内容だったとはいうものの、「十回に一回」の高波にうまく乗れたのが負けなかった一つの要因だと感じました。

 

 

 次の四回戦は関西大学と当たり、私のお相手は岡田氏でした。角換わりの序盤から後手の岡田氏が右玉を選び、先手の私が雁木中住まいで対抗する戦型となりました。そこで迎えた次の局面。

 △2七歩で苦戦を覚悟。この筋を警戒するべきでした。以下▲同飛の一手に△3五歩とされて次の図。

 以下①▲4五歩と反発し、実戦はA,△同桂▲同桂△同銀と進行しましたが、代えてB,△3六歩でどうだったか。

 対局中は▲4四歩でも▲3六同銀でも先手耐えていると考えていましたが、▲3六同銀に△3五銀!を見落としていました。▲同銀は△3六角なので、これは先手いけませんね。よって▲4四歩ですが、これにも△2六歩が頭にない手で、以下▲同飛△3七歩成▲同金△1五角とすれば後手がわかりやすかったようです。

 戻って①▲4五歩では②▲2六飛で難解だったようです。危機管理能力が足りませんでした。

 本譜は▲4五歩△同桂▲同桂△同銀に▲5五桂が勝負手。

 ここでは①△3六歩と指されたときの対応がよく分かっていませんでしたが、本譜は後手が▲6三桂成~▲8二銀の筋を消す②△2三歩を選んだため、▲3五歩と取り返して虎口脱出。相手が一歩引けばこちらは一歩進めるので、これで先手有利となりました。しかし、後手も盛り返して次の局面。

 ここで①△6七歩成なら形勢不明かつ難解な終盤が続いており、先手自信ありませんでした。一例ですが、△6七歩成以下▲8九金に△8七飛成を入れるのが好手(△7七龍がある)で、以下▲6三桂成△同金▲8八銀△5八と▲同銀△8一龍▲5五角と進み、やはり混沌とした形勢です。実戦は②△6七角成だったので▲6三桂成△同金▲6七銀△同歩成▲6四銀と食いつける格好になり、先手が抜け出しました。そして進んで次の図。

 ここから▲5五桂△5二玉▲6三角△4二玉▲4三桂成(代えて▲6四角で合駒を一枚使わせる方が明快)△同金▲2三飛成で挟撃できる形になり、後手投了となりました。なお、後手に残された最後の手段として△5八銀があります。

 対局中は取っても逃げても詰まないと思っていましたが、これを取ると詰みます(▲5八同金△同と▲同玉△6六桂打▲6九玉△5八銀▲7九玉△7八金▲同金△同桂成▲同玉△6六桂▲8八玉△8七飛成以下詰み)ので▲3九玉しかありません。以下△4七桂(△2七桂はギリギリ詰みません)▲2九玉△2八歩▲1八玉△2七銀▲同龍△同銀成▲同玉△2一飛▲2六歩△2九歩成と進んで逆転かと思いきや、▲6四角が絶妙で先手の勝ちは揺らがなかったようです。終盤まで難しい将棋でした。

 一局を振り返って、私の将棋の脆弱性が露呈し、課題ばかりが山積した内容だったと言わざるを得ませんが、終盤が難しかったので、詰将棋を解いていてよかったと思いました。

 

 最後の五回戦は近畿大学と当たり、私のお相手は朝倉氏でした。後手の朝倉氏のノーマル四間飛車に対し、先手の私が居飛車穴熊で対抗する戦型になりました。

 今、後手が先手の▲1六歩を緩手と見て△5五歩と開戦したところ。本譜は以下▲5五同歩△同銀▲2四歩△同歩▲3五歩△5六歩▲同銀△同銀▲同金△5二飛▲5五歩△同角▲同金△同飛▲6五歩で先手が優勢になりました。

 以下、後手のしっかりとした粘りにより、一時は形勢が接近したものの逆転には至らず、最後は穴熊の遠さを活かして先手が一手勝ちを収めました。

 本局はA級残留を懸けた一戦であったため、一刻も早く勝ち星を挙げたいとの思いから、冷静さが失われた指し手もありました。反省点は少なくないものの、学生生活最後の一戦を白星で終われたのはラッキーでした。

 

 

 最後に、これほど白星が集まった要因について少し述べたいと思います。

 一つは、技術的側面から観て、戦型がいずれも複数回経験しているものであったということです。あまり時間を使うこと無くスムーズに指せたのは日頃の対局の経験値のおかげだったと思います。逆に、雲のジュウザのような我流終盤ゴリラほど、タチの悪い相手はいません。

 もう一つは、精神的側面から観て、私の立場上、プレイヤー的要素が大きかったということです。裏を返せば、錦織氏が部内をまとめ、一軍戦に向けての雰囲気作りもしっかりやっていたので、私は自身の対局に集中することができたのだと思います。彼には感謝しかありません。また、逆に言うと、チーム作り等で負担や責任が一点集中しないような体制も今後必要なのかなと感じました。

 改めて、私の一軍戦に悔いはありません。皆様ありがとうございました。

 

 

 

 

 (追記)

  やはり全部勝とうという気持ちが大事ですね。私がそのような基本的な姿勢を後輩達に示せなかったのもあまり良くなかったと思います。もちろん、団体戦には中学生の頃から出ているので、知識としてはその姿勢の重要性を理解しているつもりでした。ただ、その姿勢を裏付ける将棋の実力、自分のやって来たことに対する自惚れ、単純な努力の量、すべて足りませんでした。後輩の皆さんには是非、「強い将棋」を指して欲しいと思います。

 それではまた来年お会いしましょう。皆様良い新年をお迎えください。


ゆく年くる年①

2021-12-31 16:51:27 | Nの本

 こんにちは、布本です。今回は令和3年度秋季一軍戦における私の対局を振り返りたいと思い、キーボードを執っている次第ですが、その前に、一軍戦のおよそ3ヶ月前から一軍戦に至るまでの話を少しだけさせてください。

 一軍戦のおよそ3ヶ月前、ようやく就活を終えた私には、一軍戦に通用するような将棋の実力もましてや将棋への情熱さえ露ほども残っておらず、新しく覚えた素人麻雀に明け暮れる日々を送っていました。もちろん、個人戦や一軍戦には少しだけ出たいという思いはありましたが、半年以上まともに指していない自分が、半年前の実力までまず回復できないだろうし、まして実力を取り戻したところでまず勝てない、だからもうやめようとさえ思っていました。そんな中で、部長の錦織氏がうまく部をまとめ、本当にありがたいことに、私たちが部室として使用している学生会館の和室の使用許可を取ってくださいました。久しぶりに赴いた部室で後輩と指すうちに、このまま終わるのは悔しいからもう一度最初からやってみようかという気になり、一軍戦を見据えてただひたすら実力を高める日々が始まりました。

 将棋を再開してからはじめのうちは、自分の研究を見返したりしていましたが、ソフト研究はその煩雑性ゆえに短期間の実力向上に対する費用対効果が非常に低いということを悟り、ソフト研究はきっぱりやめました。その代わりに重視したのが、ある程度の緊張感をもって指す対局の経験、すなわち、将棋倶楽部や将棋サロン、将棋部等における対面での対局、加えて将棋倶楽部24での対局です。とにかくこれらの場で指しまくり、すべての対局を持ち帰ってソフトにぶち込んで検討。これの繰り返しでした。

 もう一つ、私が力を入れたのが、終盤力の強化です。詰将棋はもちろん解きましたし、『羽生善治の終盤術』にも大変お世話になりました。

 これらのささやかな頑張りもあってか、一軍戦の2,3週間前頃には対面で指す将棋の内容に好調を感じるようになっていました。

 ところが、一軍戦が近づくにつれ、一軍戦に対する恐怖心が徐々に芽生え始めました。それを紛らわせるために無心で詰将棋を解いているうちはまだ良いものの、何も手に付かずにただ横になっている日も増えていきました。そんな状態でも水曜日には和室に出掛けていくわけで、自分でも何をしているのか訳がわかりませんでした。その日も部活が終わってある大学院生と帰っていたときに、ふと何を思ったのか、一軍戦に対してはどのような心持ちで臨めばよいのか、と非常に高次元的で曖昧な問いかけをしてしまいました。答えづらいあまり変な空気になるのかと思いきや、その院生は、間髪入れずに、「自分はいつも全部勝つつもりでいたけどね。皆がそう思っていないと団体戦は勝てないし。」といった趣旨の返答をしてくださいました。確かにその通りです。しかし、自分にはその姿勢を裏打ちする実力が根本的に足りない。そのときはそう感じていました。

 それでも一軍戦の日は確実にやって来ました。あまり気が進みませんでしたが、私はちゃんと家を出て会場に向かいました。

 

 

 一回戦は大阪大学と当たり、私のお相手は村上氏でした。彼は高校時代の友人なので、彼と指せると分かったときは非常に嬉しかったです。新型コロナウイルス対策のためウェットシートで盤駒時計を拭い、室内も換気が行き届いて、寒空の下、対局開始。私が後手で一手損角換わりに誘導し、先手の村上氏が王道の早繰り銀で迎え撃つ形になりました。そして銀交換が行われた後、次の局面を迎えました。

 今、後手が▲5四歩△同歩▲3四歩△同銀▲7一角の筋を防ぐために持ち駒の銀を4三に打ったところですが、あとの展開を考えれば△6三銀が有力でした。いずれにせよ、先手の目指す▲5五歩+▲2六飛の形があまりにも好形なので、局面は互角ながらも後手自信がありません。なお、図で▲7一角△7二飛▲8二銀は、数手前に指した△7四歩の効果で△7三桂と跳ねることができるので、無効。数手進んで次の局面。

 図では、先手が▲4五歩△同歩▲5六角と勝負手で後手を揺さぶっています。対局中は生角を筋違いに打つなんて、と▲5六角を軽視していましたが、対応を間違えると後手も一気に形勢を損ねそうです。直接咎めるなら①△4四銀左ですが、以下▲2四歩から一歩交換されて少し癪。本譜は目には目を、勝負手には勝負手をということで果敢に②△6五桂と跳ねていきました。以下後手が8筋の歩を切ることに成功し、次の図に。

 ▲8七銀のとき飛車の引き場所で少し迷いました。①△8一飛は▲4五角が飛車当たりなので、本譜は②△8二飛としましたが、結論から申しますと、①△8一飛が勝りました。以下▲4五角△5四歩▲8六歩ならば△4四銀と指す手が逆に角に当たり、角が逃げれば△3五銀がさらに飛車に当たります(下図)。よく読まないといけませんでしたね。

 実戦は②△8二飛▲8六歩となって問題の局面に至りました。

 後手はのんびりとしていると▲6六歩から桂馬を取られてしまいますので、ここで何か手を作らなければいけません。本譜は①△8八歩▲同玉に意気揚々とA,△4六角と打って茶をすすってくつろいでいましたが、この△4六角が大悪手。

 以下▲2四歩△同銀(まだしも△5五角でした)で加速し、▲4六飛が好手。以下△同歩に▲7三角で満貫直撃!

 先手は、攻めては次に▲6四角成とすれば、6五で威張っている桂馬を根元から刈り取ることが出来ますし、受けては数手前まで駄角だった5六の角が2九の桂馬を守っていて、もはや無敵状態。私としては恥ずかしながら、先程の△4六角の感触が良すぎて、何故こんなに急に悪くなったのか理解不能でした。しかしながら形勢が芳しくないのは事実なのでとりあえず息長く指そうと思い、図で①△8一飛としましたが、これがまた悪手。代えて②△6二飛とあくまでも6四に角を成らせないのが肝要でした。

 戻って問題の局面では②△4四銀左が正着。対して▲7三銀なら△3五銀が成立し、以下▲2七飛も△8一飛▲6四銀成に△4六角とすれば後手が指せていました。また、①△8八歩▲同玉にB,△4四角とこちらから打つ手なら、まだ後手が良かったようです。いずれにせよ、先手の▲2四歩を恐れすぎて、大局を見誤った末、後手にこのようなミスが生じたのだと思います。

 本譜は先手が調子よく優位を拡大し、次の局面。

 ここで①△8一飛とまわって2九への馬の効きを消そうとしましたが、▲7二馬で次に▲5三歩成~▲6二馬が生じてしまい、それなら単に②△3一飛が勝るところ。本譜は①△8一飛に▲7二馬A,△3一飛ですが、代えてB,△5四歩▲3三馬△同桂▲8一馬なら依然としてかなり苦しいものの、本譜よりはマシでした。この後先手の流れるような美技を前に後手陣は跡形も無く崩れ去って行きますが、後手も何とか食らいつこうとして次の局面を迎えました。

 ここでは先手にいくつか決め手がありました。まず、一見指しにくい①▲3二とは△同飛(6八金と7二馬の両取り)▲5四馬△6八成桂▲3二馬△1三玉(△同玉は▲5二飛以下詰み)▲3三銀で必至。②▲3三銀でも△1三玉なら▲2五桂!△同龍▲2二銀△同金▲同銀△2四玉に▲4二馬以下必至。本譜は③▲5七同馬△4三金で復活。しかし後手は依然として敗勢。対局中はなんとか形を作りたいという思いで指していました。進んで次の図。

 今、先手が後手玉の上部脱出を防ごうと▲3六桂と打った局面。私はこの局面で逆転したと思いました。なぜなら、この手は詰めろではなく、かつ、この手番で指す△5七金が詰めろであり、さらにそれを解除しながら先手が詰めろを掛けるには必ず▲3一飛△2二玉▲3三銀△3一玉▲5七金の手順を踏み、そして「その局面」における後手の持ち駒は飛角銀銀で、それだけあれば先手玉は詰まないはずがないと確信したからです。そして恐ろしいほどその通りに盤面は流れ、「その局面」はやってきました。

 改めて申しますと、後手は受けても一手一手の寄りなので、もう先手玉を詰ますしかありません。△7九銀▲同玉△5九飛▲6九桂(桂以外の合駒は詰み)に△6八銀が怪しい王手。

 実は先手玉が生き残る道はたった一つしかありません。今の目で見れば選べなくもないかもしれませんが、一軍戦という緊張感のある大舞台での60秒はあまりにも短いですね。

 ▲8九玉が唯一の生存ルート。これで先手が明快に勝ちでした。△6九飛成は▲9八玉で詰みません。(桂以外の合駒だと▲9八玉に△7八龍~△8七銀or金!以下詰み)両対局者は完全にエアポケットに入っており、私はこの筋をほとんど読みませんでした。なお、対局中は▲6八同金で足りないなと感じていましたが、▲6八同金は以下△同龍▲同玉△5七飛成に①▲同玉は△4六角!②▲同桂は△6六香!で以下なんと詰み。訳がわかりません。

 本譜は▲8八玉△7七銀成▲同玉△5七飛成▲同桂△6七金▲8八玉△7八金▲同銀と進み、次の図。

 一見すると①△7九角や②△7八龍から簡単に詰みそうですが、①は不詰み。②は以下▲同玉に△5六角と打てば簡単に詰んでいます。ところが対局中はなぜか△5六角について1秒も考えなかったので、おそらく5六に石か何か置かれていて打てなかったのだと思います。本譜は③△8七歩▲同玉△7五桂▲同歩△7八龍と何やら凝った手順で先手玉に迫りました。

 ここで先手玉に詰みがあります。(盤面反転しています)

 

 

 

 

 

 正解は△6七角(△5六角)▲8八玉△8七歩▲9八玉△8九角成▲8七玉△9八銀!▲同香△8八金▲7七玉△7八馬▲7六玉△6七馬です。実戦は△6七角▲6八玉のときの△7九銀を見落とし、初手を△6七銀から入ったので▲8九玉△7八角▲8八玉△8七金▲7九玉で不詰み。そこで投了しました。△7九銀をうっかりしたのはいけませんね。

 一局を振り返って、改めて詰将棋の大切さを確認できた一方で、悪手一発で将棋がほとんど終わってしまったことが残念でなりません。次に村上氏と当たるときは、もう少しいい将棋を指せたら良いなと思います。(実はこの振り返りを書くために棋譜を彼に送ってもらいました。彼には頭が上がりません。ありがとうございました。)

 

 一回戦が終わり昼食休憩となりました。ところが愚鈍な私は昼食を持参しておらず、(都会で育ったので近くにコンビニがあると思い込んでいました)結局、西氏や宮本氏が買ってきてくださった美味なおにぎりやパンをいただきました。大変失礼しました。

 

 さて、二回戦は京都大学と当たり、私のお相手は水原氏でした。先手の水原氏が四間飛車を選択し、後手の私が居飛車で対抗する形になりました。そして迎えたこの局面。

 図で一応聴牌なのですが、定跡に詳しい方なら後手は一体何をやっているのだと呆れてしまうかもしれません。それもそのはず、後手は△1四歩と△9四歩で手を消費しているので、もう居飛車穴熊に組みに行くことが出来ず、一見作戦負けだからです。ところが、後手にはある秘策があって互角の戦いに持ち込むことができます。後手はここから△7五歩▲同歩△4二金とし▲5六銀に△8六歩▲同歩△4五歩▲同桂△7七角成▲同桂△8六飛と進んで次の図。

 これで8筋炎上、8七の門突破間近で、後手戦えるというのが私の主張。しかし、以下▲5三桂成△同金寄に▲6六角が、大局観に優れかつ一局の命運を左右したほどの好手でした。

 以下、手筋とばかりに①△2二角とし、▲同角成△同銀と進みましたが、こうなると先手がゼロ手で2二に壁銀を建設したことになり、後手不満です。代えて意地でも②△4四歩とするのが正着。以下▲4五歩は△4六桂があるのでやりにくいです。

 先手としては次の△8九飛成が先手玉を捕捉するだけに、焦る局面であるはず。にもかかわらずこうした手で冷静にポイントを稼がれると、後手としては逆に焦らされているように感じました。以下少し進んで次の図。

 今、△7七歩成と桂馬を取った手に対し、▲6六飛と飛車を逃げた局面。後手としては指してみたい手がいくつかあり、かつ、持ち時間も大差で何でも出来そうな局面に思えました。対局中に考えていた候補手としましては①△7五角、②△8五角、③△3七桂、④△4四桂です。順に対局中の思考を整理していきます。

 まず、①△7五角ですが、以下▲6三と△同金▲6四歩△6六角▲6三歩成の局面をどう見るか。先手は美濃囲いがしっかりしているのに対し、後手陣は次の▲5三銀が詰めろ。これは後手いけません。次に②△8五角は▲6三とに備えつつ、美濃囲いの要の金を狙う攻防手で良さそうな手に見えます。ただ、懸念点としては▲2八玉のときにどうするかが分かりづらいです。また、③△3七桂は8九龍と協力して先手陣にクロスファイアを浴びせる攻撃力の高い手ですが、▲5九金と冷静に寄られたときに少し攻めが空振っている印象。最後に④△4四桂ですが、これも▲4五銀ではっきりしません。以上のようにあれこれ考えているうちに十数分を消費。慌てて②△8五角と打ちました。以下▲5九銀!△4四桂▲4五銀△4七歩▲2八玉△3三桂に▲6三とが好手で形勢を損ねたことに気づきました。

 これを取れないことを完全に失念していました。以下△4三金▲4四銀△同金▲6四角と進んで次の図。

 ここが最後の踏ん張り所でした。本譜は以下①△7六ととしましたが、▲8六歩が決め手。以下の私の手はすっかり自信を無くしており、戦う姿勢を失っていました。投了図は実力差がそのまま現われていたと思います。

 図では、②△2四桂がこの戦いを泥沼に引き込む唯一の勝負手。薄い方から攻めていくのが将棋の基本でしたね。このあと6三のと金を抜きさらに3一に銀を引きつければまだまだこれからの将棋。

 では少し前に戻って、どうすればリードを保てたのか、将棋ソフト(水匠)の意見を聞いてみましょう。

 結論から申しますと、ここは①△7五角か③△3七桂とすれば、後手がリードを保っていたようです。①なら以下▲6三と△同金▲6四歩△6六角▲6三歩成には△3七桂が詰めろで入り、▲5九金△6八と▲5三銀なら△3一銀が好手。こうすれば6六の角まで働き出し先手が僅かに届かない格好となるので後手が余していたようです。

 また、③△3七桂も有力で、▲5九金は△6七桂とし、以下▲同銀△同と▲同飛△4九銀でも▲同銀△6八とでも、とにかく先手陣に食らいついていけばわかりやすかったようです。

 こうして見ると実戦の後手の手順は、一手一手そのものはそれほど良くない手ではないのですが、総合するとちぐはぐで一貫性のない悪手になっていますね。

 一局を振り返って、勝負所を逃してから粘れなかったのがよくなかったなと思いました。どんな局面でも最善の頑張りが大切ですね。

 

 次局は立命館大学戦を振り返ろうと思いますが、今回は一旦ここで終わります。(続く)