前回鹿嶋は~、
市場メカニズムを排除した共産社会は、「命令⇒服従」を基本ルールとする強制社会になり、
長期的には労働者の連携活動は減退し、生産力は低下していく、~と述べました。
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ところがマルクスは、私有財産を禁止すれば、やって来るのは豊富で平等なユートピア社会だと確言しました。
壮大なる幻影でした。
だが、この幻影は19世紀末の人類の心の琴線を激しく震わせました。
少し理論的に示しましょう。
<アダム・スミスの人間洞察>
「経済学の父」アダムスミスは、名著『国富論』を書く前に、もう一つの名著『道徳感情論』で人間の心理を深く探求しています。
彼は、人間の心には利己心と共感心が同居していると洞察しました。
①利己心とは、自分個人の利益を求める心です。
②共感心とは、他者の心理に共鳴し共感する心です。
これは他者への哀れみ、同情を生み、さらに広く人間愛にも繋がってきます。
スミスは、こと財貨・サービスに関しては、利己心が人の心では優位に立つ、と洞察しました。
そして、この行動動機を主にしても、交換を自由にしてあげれば~そういう市場社会を保てば~生産力も成長し、同時に財貨分配の平等も実現する、と考えました。
もちろん、現実には、市場は十分に機能しない局面も出来て、不平等な局面も現れます。
スミスは、この局面が過大にならないように、賢くコントロールすれば生産力は成長していくとみていました。
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ところがマルクスは、この局面は部分的でなく、大半がそうだだと考えた。
それが市場経済の本質なのだ、ととらえました。
そこでもう、市場システムを否定するしかなくなっていきました。
<人間愛動機の経済システム>
そしてたどり着いたのが、上記②の共鳴心、同情、哀れみ、人間愛の動機を活かす道でした。
この心理局面は、不平等で苦しみを受ける側の人々への同情心を生みます。
他者の貧しさ故の苦しみをみるのは、辛いことです。
だがマルクスは、こちらの②の動機が直接働いて、他者の苦しみをみる辛さのない社会を実現する道を夢見ました。
実際彼は、私有財産を禁じた共産社会に、この夢を託しました。
前回述べたように、これは「賢人政治」に期待をかけるものです。
だがそれは壮大な幻影(イリュージョン)でした。
けれども、これは人心の琴線を激しく揺さぶりました。
人間は元々、愛と思いやりによって平等な理想世界を造りたいと切望する心を持っています。
マルクスはそういう社会が、手を伸ばせば実現できるところにある、と共産社会のビジョンを提供したのです。
そこでこのビジョンを受け入れた人は、夢の共産世界を現実のものとすることを激しく求めました。
<目標が輝くと犠牲をものともしなくなる>
だが、これを実現しようとして働く現実の舞台は私有財産を容認する資本主義社会です。
これを私有財産を禁じる世界にするには、現政府を物的な力で転覆させねばなりません。
それを志向すれば、現体制から過酷な弾圧を受けざるを得ない。
だが彼らは、理想の共産社会実現のためには、命の危険を冒してもいいとさえ思うようになっていきました。
「輝く目標」のもたらす効果です。
人はその目指す目標世界のイメージがあまりに素晴らしく輝くと、そのために自らの命を危険にさらしてもいいと思うようになっていくのです。
同時に人は、他者にもいかなる犠牲を強いてもいいと思っていきます。
そのために多くの人間を殺戮し地獄の苦しみを味わわせるのもやむを得ないと思っていくのです。
こうして暴力革命への情熱は、ごく自然に彼らの心に育ちました。
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だが前回に明かしたごとく、賢人政治によるユートピア実現は幻影です。
けれどもそのことを認識するには、人類には壮大な社会実験の体験が必要でした。
<ソビエトロシアの出現と「インターナショナル」>
人類は共産国家(最初はソビエトロシアで1917年に実現)を実現しました。
さらに、ソビエトは他国も共産国家にし、共産主義世界の実現に向けて主導しようとしました。
この壮大な夢の世界を実現する世界革命機関がいわゆる「インターナショナル」でした。
現在これが流れた「熱い時期」を知らない若い人々の比率が高くなってきています。
そこで、そのテーマソングの歌詞を紹介しておきましょう。
(歌そのものは、YouTubeなどで検索すれば、聞かれるのではないかと思われます)
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「インターナショナルの歌」
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立て飢えたるものよ、いまぞ日は近し。
覚めよわが同胞(はらから)、暁は来ぬ。
暴虐の鎖(くさり)断つ日、旗は血に燃えて。
海を隔てわれら腕(かいな)結びゆく。
いざ戦わん、いざ、奮い立て、いざ!
ああ、インターナショナル、我らのもの。
いざ戦わんいざ、奮い立ていざ!
ああ、インターナショナル、我らのもの。
♪
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力による革命を仕掛ける過程では、資本家への怒りと憎悪、闘争心、正義心などの感情を味わうことが出来ます。
この歌にはそうした心情が盛り込まれています。
<大逆事件と戦後全学連>
マルクス思想は日本にも入りました。
明治時代に早くも社会主義思想は入りました。
政府は、その代表者達を「大逆事件」をでっち上げて処刑しました。
だが、大正デモクラシーの時代にも、戦前昭和時代にも、この思想は人々の心をとらえ、共産党という政党と、多くの党員を生みました。
戦時中には、指導者達は投獄されましたが、敗戦後GHQは彼らを解放しました。
開放されたこれがいまの共産党になっています。
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その後、高度成長期にも、日本の若者、学生達の多くは運動家となって、この幻影の実現に身を投げかけました。
東大安田講堂を占拠した学生達が、警視庁機動隊に囲まれ、
ホースで水をかけられて一カ所に追い詰められ、
このインターナショナルを唄いながら逮捕されていきました。
その光景を報じるニュース映像も、ユーチューブで見られると思います。
(続きます)