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BL小説・風のゆくえには~プライベートな話をします(後編)

2018年05月04日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【浩介視点】


「勃たないんだよ……」
と、高校時代の同級生の溝部に相談したところ、

「最低でも2週間は禁欲」
と、アドバイスをされた。だから、それを決行しようと思う。

 溝部には、本当はおれがタチだということは内緒にしているので話せなかったのだけれども、実は「勃たない」のは挿入段階の話であって、慶が、お風呂でフワフワの石鹸を使って手でしてくれると射精はできるのだ。考えてみたら、それで余計にできなくなっていたのかもしれない。

『いいか? オレ達、若いつもりでも、もうソコソコいい歳なんだよ。今まで通りになんでも出来ると思うなよ』

 溝部の言うことはもっともだ。禁欲しよう禁欲。慶の誕生日にちゃんとできるように禁欲。

 問題は、それを慶になんて言うかだ……と、思っていたら。


「溝部から聞いたぞ?」

 帰宅早々の慶に言われた。飲み会の最中に溝部から電話がかかってきたらしい。溝部、うちからの帰りに電話したってことか……

(溝部……なんで言うかな……)

 こんなプライベートな話晒して!と怒られる……と身構えたのだけれども、慶はちょっと笑いながら、

「なんかよくわかんねえことも言われたけど、最終的にはスゲー慰められた。『お前のせいじゃない!』って」
「あ……ごめん…色々ぼかして話したから何かそういうことに……」

 男側の立場からしたら、慶は彼女をイかせられない男ってことになるらしい……

「話してごめんなさい……」
「いや……、で?2週間禁欲だって?」
「あ、うん」

 溝部が上手く話してくれたのか、慶が怒っていないようで安心する。

「とりあえずそうしてみようかな、と思って」
「ん。わかった」
「あ、でもでも」

 軽くうなずいた慶に慌てて手を振る。

「慶のことは、おれがちゃんと………」
「いや、それはいい。この際、一切やめよーぜ?」

 サバサバした口調で慶が言う。

「元々さ、お前が出来ないってなったときに、すぐやめりゃ良かったんだよな」

 慶、苦笑いを浮かべている。

「それなのに、そのあとおれが無理矢理抜いたりしたから……。それで余計に出来なくなってストレスになってるんじゃ逆効果もいいとこだったな。ごめんな」
「慶…………」

 『逆効果』ってことは、慶はおれのストレスを軽減させるために抜いてくれてたってこと……

 ああ、おれ、また慶の好意を踏みにじって……っ

「そんなことない! 慶、おれは………っ」
「だからさ」

 ポン、と頭に手を置かれ、言葉を止められた。ニッと笑った慶。

「運動でストレス発散しようぜ?」
「え」

 運動?

「雨がやんでくれればジョギングもいいんだけどなー。ま、明日は、ランニングマシンだな。並んでやりたいから一番に突撃かけよう」
「………………」

 あ、ジムに行くってこと……

「嫌か?」
「ううん。行く」

 慌ててぶんぶん首を振る。慶がおれのことを考えて言ってくれてること、慶がおれと一緒にしたいと思ってくれてること、嫌なわけがない。

「お前は何したい?」
「……………」

 優しく言ってくれた慶の手をきゅっと握る。温かい手……優しい優しい慶。慶の優しさに浸りたい。

「あのね………ジムから帰ってきたら、テレビとか観ながらイチャイチャしたい」
「イチャイチャ?」
「イチャイチャ」

 きゅっきゅっきゅっと手を握る。

「高校生の時みたいに」
「あー……なるほど」

 うんうんとうなずいた慶。

「高校の時、おれ達、感心に一回もやらなかったもんなあ」
「………。正確には、2回だけ抜きあいっこしたけどね」
「そうだっけ?」
「…………」

 あいかわらず、慶の記憶は適当だ。おれが覚え過ぎてるのかもしれないけど……

「ま、とにかく、イチャイチャな」
 クスッと笑った慶が、触れるだけのキスをくれる。

「明日は午前中はジム。午後はうちでイチャイチャで決定」
「うん」

 ぎゅっと抱きつくと、頭をイイコイイコって撫でてくれた。慶の腕の中はいつも居心地がいい。高校生の時からずっと変わらない。


***


 それから2週間後。4月28日土曜日。慶の誕生日。

 仕事帰りの慶と待ち合わせをして、最寄り駅近くで食事をして、ケーキを買ってマンションに帰って食べて、それから一緒にお風呂に入って、ベッドに移動して………



「………………………………ごめん」
「バカ謝んな」

 ショックのあまりベッドに突っ伏したままのおれの頭を、慶が優しく優しく撫でてくれる。……けれども、心は少しも晴れない。

 やっぱり、できなかったのだ。まるで自分のものではないみたい。固くなってるのか柔らかいままなのかも分からなくて………

「お前緊張しすぎじゃね? スッゲー心臓ドキドキいってたぞ」
「……………」

 緊張とかそういうレベルの話じゃない気がする。おれ、もう、一生できないのかもしれない。

「どうしよう……」
「どうしようって……まあ、また今度ゆっくり」
「そういってその今度もできなくて、次もできなくて、ずっとずっとできなくてってなったら、おれもうダメじゃんっ」

 不安に押しつぶされそうで思わず叫んでしまう。

「一生できなくなって、それで慶がおれのこと呆れて嫌いに……痛っ」

 ゴッとこめかみを小突かれた。振り仰ぐと、慶が心底呆れたような顔をしてこちらを見下ろしている。

「アホか。んなことで嫌いになるわけねえだろ」
「だって」
「だってじゃねーよ」

 ぐいっと引っ張られ、ベッドの上に座らさせられる。

「お前のことが好きっていうのは、もはやおれの人格形成のすべてだからな。今さら何があったって変えようがない」
「慶……でも」

 そういってくれるのは、本当に本当に嬉しいし、慶がおれのことを好きでいてくれてるのは、充分分かってる。けど、でも……

「なんだ」
「…………。これから一生、慶と一つになることができないって思ったら……つらい」

 そう。それが一番つらい……

「………それはさあ」

 慶は、んーと腕を組んで唸ると、

「挿入だけが全てではないと思うけど……、まあ、そこまで言うなら病院にいってみてもいいかもな」
「病院にいってもダメだったら?」
「そうしたら……、あ!」

 慶は急に大声で叫ぶと、「そうだそうだ!」とはしゃいだようにおれの手を取った。

「いいこと思いついた!」
「いいこと?」

 何? と慶の湖みたいな瞳をのぞき込む、と。

「おれがすりゃいいんじゃん」
「え?」

 する?

「だから、おれがタチになればいいって話だよ!」
「……………あ」

 そっか………そんな手が………。すごい発想の転換。

 慶は楽し気に手を叩くと、

「よし。じゃー、また落ち着いたころにやってみて、ダメだったら病院行くことにして。それでもダメだったら、おれがお前のこと、じーっくり開発してやるからな♪」
「慶…………」

 明るい明るい慶。慶はいつでも前向きで、後ろ向きなおれのことを引っ張っていってくれて……

「………。男同士って便利だね」
「だなー。どっちもありだもんなー」

 くくくと笑った慶。

「とりあえず、今日はもう寝ようぜ? パジャマ着る」
「……………うん」

 以前、慶の妹の南ちゃんがプレゼントしてくれた色違いのパジャマに手を通す。慶はMでおれがLなことに慶はちょっとブツブツ言ってたけど、お揃いを着るのは嬉しい。

「明日は朝からダラダラしような?」
「パジャマパーティー?」
「なんだそれ?」
「パジャマ着たままダラダラすること」
「ふーん?」

 なんかよく分かんねえなあ……と言いながら慶はおれの頭を引き寄せてオデコにキスをくれた。

「おやすみ」
「おやすみなさい」

 言ったそばから慶はすぐに寝息をたて始めた。おれが出来なかったことなんて、何でもないことのように、何も気にしていないように、あっさりと。その寝顔が苦しいほど愛しい。

 この2週間、おれの我が儘に付き合って、キスとハグ以上のことはしないでくれた慶。いつもよりも、キスの回数が増えた。ハグの回数も増えた。溢れるほどの愛で包んでくれた。

 今日はそんな慶をガッカリさせないようにって頑張ったけど、やっぱりダメで……。でも慶はそんなおれのことも受け入れてくれて、もし、このままおれが一生できなくても、慶がしてくれるから大丈夫だって言ってくれて。それがどんなに心強いことか……慶、分かってる?

「慶………」

 ぎゅっと抱きつく。慶の腕の中は居心地がいい……




 翌朝……

 違和感を感じて、目が覚めた。なんだろう……、と!!!

「慶!?」
「あ……やっぱり起きたか」
「起きたかって……っ」

 そりゃ起きるって!
 全裸の慶がおれにまたがって、左手でおれのあそこを扱いていて、右手で……

(うわ……っ)

 興奮しすぎて血管切れるかと思った。慶の右手……後ろに回ってる。ちょっと眉を寄せてるその顔から分かる。慶、自分の指入れてる。は……初めてみたっ!

「お前、すっげー朝勃ちしてるから、今ならできんじゃね?と思って」
「……………」

 朝勃ち? あ、いつの間にパジャマのズボン、膝のところまで下ろされてる。って、そ、そんなことより……

「慶……今、何本入れてる?」
「あ? 2本」
「…………」

 うわ……見たい。興奮が止まらない。慶の切ないような瞳。細かく動いている腕……。見たい。見たい……

「ね、慶、2本じゃ足りないでしょ? さん……」

と、言いかけた時だった。

「そう。足んねえんだよ」

 慶のきっぱりした声。

「だから、お前の、くれ」
「え?」

 聞き返す間もなかった。

「!!!」

 全身が快感で震えた。久しぶりの、慶の中……っ!

「あ……熱っ」
「……っ」

 強引に押し進められ、股と尻がくっついた。でもこんな入れ方したら、慶……っ

「慶、大丈……っ」
「………早く」
「……っ」

 慶の切ない瞳に心臓を撃ち抜かれた。
 上半身を起こされ、騎乗位から正常位に体勢を入れ替えさせられる。慶が自分で膝の後ろを抱えて、誘うように腰を動かしてきて……

「……慶っ」

 あとはもう、無我夢中だった。
 ひたすら腰を振って、余計なことは考えないで、慶の湖みたいな瞳だけを見つめて、慶のかすれた喘ぎ声だけ聞いて……

(ああ、慶………)

「愛してるよ、慶……」
「ん……」

 唇を重ねる。背中に立てられた爪の痛みが快感に変わる。そして……


***


 昼過ぎまでダラダラとベッドの中でイチャイチャして過ごした。

「パジャマパーティーって言ったのに、パジャマ着てねえじゃん」
「あはは。ホントだ」

 シャワーを浴びた時以外、ずっとずっとくっついていた。溶け合うくらいくっついていて……ああ、なんて幸せなんだろう。

「さすがにそろそろ起きるか?」
「ん。じゃ、コーヒーいれるね」
「おお。サンキュー」

 慶をベッドに残したまま、パジャマを羽織って台所に移動する。ふとスマホに目が止まった。

(溝部に報告……しとこうかな)

 細かいことは書かないで、一言だけ。

『できた!ありがとう!』

 うん。これだけで。
 本当は「2回もできたよ」って言いたいけど、さすがにそれはまずいよな……と思っていたら、

『おめでとう』

と、返事がきた。


「おめでとう………かあ」
「なんだ?」

 のっそりとベッドから這うように出てきた慶に、にっこりと伝える。

「おめでとうって、溝部から」
「ああ……誕生日か」

 昨日だけどな……と言いながらソファに寝そべった慶が猫みたいで可愛い。

「うん。お誕生日おめでとう」
「ん」

 コーヒーのセットをしてから、丸くなっている慶の横に座る。頭を撫でると、モゾモゾと慶がおれの膝に頭をのせてきた。

「お昼、何食べたい?」
「んー………パスタ」

 明るい日差し。漂ってくるコーヒーの匂い。

「ミートソース? カルボナーラ?」
「ミートソース~~」

 幸せな日曜日。慶の誕生日の翌日。

 溝部達も幸せに過ごしてるといいな、と思う。
 
 

---


お読みくださりありがとうございました!
私、浩介×慶に飢えてたんだなあ…と思った今日この頃……
でも、せっかくなので、真木×チヒロも完結させますっ。
が、立て込んでいるため1回お休みで、来週の金曜日に更新させていただきます。
お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!!有り難すぎて泣いてます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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