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BL小説・風のゆくえには〜ごくらくごくらく

2021年01月31日 17時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【慶視点】

 浩介の実家から電気毛布をもらった。

 現在、お母さんは「終活中」だそうで、あちこち片付けていて、処分する前に浩介に必要かどうか聞いてくる。

 2回ほど、高級な鍋とお皿を何も言わずに送り付けてきたため、浩介が「いるかどうか聞いてから送ってほしい」と言ったら、毎週のように品物が写った写真がメールで送られてくるようになったのだ。

「断り続けてるけど、さすがに一つぐらいはもらわないとだよね……」

と、浩介が頭を抱えているので、一緒に写真を見ていたところ、発見したのがこの電気毛布だった。

「あ~~極楽極楽」

 風呂上がり。ソファに座って本を読んでいる浩介の膝枕。温かい毛布。これを極楽といわずして何を極楽といおう。

「ごくらくごくらく……って何だっけ?」

 浩介がおれの言葉を拾って、首をかしげた。

「ごくらくごくらく……」
「って、極楽は極楽だろ。フツーに爺さんとかが風呂入るときとか言うだろ」
「そうなんだけど……」

 んー、と悩みはじめた浩介。

「そういうの、スキーの時、菅原が言ってたような……」
「そうだっけ?」

 あいかわらずの記憶力の浩介。菅原なんて、たいして仲も良くなかったので、おれは名前も顔もすぐには出てこない。でもふいっと場面がよみがえってきた。高3のスキー旅行の時の食事の席で、一人一言ずつ、と言われて、菅原がそれを言って、ダダ滑りして……。あとから「それなんなんだ?」って浩介と一緒に聞いた……けど、忘れた。

「うん。ええと……、あー……出てこないなあ」

 すぐに浩介はスマホで調べだしたけれど、「極楽極楽」でも「ごくらくごくらく」でもピンとくるような結果は出てこないらしい。

「委員長なら知ってるかな。菅原と同じグループだったし」
「そうだな……」

 言っているそばから、浩介は委員長にメッセージを送りだした。浩介と委員長は本の趣味が合うため、よくやり取りをしている。おれの分からない世界なので昔から正直妬いていたりするけれど、さすがに文句は言わない……

「あ、早い。もう返事きた」
「おお。なんだって?」

 起き出して、浩介のスマホをのぞきこむ。……と。

「『おきらくごくらく』で調べ直せ……?」
「おきらくごくらく……」

 スルスルと浩介の長い指がスマホの画面を滑る。おきらくごくらく……

「ええと……?」
「ああ、そうか。これか。思い出した。見たことあるぞ」

 検索結果の中に出てきた、一時期だけやっていた子供番組の名前に当時の記憶がよみがえる。妹の南が見ているのを何度か見かけたけれど、すっかり忘れていた。

「あったな、こんなの。すげーシュールな子供番組」
「そうなんだ……見たことない……」

 浩介は実家にいたころ自由にテレビを見ることができなかったので、余計に見たことがないのだろう。

 浩介はあからさまにガッカリした様子になると、スマホをほっぽりだして、毛布ごとおれをむぎゅーと抱きしめてきた。

「あー、また思い出共有できない。悔しい……」
「いや、これはおれらの年代では、見たことあるやつどれだけいるか……」
「慶、見たことあるんでしょ。委員長も知ってたし」
「それは……」
「おれ、ほんと知らないことばっかり」
「そんなことは……」

 ない、とは言ってやれない。浩介はこの年代が普通に知ってるアニメやアイドルをあまり知らないのだ。勉強家なので後から色々情報を仕入れてはいるけれど、実感として知らないというか……

「おれが見せてもらえたテレビなんて、ニュースとか教育系の番組とかだけで……。そう考えると、うちの母親って今も変わってないよね。おれがいらないもの勝手に押し付けて……」
「いやいや」

 その言い草はさすがに浩介のお母さんが気の毒で、浩介の言葉を遮った。

「今はちゃんと、いるかいらないか、聞いてから送ってくれてるだろ」
「…………」
「この電気毛布もすげーいいし」
「…………」
「な?」

 浩介の目を覗き込む。と、浩介は、一回、二回、三回、と大きく瞬きをしてから、おれの首元に顔をうずめた。

「慶……」
「………」
「………」
「………」

 ゆっくりと押し倒され、視界が天井になる。

「………浩介」

 そっと頭を撫でてやる。

「毛布、あったかいな」
「うん……」
「もらえて良かったな」
「……………」

 浩介は何かを考えるようにしばらく押し黙っていたけれど………

「…………大河ドラマは面白かった」

 ボソッと、言った。
 子供の頃見ていたテレビの話だ。
 そういえば、昔、なんでそんなに歴史に詳しいのか聞いたら、大河ドラマを欠かさず見てるからかもって言ってたな。

 今も、欠かさず見てる。それは、浩介のご両親も同じだ。
 
「そうか」
「うん」

 ぎゅうっと抱きしめられ、心の中も温かくなる。

「ごくらくごくらく」
「だな

 ゆっくりゆっくり、頭を撫でる。

 ほんの少しの記憶の肯定、温かい毛布。

「慶がいてくれるから、極楽」
「ん」

 一緒にいられる幸せを、温かい毛布で包み込む。
 




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お読みくださりありがとうございました!
いつもは火曜日と金曜日の朝7時21分に更新しているのですが、1月が終わっちゃうー!!ということで、書こうと思っていた話ではなく、サクッと終わる話を慌ててーつ、お送りいたしました。
あいかわらずのオチのない日常話にお付き合いくださり本当にありがとうございます!
次回はバレンタインの話……だけどきっと更新はバレンタインを過ぎると思います💦
またお時間ありましたらよろしくお願いいたします!

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